48.
「や、やっと着いた……」
ギィ、ギィ。
手漕ぎの小舟がゆっくりと港に辿り着く。
ちなみに、アクトが漕ぎ方がよく分からずエリィは船酔いで伸びていたので、漕ぐのは主に「使えない男共ね!」と文句を言うミシェの仕事だった。
船酔いでへろへろになりながら最初にエリィが港に降り立ち、アクトとミシェもその後に続いた。
空が晴天なのを見て、アクトはホッと一息吐く。
しかし、港には妙な空気が流れていた。
アクト達が港に降り立つなりザワザワと騒々しくなる。
「おい見ろ、船が来たぞ!」
「まさかオーロラメイスから来たのか?」
「あの小舟で?!」
喧噪は広がっていき、港の周辺にいた人々がアクト達のもとにわっと押し寄せてきた。
「なんだなんだ、歓迎の熱い町だな?!」
「歓迎っていうか、待ってましたって感じ……。 魔物に困ってる小さい村に行ったときみたいな気配を感じるわ」
「早速面倒ごとがありそうだな!」
「なんでエリィは楽しそうなんだよ」
人々は口々に「どこから来たのか」「自律警守はどうした」など矢継ぎ早に質問してくるので、3人とも対応に困る羽目になった。
暫くもみくちゃにされていると、パンパンと手を叩く音がして場が静まり返る。
「はいはーい、来訪者が困ってるでしょ。 気持ちは分かるけど、一旦落ち着いて解散解散」
手を叩きながらアクト達に近づいていく人物に、集まった人々は道を開けるように離れていった。
現れたのは、聖職者の服を着たおさげの黒髪に眼鏡が特徴の女性。
後ろには、同じく聖職者の服を着た小さな少女を伴ってた。
「私はステラ。 黎元教会の聖職者よ。 よろしく」
聖職者の服を着た女性は、眼鏡の位置を直しながらそっけなく言う。
黎元教会といえば、アクトが旅の合間で何度か耳にした世界宗教の名だ。
港に集まった人々の反応を見るに、この街での発言権はそれなりにあるのだろう。
「私はイオと申しますです。 ステラお姉様のお付きをしています」
そのステラの後ろに付き従う小さな少女は、茶髪のツインテールを揺らしながら頭を下げる。
「オレはアクト。 こっちはナナだ」
「なー」
「あたしはミシェ、よろしくね」
アクト達もそれぞれ自己紹介をする。
「俺はエリィだ!」
「あ、うん、エリィ君は知ってる」
「忘れられてると思って一応挨拶してみたけど良かった!」
なんて悲しい理由なんだ、とアクトとミシェは哀れみをエリィに向ける。
「で、エリィ君達はこの面倒事の坩堝になってるこの街に何しに来たの?」
「俺は父上の命で黒帝竜を追ってる所だ! 2人は経緯は違えど目的は同じって所だな」
「なるほど、街に来た理由は私達と近からず遠からずって所ね。 じゃあ、この街の状況を簡単に説明するから、着いてきて」
ステラが先導して、防波堤の上へと続く階段を上る。
アクト達も言われた通り、その後に付いていく。
「うおー、すげぇ綺麗な街だなー」
「なー♪」
防波堤の上に着いたアクトは感嘆の声を上げる。
そこから見える街並みは街のいたる所に川が張り巡らされながらも街としての機能も保っている、世界にここにしかない景色が広がっていた。
街を囲むように高い防壁があり街の外を見通せないが、それが一層美しい街並みを際立たせているようであもあった。
今までの旅路で自然の美しさや素晴らしい場所はいくつか通ってきたが、人工物の美しさを始めて感じたアクトは息を呑む。
「水彩都市って言われるだけあって、この美しい街並みを見るためだけに来る人も多い街だからね」
「人が来ることも多いって割には、随分と物騒な感じだな」
街の上空には海で襲われたのと同型の小型の防衛用の魔法道具……自律警守が無数に飛んでいる。
先程のように人間に襲い掛かるような事はなさそうだが、何かを監視するように縦横無尽に動いているようだ。
そして何より、街を囲む防壁にある唯一街の外へと通じるだろう大きな門が閉ざされていた。
門の前には自律警守の軍団が構えており、無理に近づこうものなら安全の保障はなさそうである。
その光景は、事情を知らなくとも異常事態というのを察するに十分だった。
「何があったんだ?」
「ま、簡単に言っちゃうと街から出れなくなったのよ」
ステラはそっけなく簡潔にそう答えた。




