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馨 → スッキリあかりん 視点。
僕は彼女に病院に行ったことがあるか質問してみた。
行ったことがあると答えたので、僕がこうではないか? と告げた病名に対しては…
「まあ、そうですね。実際にお医者様にそう宣告されてしまいましたし…」
「今はそこに行っているの?」
「診察受けたときは私が表に出ていたんですけど…何時の間にかもう一人の方が表に出る時間が多くなっていったんです…」
原因は言わずもがなだな。母親と義父だ。
「それで、その後どうなったか、私自身分かりません。おじさん…城野さんに聞けばわかるかもしれませんが…」
「城野さん?」
朧が首を傾げているが、僕たちは一回会ったことがある。
「常盤さんが始めてここに来たときに、外に出て店に寄っただろう? そこの店長のことではないかな?」
「その通りです。記憶力がすごいですね。葛ノ葉様」
朧は思い出し、納得してくれたようだ。
僕は朧から、朧は溯夜から彼女の過去について聞いたけれども、城野という名前は出なかった。溯夜はすごく短絡に、結果論だけを僕たちに話したのだと、僕は思った。常盤さんに対しての配慮だろう。
「そこまで城野さんとは親しいのかい?」
「ええ。おじさんは第二の父親のようなものですよ」
“第二の父親” か…彼女の家庭環境を省みると手助けする人は必要だっただろうが…
「ああ、そうだ。おじさんに会いに行きたいな。今はお昼ですし、溯夜様がお帰りになられたときに許可を頂いたら、会いに行けるでしょうか?」
何故わざわざ溯夜に許可を取る必要があるのだろうか? 彼女の理念が分からなかった。
+++
今は午後の3時台。溯夜様がお帰りになられました。
「溯夜様」
「何だ?」
「おじさん…城野さんに会いに行っても宜しいですか?」
その言葉は溯夜様にとって意外だったよう。
私も外には出たくないけど、どうしてもおじさんと話がしたい。とりあえず報告だけでも入れておかなければ。溯夜様以上に心配をいつもかけているから。
「別に、構わないが…連絡先は分かるのか?」
「ええ、多分おじさんは休みですよ」
おじさんが何をしているかは大体分かる。その生活を今も続けているなら…だけど。
「朱莉ちゃん」
「何でしょうか?」
「貴方、スマホは持っているの?」
ああ、忘れていた!! 使い方が全くわからないからすっかり放置してたんだった。色々操作が出来るということで感動して、今の携帯電話 (すまーとふぉん) はすごく進化したんだなーと感じてそれっきり…
というか、私が表に出る時間が少ないもんだから、もう一人の私はその携帯電話を何処に置いているのか、それとも使っていないのかもさっぱりわからない。
「溯夜様から頂いたものがあるはずなんですが…」
さすがにどこにあるかわからないとは言えず、言葉を濁した。
どこに行ったかわからなかったとしても、私の部屋 (仮) にある電話を使えば良いことだしね…
「朱莉の携帯電話なら…」
とか、呟きつつ、溯夜様がログアウトしました。その間はたったの数秒間。ログアウトした、と思った瞬間にドアを開けてログインしてきました。その手には携帯電話が。何それ怖い。
“何で場所分かるんですか” とか、そんな質問はしませんよ。答えが怖かったから。
ちなみにですが、私は小さいころ、それも小学校の3、4年生くらいに携帯を持っていたけど、常盤姓に変わってから携帯には一切触れていない。以前のも解約されてしまった。
だから、パカッと開いて、ボタンを押すタイプのやつしか知らなくて。最近みんなが使っているすまーとふぉんも操作方法一切知らない。それを何故か知っていた溯夜様が新品のすまーとふぉんをこの私に貸して下さったというわけなのですよ。あくまで貸し。
「そういえば…朱莉、スマホの使い方を教える約束をしていなかったか?」
「………いえいえいえ、してませんしてませんよ!!」
使い方を教えるとなると、画面を見るために私が溯夜様にみみ密着しないといけないじゃありませんか!!
「そ、それにですね!!今回は私が出ていますが、非常に稀なことで普段は私、出ていませんよ!! もう一人の私に教えた方が良いですよ!!絶対に!!」
大体、私がこの時間帯に出てこられたの何ヶ月ぶりだと思っているんですかね? 溯夜様?
「そっちの朱莉は教えても、忘れるだろう?」
「うっ…」
確かに。 “もう一人の私” はそういう性格だということは、何となーくだけど分かるし、溯夜様の御話からもそれが伺えるのです。あと、よく考えないで行動するところや、特撮に執着していることとか。
「まあ、とにかくそこは一旦置いたらどうかい? 今は城野さんに連絡を取ることが大事だし。常盤さんが電話番号教えて、溯夜が操作したら?」
何という御助け舟!! また、葛ノ葉様に助けられました。表情は読めませんが、良い人…っぽいかな?
といっても、それで私の緊張感が取れる、というわけでもないんだけど…
「…そうだな」
とりあえずという形で溯夜様も納得してくれたようです。
私が電話番号を教えて、何らかの動作をされたのち、溯夜様は私にすまーとふぉんを渡してきました。
始めて使ったためか、出ない可能性もありましたが、幸運なことにおじさんは出てくれた。
「ぐこういざん」
突然何を言い出したのかと言いたげな皆様を尻目に、私はおじさんに “合言葉” を言った。




