66.
「人影?」
アクトが指差す神殿遺跡と呼ばれる石の階段の上。
間違いなく、上にに佇む人物がいた。
「……こんな所に訪問者がいるとは、ヤツの言っていた通りだな」
その人物が動き、喋った事で初めて人だと判断できる。
彫刻と見まごうほどの白い髪と整った顔立ちをしており、少し離れてはいるが美少年と評するのが相応しい風貌の人物。
その整った顔立ちを隠す為なのか、顔の右半分を黒い仮面で隠しておりその表情はあまり読み取れない。
「イブリックさん?」
エリィが呟くと、その人物はフッと不敵に微笑む。
そして、その名前にミシェがハッと驚く。
「え、ちょっと待って! イブリックって、あの魔剣士の?!」
「魔剣士?」
「そう、悪魔の刀鍛冶が造ったとされる世界で6本しか存在しない魔剣。 そのうちの1本、魔剣・ティルウィングを操る旅人で、どんなに難易度の高い魔物の討伐も一人でこなす、旅人組合の超有名人よ!」
興奮しながら細かく語るミシェを見て、戦いに関係した知識に関してはマニアみたいだよな、と思ったがアクトは言葉を呑んだ。
イブリックと呼ばれた少年はミシェの説明通り、腰には魔剣と呼ぶに相応しい装飾の刀身の黒い剣を携えていた。
見た目といい佇まいといい逸脱しているその姿は、普通の一般人ではないのは明らかである。
「くくく……自己紹介は不要そうだな? 竜殺しの」
「あら、あたしのこと知ってるの? 有名人に知って貰えてるなんて光栄だわ」
「年端も行かない娘が竜殺しの最前線にいるとなれば、話題にもなろうというものさ。 それで……」
イブリックがじっとアクトとナナを見る。
品定めされているような不思議な瞳にアクトが思わず強張るが、そこにエリィがすっと手を挟む。
「あ、こっちは時計屋のアクトとナナだ。 黒帝竜の首領を探す道中を手伝ってもらってる」
「ど、ども……」
「なー」
「時計屋が前線に出てくるとは、これまた珍しいな、くっくっく……」
「別に好きでここにいるんじゃねぇよ。 成り行きだ、成り行き」
「……まぁ良い、時計屋がいるなら丁度良い、付き合え」
挨拶もそこそこに、イブリックは踵を返してそのまま神殿遺跡の奥へと向かう。
だが付き合えと言われたものの、果たしてそのまま付いて行って良いものかとアクトが焦る。
だって、どう見ても怪しくない人ではない。
「だ、大丈夫なのか?」
「ちょっと言葉回し変な人で自分より強い人にすぐ戦いを吹っ掛けるだけで、ああ見えて常識的な人だから大丈夫だ!」
「そ、そうか、なら大丈夫だな。 ……大丈夫だな?」
何1つ大丈夫な要素無かったぞ?とアクトは首を傾げつつ、エリィのいつもの根拠の無さそうな絶対の自信とミシェの「問題ないと思うわよ」という言葉もあり、3人と1匹はイブリックの向かった先、神殿遺跡の奥へと進むのだった。




