52.
「うーん……困った」
デュオルキャンバスの街の防衛機構である魔法道具の修理のため街を歩いていたアクトは腕を組み悩んでいる。
必要な3つの材料のうち、アクトが探しているのは硬玉板と呼ばれるもの。
これは絶妙な硬さと柔らかさを持った鉄で作られた板で、現在では加工技術が途絶えてしまい現存するものが稀少である代物でもある。
そのため代用品を考慮しないといけないため、適切なものは魔法道具に精通する時計屋であるアクトが探した方が良いだろうと考え探している所である。
代用品を考えているとはいえ街の防衛機構である上に古い魔法道具だ。
どんな不具合が発生するか予想できない以上、代用は避けたい。
そう思いながら、街の魔法道具屋や古物店、廃材屋などアクトが思いつく所は回ったが、これといった成果は無かった。
「墓場に行ってみたらどうじゃ? そんなに古いもんだったら探せばあるかもしんねぇ」
アクトが手詰まりと悩んでいると、立ち寄っていたとある廃材屋の老人がふとそんな事を言った。
老人の話では、このデュオルキャンバスの街には魔法道具のゴミ捨て場、通称『墓場』と呼ばれる場所がある。
大昔からの貴重な魔法道具が多く存在しているこの街は、壊れた魔法道具は処分せず墓場に投棄するのが習慣となっているそうだ。
街の景観を損なわないようになのか、墓場は街の隅の防壁の影になるような場所にあるそうで、アクトは早速教えて貰った場所へと向かった。
「うおぉ、すげぇ……」
墓場と呼ばれる魔法道具のゴミ捨て場には、大小様々の魔法道具だったもので作られた山がいくつもあった。
少し直せば使えそうなものから部品の破片まで、役目を終えた大小新旧様々な魔法道具の残骸が積み上げられている。
客人はアクトだけではなく、魔法道具関連を生業にしているであろう装いの人たちや、日銭を稼ぐ目的のような子供など、静寂な場所ながら多くの人がいた。
この独特の静けさや空気の重さは、なるほど墓場とは言い得て妙だとアクトが頷く。
廃材屋の話では奥に行けば行くほど古いものが眠っているとの事だったので、比較的新しく大量生産品が多く投棄されている入口近くの探索はそこそこに墓場の奥へと進んでいく。
道なき道に転がる魔法道具を踏み歩きながら奥に進むほど人は少なくなっていき、比例して既に漁られ尽くされた出涸らしのような魔法道具が増えていった。
使い道の無い魔核の欠片、魔櫃の使える部分だけが取られた残り滓、古寂びた部品たち。
(硬玉板はあるけど、修理に使えそうなものは無し……。 ミシェの壊れた槍の材料もあるかと思ったけど、流石に無いか……)
たまに立ち止まり拾って吟味してみるが、探している材料らしきものは見当たらない。
ついでとばかりに、ミシェの壊れた槍の魔法道具の材料も探すがそれもない。
そう簡単に探し物は見つからないものである。
「……ここが一番奥か」
墓場の最奥。
街を囲う防壁の手前、長い年月誰の手にも渡らなかった魔法道具だった物が集まる場所。
防壁の下には海が広がっており、遠くには街の北側の陸地が見える。
訪れる者もいないのか、波の音が微かに聞こえるだけで人の気配のまるでない場所。
そんな墓場の最奥。
魔法道具の残骸の山の上、佇む人物がいた。




