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湯呑みを溯夜様に持ってもらい、緑茶を飲んだことで、ひとまず落ち着きを取り戻す。震えも大分治まってきた。

ゆっくりと時間をかけて飲み、深呼吸してから、意を決して立ち上がる。


学園長の方を向いたが、そこには義父の面影は存在しなかった。


「この度は申し訳ございませんでした。私が取り乱してしまったばかりに」


「いやいや、大丈夫だよ。常盤さん。君の症状は私も知っているんだから。ただ、程度については驚いたがね。

ところで何をしに私のところへ来たのか教えてくれないかね?」


「えっと…御礼を言いに来ました」


震えがなくなったとは言え、完全に学園長への恐怖心が消えたわけではない。

学園長の一言一言に私は過敏に反応して、震える。


「御礼?」


「私をここに住まわせていただいて、本当に感謝しています。ありがとうございます」


「ああ、そのことか。それなら溯夜の方に御礼を言ってあげてくれ。私は常盤家の状況があるとはいえども、親元から強引に手放すことには賛成しかねていたんだ」


「そう…なんですか」


学園長は私を自分の家に迎え入れることに反対していたんだ…それはそうよね。こんな面倒な自分のところの生徒、受け入れたくないだろうし…




じゃあ、何で私はここにいるんだろう?




「同じことをいうようだけど、私は家庭の事情に外部の人間が容易に入り込んではいけない…と考えていたんだ。でもね、溯夜が…」


「もう良いだろ…叔父さん」


「全く…お前は話を最後まで聞いた方が良いぞ」


「叔父さんは話が長いんだ!!」


このやり取りを聞いているだけで、二人の仲の良さが私にも伝わってきた。そんな彼らの姿に、何時の間にか私とお父さんの姿を掛け合わせていた。

そして…


「朱莉!?」


「あっ…」


溢れ出た感情が涙となって、何時の間にか流れていた。


「ごめんなさい!! 私は大丈夫です」


「朱莉、叔父さんが何か変なことを言ったせいか!?」


「何故そうなるんだ!!」


「それ以外、考えられないからだろう!!」


溯夜様が私を心配してくれたのが、心底嬉しくて、また涙が出てしまった。


「また泣かしたな!! 叔父さん、朱莉に土下座して謝れ!!」


「だーかーら! 何故私のせいだけになるんだ!!」


溯夜様と学園長の言い合いが面白くて、私は笑っていた。泣き笑いの状態…かな?


「もう大丈夫ですよ。溯夜様、学園長に土下座だけはさせないで下さい」


最初に来たときの重苦しい雰囲気はなくなっていた。




遅くなった昼食を三人で食べる。

良い匂いに負けて食べてみると絶品の味がして、私の作る手料理とは月とすっぽん、いや太陽と豆ほどの違いがある。


(こんな食事、食べたことない)


と思った瞬間、それはそうだなーと思った。天下の皇城家のお抱えシェフが作る手料理。その食事が不味い訳が無い。それよりも何時の間にか、その食卓に私も招待させられている不思議…


この場には溯夜様や学園長の他にも使用人がいるので落ち着かない。そして、美味しいとわかっているのにこれ以上胃が受け付けようとしない。もっと食べるべきとは思うんだけど…


「朱莉? 食べないのか?」


溯夜様は優雅に食事をしております。それを見て、余計に食べれなくなった。

溯夜様はその行動をもって無意識的にだけど、自分が高貴な人だというのを人々に見せつけていた。


「いえ…もう大丈夫です。本当に申し訳ないですが、部屋に戻りたいんですけど」


やっぱり、無理だ。この空間、この食事、この顔揃い。全てが胃を小さくする原因となっている。


「そうか…場所は分かるか?」


「いえ…」


皇城家は広い。本当に広い。どこをどう行ったか、私は全く覚えていなかった。


「じゃあ、使用人に先導してもらえ。女性の使用人にするから、少しの間、辛抱しろ」


テーブルマナーもバッチリ、完璧超人な溯夜様。

そんな御食事中の優雅な動作を止めさせるのは残念だなあとか一瞬思ったけど、頼んでしまったものはしょうがないし…

ひとまず、疲れたから退散させてもらおう。




女性の使用人に先導されて、戻って来た。

一礼をして、遠ざかる彼女にホッとしつつも、ドアを開け、中に入ろうとする。

すると…


「朱莉ちゃぁぁぁぁぁん!!」


サッ!!


これでも私、運動神経は良い方だ。

それを全力で駆使して、私に向かって突っ込んできた誰か(・・)を避けることに成功した。だいぶ衰えているけど。


「……っ!」


突っ込んできた目を見張る美女と、後ろにいる溯夜様とは違った端正な容貌を見て、ビクッと身体が震えて、動けなくなる。

この方々は…一体誰?


「どうしたの? 朱莉ちゃん」


私の名前を知っているということは、学校で知り合った人かも。


「貴方方は…誰ですか?」


時が…止まった。




「そういうことか…」


後ろのイケメンな人がそう呟いた。


え? どういうことですか?


「朧、彼女は僕たちが会ったことのない、もう一つの人格(・・・・・・・)の方じゃないかな?」


「ああ、成る程。そういうことね」


妙に納得し合っている二人。私にも説明してもらえませんか…?


「一応、“初めまして” ということになるわね。私は瑞貴朧。後ろの彼は葛ノ葉馨よ。溯夜から話は聞いていないかしら?」


ああ、なるほど。そういうことか。えっと確か生徒会執行部の皆さんで溯夜様と非常に仲が良い御方達ですね。

というか、仲が良くないと、この屋敷に入れないですよね…


「………はい」


蚊の鳴くような声しか出ない。卒倒しないだけでも、偉いと思ったりするのだけど…

身体が震えて、全身が拒否反応を示す。失礼な態度にあたるような気がしていたため、ごめんなさいと謝れれば良いのに、その言葉すら相手に届くかどうか分からないこの状況。一体どうすれば…






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