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スッキリあかりん → 馨 視点。
私は今、瑞貴様をぼんやりと見つめている。
はあ…
やっぱり知れば知るほど母親にそっくりな気がする。
あることを除いては。
私の実母、常盤麗華は瑞貴様同様に頭がとても良く、絶世と呼べるほどの美女。
そのDNAが私にも受け継がれているはずなんだけど…多分それは姫香に行ってしまったんだろう。私は所詮、へいぼーんな人民ですよ。
そんな母親と瑞貴様が、良く似ていると思われるのは相手に有無を言わせず、丸め込んでしまうこと。これが最大の類似点だと思われます。
でも、この類似点のベクトルが違う方向に向いている。瑞貴様は良い方向へ。母親は最悪の方向へ。
母親の所業は私には許す気がない。おじさんは私よりも母親のことを憎んでいると思う。
「…莉……ん……」
しかし、憎んでいたとしても、それによって何か行動する気にはなれない。仮にも血の繋がった親子だから。
向こうは自分の娘が姫香だけとか言い張るかも知れないけど…
「朱莉ちゃん!!」
はっ!!
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい全て私が悪いのです!! ごめんなさいごめんなさい…」
「朱莉!! 大丈夫か!?」
肩を揺さぶられて、現実世界へと帰還した。過去のことを思い出してしまい、混乱してしまったようだ。
「す、済みません。取り乱してしまって…」
“何でか?” と聞かれることを覚悟したが、溯夜様は聞いてこられませんでした。
あー、助かった。今それを聞かれたら、また混乱しそうで怖い。
「そうか…済まない朱莉。叔父さんに呼ばれたから一旦席を外す」
ん?
大変ですね…
というか、わざわざ私に知らせなくてもよろしいですよ?
「朱莉のことが心配だが…」
さっきボーッとしていたことかしら?
「もう大丈夫ですよ、溯夜様。学園長が御呼びになられているなら、私なんかよりもそちらを御優先して下さい」
「………」
溯夜様は私の顔をじーっと見つめています。
これが特撮の場合、“あっ、何かある!!” と感じる場面ですよ!!
まぁ、別にこれは特撮でなくても当てはまるね。
いや、これも私以外の女性だったら失神してしまう方もいるでしょうね。溯夜様の端正過ぎる顔が目の前で…!! とか。でも、私はひたすらに顔を逸らそうと頑張っています。まぁ、無駄な努力ですね。
「溯夜」
葛ノ葉様に呼ばれて、溯夜様は目を逸らしました。ナイス葛ノ葉様!!
「………分かった」
素直に従う溯夜様なんて、本当にレア中のレア物じゃないですか!! 驚いている溯夜様よりもレア物です。
というか、結構コロコロと表情変えますね。溯夜様。それとも、これが普通?
+++
「さてと、常盤さん。君に話があるんだ」
「はい…」
彼女の様子を観察する。身体が震えているし、目を合わせようとしない。
本能的に僕らみたいな人物がダメなんだと、この目で認識できた。論より証拠とは良く言うものだけど、その通りだと思うね。
“彼女” に初めて会えたのは全くの偶然。だが、 “彼女” に会った以上、話をする必要があった。溯夜抜きで。
溯夜は彼女に甘過ぎる。彼女のことを擁護し、話が円滑に進まないだろう。
「私たち、溯夜から貴方の事情はある程度聞いているわ。でも朱莉ちゃん、この問題を赤の他人である私たちに溯夜を通してだけど…安易に話して良かったの?」
朧はその問題を気にしていた。
家庭問題も絡んでくるし、容易に解決出来る問題でも無いデリケートな部分だからだ。
「えっ、どうしてですか? 溯夜様に信頼している人にはお話しても良いと言ったんですけど…」
「でも、普通こんな事情は他人に話すものではない。溯夜は僕達を信頼して話してくれたんだろうけどね…」
「…なら、それで良いと思います。溯夜様のなさることには間違いはないはずですよ!!」
何故そこまで溯夜を信用しているかが分からない。
彼女の経緯を聞けば、僕たちみたいな人物を一生信用しないと思っているほうが余程納得がいく。
「どうしてそこまで溯夜を信用出来るの?」
「ちょっと馨…」
「少し黙ってて、朧。これは僕にとっては大事なことなんだ」
ちょっと上目線になってしまったのかもしれないけど、これは溯夜の部下である僕の領分なのだ。
彼女は震えながらも答えてくれた。
「溯夜様はとても優しい御方です。私をあの場所から助けてくれました。私はそのことに本当に感謝してます。
もちろん、まだ震えたり、怖かったりすることがありますが…溯夜様は信用に値する御方だと思っています」
ああ、大丈夫だ。
彼女は上辺だけではない、ちゃんと溯夜のことを見てくれている。
「溯夜を優しいなんて言った人は始めてだよ。大体、溯夜の容姿だったり、家柄のことを見て信用に値すると言うんだけどね」
「いや、それは正しいと思いますよ」
意外だった。今まで溯夜に寄り添ってきたのは容姿と家柄といった外面性の影響が大きい。溯夜はそれを嫌っていた。でも、彼女は溯夜の内面性を理解して “優しい” と言ってくれた。
それは長年溯夜と付き合ってきた僕も嬉しい言葉なのだが…彼女はそれを否定した。
「そういうところは一番最初に人から見られるところなんです。普段から身だしなみを整えることが大事なように。容姿や家柄という点で人を見るのは至極当然のことではないでしょうか?」
平坦な声で彼女は主張した。
はっきりと。自分はこの主張を曲げる気がないのだとその声は語っていた。
「私はそういう目で人を見れなくなってしまいましたから…異常なんですよ。きっと…元の生活なんて望めやしない」
最後の悲嘆は過去のことなのか、それとも普通の生活が送れないことに関してか。
「朱莉ちゃん。そんなことは無いわ。容姿や家柄だけで人を判断しない人だっているでしょう? そう悲嘆にくれることはないわ」
そういう朧の声は一切彼女に届くことは無かった。
もうこれ以上、この話を続けたとしても、平行線しか辿らないだろう。
だから、僕は別の話題を口にした。




