42.
「おはよー……」
翌朝。
眠い目を擦りながら、アクトが宿のロビーに向かうと、ミシェとエリィはすでに朝食を取っていた。
パンとスープにジュースというシンプルなものだが、香ばしい香りは食欲をそそる。
ナナは相変わらず暖炉で温まっているようだが、アクトが来ると足元に寄ってきて頬ずりをしてきた。
「なー」
「おはよ、ナナ。 ちゃんとミシェの所でいい子してたか?」
「なー♪」
「そうかー、えらいぞー」
アクトが撫でてやるとナナは機嫌の良い声で鳴き、満足したのか暖炉前の定位置に戻っていった。
ミシェの隣に座り、大あくびをしながらアクトも食事を始める。
「おはよう、今日も眠そうね。 また予知夢でも見たの?」
「いや、今日は何の夢も見なかったな。 久々にベッドで寝れたしお陰でゆっくり眠れたよ。」
「予知夢って何だ?」
エリィが不思議な単語に首を傾げる。
「夢の通りになる訳じゃないから、予知夢って感じじゃないけどな」
アクトはこれまでの竜渓谷の話やメリアブルームでの話、今回のオーロラメイスでの黒ローブの集団の夢の話をする。
見知らぬ場所の様子が寸分狂わず夢に出てくる。
何かしらの事件が発生する。
しかし、夢の結末は不幸な形で終わるが、現実はそうでない事。
エリィは興味津々にその話を聞いていた。
「面白い話だな。 卓越した魔術師は予知夢見たりするって聞くけどな」
「どー見ても卓越した魔術師では無いだろオレ」
「どう見ても箱入りの旅人初心者よね~」
ミシェにくすくすと笑いながら言われ、「うるせー」とアクトは口を尖らして拗ねながらスープを口に運ぶ。
エリィは予知夢の方に興味があるようで、そのまま話を続ける。
「昔から見えた訳じゃないんだよな?」
「この旅に出てからだな」
「うーん……不思議な事もあるもんだな!」
「テキトーすぎない? なんでアンタみたいなのが単独でクルクノス王国軍の尖兵みたいのやってるのよ」
「それは、俺は一人でも大体なんとかなるから!」
「ミシェとやりあえるくらいだし、フツーに剣士として強ぇもんな」
「それもあるけど、勘も良いんだ! そして、俺の勘はだいたい外れない」
謎の確信に満ちた目をしながらエリィがニヤリと笑う。
普通ならそんな馬鹿なと一蹴する所だが、アクトは直感で成功して一代で富を築いた客達ってこんな感じだったな、と思い出す。
ミシェも強者特有の野生の勘ってヤツかしら、と納得していた。
「で、そのだいたい外れない勘は、アクトの見る予知夢は何だと思ってるのよ」
「うーん、そうだな」
エリィが腕を組んで少し考える。
「やっぱり、予知夢なんじゃないか?」
「いや、だから夢の通りにはなってないんだって」
「アクトが夢を見た事でその未来にならなかったんじゃないか? 少なくとも、夢を見ることでそれを警戒したりはしたんだろう?」
「つまり、予知夢は『アクトが予知夢を見なかった場合の未来』ってこと?」
「俺の勘ではそうだと思う!」
根拠が無いに等しい、と思いつつ2人ともエリィの考えに反論できるほどの材料も無かった。
夢と切り捨てるには妙に鮮明な夢。
ハコの言っていた「神からの天啓」もエリィの「予知夢を見なかった未来」も肯定する材料も否定する材料も無いのだ。
「ま、理由は何であれ折角見えるんだから使わない手は無いよな!」
「まー、それはそうなんだが……」
「な~♪」
結局、相変わらず予知夢の件は解決しないまま話題は終了。
その後は穏やかな朝食の時間が続くのだった。




