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スッキリあかりん → もやっとあかりん 視点。
「はっ…はっ……」
深夜。悪夢を見て、目が覚めた。
「朱莉…」
「溯夜様?」
そこにいた彼は昨日の彼とは違う気がした。何となく…だけど。
「なるほど…それで身体中痣だらけなんですね」
いじめられて気を失ったあと、私は今まで全く起きなかったらしい。だから、保健室から皇城家まで連れて帰って来てくれたと。
痣を触ったら痛いけど(翌日なんかにしみになるんだろうな)、なんだそんなことか。日常茶飯事じゃないかって思ってしまうけど、ここは常盤家ではなく皇城家の御屋敷である。勝手が違う。
「済まなかった…これは俺の責任だ」
「いえ、大丈夫ですよ。いじめなんて常盤家に来た時から日常茶飯事でしたし…溯夜様は何も悪くありません」
「お前はそう思うのか?」
「ええ。このことも私が現実から逃げたせいで、起こっている事柄ですから。姫香が怒っているのも、私の性格が悪いんでしょうし…」
「そんなことはない」
溯夜様は断言してくれた。でも、私は自分のことを肯定出来なくて…ただひたすらに自分のことが怖かった。
「俺は、他人の気持ちなんぞ考えたことも無かった。だからこんなことが起こったんだ」
「それは、違うと思います」
「何故?」
「溯夜様はこんなに私のことを気にかけてくれています」
「それは…」
溯夜様には何か恩返ししないといけない。
あそこから救い出してくれた…それだけで感謝しなければならないのだから。
ここにいれば、私の症状は回復するだろう。そうしたら、一番に感謝を伝えたい。そのときには、ここにいるわけにもいかないから、離れないといけないだろうけど。
私はあくまでも “療養” のためにここに住まわせてもらっているのだから。
「それに瑞貴様に私の家庭の事情を話したことに対しても、怒っていませんよ? 私のことなんか気にすることなく、溯夜様の思った通りに行動してもらっていいです」
なんだかおかしいな…あんなに自信満々な溯夜様が萎んで(?)るように見えるのは何故なんだろうか?
こんな溯夜様よりも、いつもの完全無欠な溯夜様のほうが良いな~と思ったりする。
もしかして…疲れているから? あれから寝ていなかったらそうなるし、こんな深夜まで私のために起きているんだとしたら…そう思うと、余計に申し訳なくなった。
「溯夜様はもう寝たほうが良いと思います。昨日全く寝ていないでしょうし」
「分かった…朱莉は?」
「私も寝ます」
実際、私も眠たかった。昨日はあまり…というか全く寝ていないものね…
「おやすみ、朱莉」
「おやすみなさい。溯夜様」
溯夜様が扉を閉めて出て行ったあと、私はすぐに眠りについた。
+++
ん~? 以前何かあったのかな~?
学校に行くと…いつからだっただろうかわかんないけど…私に気を払うようになったんだよね~?
今まで空気…つまり学校を悪の組織として考えると『下っぱ』だった存在なんだけど…壊れ物を扱うかのように、みんなが甲斐甲斐しく世話をするようになったんだよね~?
どうしてかなぁ~?
悪の組織には幹部がいる。それを生徒会執行部の皆に当てはめてみる。
暁様が1番最初に出てくる幹部。
葛ノ葉様が知性派の幹部。
瑞貴様がお色気担当の女性幹部。
そして…溯夜さんはそれらを束ねるボス!
うん。我ながら良い配役ではないだろうか!!
うーむ、そうだな…
これらの対応は知性派幹部が裏で何かしたに違いない!
というふうなことを学校にいる間は考えていた。
あと、前よりも…眠くなったような気がするんだよね?
授業中だって、考える (妄想する) よりも、寝ることが多くなったの。何でかしらね?
というかこんな感じで進級できるのか。というのは聞かない質問である。
いつの間にか、身体中が痣だらけになっていたので、瑞貴様はダンスレッスンは延期にしようということになった。私は思うことも無かったので、普通に頷いた。
ということで、金曜日のダンスパーティーはサボることが出来た。ヤッホーイ!
そのままおもちゃ売り場に行って、おもちゃを物色。最近はギミックが多いおもちゃが多いような気がするなー。
大人向けの、値段が高くてコレクションになるやつも良いけど、ぐにゅぐにゅって動かせるのも良いんだよねー。これが。
その後バイト先に向かい、一生懸命頑張ることにしようと思ったんだけど、代理店長ことおじさんである護は、痣というか、包帯がグルグル巻かれている私をすごく心配してくれて、今日は早めに帰りなさいって言われた。
今はバイト先のスーパーの中。帰っていいとは言われても、皇城家って、どこにあるかわからないんだよねー。
グルグル歩き回っていれば、何時の間にか着いた!! っていう、ご都合展開にならないかしら~? 溯夜さんも、ダンスパーティとかで忙しいだろうし…
そう思っていたら、いかにもここは場違いだな~という人がやってきたのです!!
絶世の美貌に人を従わせる貫禄。悪の組織のボスであらせられる溯夜さんです。
これこそご都合展開ではないでしょうか!! 願っていたら、当人がやってきたのですよ!?
「目を離した隙に、どこにいったのかと思ったぞ?」
「あー。探してたんですか?」
「朱莉の位置は逐一把握している」
ふーん、すごいですね。
でも…待てよ…あれか!! 悪の組織のボスだから分かるのか!?
「ねぇ? 皇城くん、この包帯はどういうことなのか説明してくれないかい?」
ニコニコしてるよ店長代理が。
待て、これは嵐が起こる序章のようなものだ。
はっきり説明していなかったか分からないから説明すると、店長代理さんのお名前は城野護さん。私の本当のお父さんの親友というのは、話したっけ?よく覚えてないや…
私にとっては血は繋がってないけど家族同然の人。私が赤ん坊の頃から世話になっているからね。
しっかしまあ、これだけ護が怒ってるとなると、なんなんだろうね。誰かやらかしたんだろうね。私は今じゃ滅多に怒られることはないから、私じゃないってことはわかるんだけど…誰なんだろうね〜
「朱莉ちゃん、やっぱりお菓子売り場の整理だけお願い。俺は、皇城くんとお話があるから」
って店長は言って、溯夜さんとスタッフオンリーの中に入って行った。
あ、これ溯夜さんが怒られるパターンか。可哀想に。
同情はしたけど助けはしないぞ。だって護が怒るときはそれなりに理由があって、相手のことを思って怒るんだから。私は手出ししない。




