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「どういうことか、きちんと話してよ。俺にはそれを知る権利があるはず」
目の前の彼は説明を問うてくる。当然といえば、当然か。
俺はありのままに話すことにした。
「お前、どういうつもりだ?」
すると、当たり前だが、かなりしつこく怒られた。
「お前が何を考えてるのかわかんないわ。それ位想定出来るものかと思っていたよ。だから俺も協力してあげたのに」
朱莉が彼、城野護さんに謝罪をしたとき、"初めまして"と挨拶したが、実際は初対面ではない。朱莉をあの家から引き抜いてくるときに常盤宗治の説得をしてもらっている。
何せ、目の前にいる彼は、朱莉の実父志間昇と親友であった上に、義父常盤宗治とも交友関係があるからだ。
「皇城家の提案、というかお前の提案を受けたのは、常盤家を牛耳っているあの女が了承すると思ったから。それだけに過ぎない。権力とお金しか興味が無いあの女は、朱莉のことが邪魔者だと思っていたのと、彼女を君を釣る餌にしようと思ったからこのことを了承したんだ。
自分の娘がいるという口実であの母娘が皇城家に乗り込んでくる可能性がある。それは見越してるのか?」
それは見越している。皇城家の邸宅のセキュリティーは万全だ。
あいつらが来た場合目当ては俺なのだから、朱莉がいる場所を伏せたまま俺だけが会えばいい。幸い、どちらの朱莉も、自分の部屋から外には出たがらないのだから。
俺の家の中が迷路のように広大で複雑であるのと、朱莉の対人恐怖症が役立ってくれている。
「もちろん。俺は朱莉が皇城家にいるという情報は常盤家が独占して、誰にも洩らさないと思っていました。ですが常盤姫香は自分の異母姉が、俺と同じ家で寝食を共にしているところが気に食わなかったのでしょう」
「って自分で想像しているところが、限界があるんだがな。普通」
俺にまとわりつく女たちを舐めてかかっていたことは事実だが…俺の個人的な感情は一旦捨てて考えると、常盤家にとって、皇城家と繋がりを持つ絶好のチャンス、また常盤姫香自身、並み居るライバルを出し抜くチャンスとなるため、朱莉が皇城家に住んでいることは、隠蔽されるものと俺は思っていた。
つまり、常盤姫香が異母姉が皇城家にいると言いふらすとは、思っていなかった。それが甘いのだろう。
「あの女はお前と朱莉が恋愛関係になることは、全くもってないと考えている…まあそういう風に朱莉を対人恐怖症にしたのもあの女だし。でも、常盤姫香はそう思っていない」
常盤姫香は異父姉に起こった変化を知らない。朱莉の精神が限界にあったことも知らない。だから、朱莉に対してあんな侮辱を言い、いつものように暴力を振るい、自分の望み、つまり “皇城家から離れろ” ということを異父姉に言った。
「つくづく馬鹿な奴ですよ。感情を先に立たせた」
「お前も同じようなものだけどな。まあ、俺にとっては原因はどうでもいい。これはお前と常盤姫香との問題だからな…それよりも、そんなことを言い訳にしたとはいえ、お前が原因となって朱莉が傷ついた。その事実だけは変わらないだろう?」
「………」
「俺は言ったはずだ。“朱莉ちゃんを頼む” と。本人の前でも言って、お前はそれを了承したはずだ。俺はお前の覚悟を見定めるつもりだったけど、こうなってしまったのは非常に残念だ。俺はお前の望みーー君と朱莉が結ばれることーーなど金輪際思っていないよ。彼女につけられた心傷はあまりにも大きい」
それは…実感している。朱莉の心の傷は簡単には治らない。けれど…俺にはタイムリミットが存在する。
「お前の家に朱莉を “預けている” のは、あの女を納得させるところが大きいところを忘れずに…そんな理由が無かったならば、俺が朱莉を独り立ち出来るまで預かっていたものを。あんな敵ばかりいる学園に残すことなんて、俺はやらない」
常盤麗華は常盤姫香同様、自分よりも格下な者たちを見下している。だから、城野さんの言うことに耳を傾けることが無いという。真実はわからない。だがこのままでいいはずもない。
悔しそうな城野さんの顔を見つつも俺はまた決意を新たにする。この人に認められるくらいに朱莉を護れればいい話。城野さんは事件が発覚したあとの話だが、朱莉を護ることができている。だから、俺も同じようにすればいいだけの話。しかもこちらの方が条件がいい。だからこそ城野さんは渋々納得したというか、そんな話なんだろうが。




