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以下この章の朱莉は、スッキリあかりんです。
そんな日を続けて、三週間位。身体中の痣も消えて、一応"普通"の生活が帰ってきたらしい。
学校で起こったことは、溯夜様の御口からでしか聞くことは出来ないけれど…そんな日々を少し過ごしてほんのちょっとでも心が癒されたのかもしれない。
そう認識出来る、ある出来事が起こった。
その日は、ぐっすり眠れたと思う。外をみると、蒼穹の空があり、お日様が昇っている。
ベランダに出て、そこにあった椅子に座り、久しぶりの蒼い空を見る。何もすることもなく、ボーッとしていた。
溯夜様は、やって来ない。もしかしたら、今日の夜もまた起きて私の部屋に来てくれたのではないだろうか? 夜這い…じゃないってことはわかってるけど、この文面だけだと、なんか変な意味に聞こえちゃうな。
もし夜に私の部屋にきて、私が珍しく寝ているのを確認してくれたのならば、寝不足であるだろうから、グッスリと寝てもらいたい。
私が使わせてもらっている部屋はお風呂やトイレなどを除いたら二つある。
一つはテレビとソファー、寝具と私の私物がある部屋だ。
“もう一人の私” は、特撮のオモチャを収集していて、それで広いはずの部屋は結構埋めつくされてしまう。
それによって、私の使わせてもらっている部屋は、人には見せたくない部屋へと変わってしまっている。残念なお部屋である。溯夜様が毎日来てくれてるけど。ほんとこの状況、本来ならあまり、見せたくないのだけど。
もう一つの部屋は、食事をするための部屋。この部屋は、私の部屋と溯夜様の部屋、二つの部屋がドアによって繋がっている。
食事をするための部屋にドアを開けて入り、食事を作って食べることにした。もちろん、私一人分。
“もう一人の私” は溯夜様に料理を作ってあげたみたいだけど、私にはそんな度胸はまったく持って無い。
それに、皇城家が抱える料理人の皆さんに迷惑がかかるから。
手早く作り終えて、食べ終えた。
まだ、溯夜様は起きてこない。久々に浴びた朝日。
今日一日何をすれば良いのだろうか?
直ぐに思いついたことは、溯夜様の叔父で学園長でもある皇城和人様にご挨拶と、住まわせて頂いている感謝を述べないといけないこと。
ここに来てから、私は溯夜様しか会っていないが、この屋敷にはたくさんの人がいるはず。
その人たちに会っていないのは、溯夜様が対人恐怖症である私に配慮した結果であろう。
ーー怖い。初対面の人に会いたくない。何考えているかわからない。
でも、そんなことばかりは言っていられない。 “厚意に対しては、何かしらの対応を取らないといけない” と、いつもお父さんは言っていた。たぶん無条件の厚意ってもはや奉仕なんだよね。厚意じゃない。
するとノックの音がして、ドアが開いた。
「おはよう。朱莉」
「おはようございます。溯夜様」
メイドのように礼をして溯夜様を迎え入れた。うーん…これで私の身に起こった変化が見破れないかな~?
つまりどういうことかというと、普段朝は “もう一人の私” に代わっているが、今は対人恐怖症の “私” が出ているということ。
「朱莉?」
そう思っていたら、察しが早い溯夜様はすぐに私の状況に気がついたようだ。
身体中を見て、少し震えている私に気づいたのかもしれない。それか、普段見せている態度の違いから分かるのかもしれない。
何故分かったのかは分からなかったけど、聡い彼ならそんなことに気がつく前に直感的に分かったかも知れない。
そう、思うことにした。
+++
朱莉が今 “そこにいる” 。
そのことに、俺がどれだけ嬉しいと思っているのか、多分朱莉には伝わっていないだろう。
普段の朱莉との違いを見れば明らかだ。
学校で見る朱莉は、自らのこと、そして他のことにも無頓着過ぎる。俺の膝の上に座らせても何も動じないし、俺の言うことは何でも聞く。
それは、そのことが “どうでもいいこと” だからだ。それでは人形と変わらない。
俺が求めているのはそんな朱莉ではない。
ーー朱莉の輝く表情。それだけが見たくて、尽力しているのだ。
今の朱莉は俺に心を開き切っていない。朱莉が纏う固い殻のようなものを払拭すると、俺に対して怯えている姿しか見ることが出来ない。
その状態を見ていたら、朱莉の変わりようなどいとも簡単に分かってしまう。
そんな状態であっても話は出来るので、朝食の話をした。
「朝食はどうした?」
「自分で作って食べました。溯夜様はどうされましたか?」
「…使用人が作る朝食を食べた」
せっかくなら朱莉の作った手作りのご飯でも食べたかったな。
「…そうですか。一度はここの料理人が作る料理を食べてみたいです…出来るならですけど」
昨日一向に目覚める機会が無かったため、朱莉が起きるときに何かしらの変化が起こるのではないかと思ってはいた。しかし、今日に限って朱莉は何時もよりも早く目が覚めてしまっていたらしい。
それを画面で確認した俺は、朱莉の様子に疑問を抱きつつも、いつも通りの準備をしてこちらにきたのだが…




