350.
「よし、話は分かった!」
パンッ、とエリィが両手を合わせながら突然立ち上がる。
「分かったって、どうする気だ? 成果無しで大人しく国に帰るのか?」
頬杖をつきながら呆れ半分といった表情でルフナスカが尋ねると、エリィが両手で大きなバツを作る。
「要は、その3つの問題を全部潰せばレストラートの代表は国際会議に出てくれるってこと! 簡単シンプルな話ですよ!」
エリィの言葉に呆気にとられたように黙る一同。
それからエミールが大きくため息を吐く。
「俺ぁ、それができねぇって話を今したつもりだったんだけどな……」
「確かに荒唐無稽なお話ですが、エミール様が手詰まりであれば、実行する意味はあるのでは」
「そりゃそうだけどよ……」
「解決しないといけない問題は"謎の異変"と"疑惑レベルの疑い"に"戦争の遺恨"だぞ。 どうやって解決するんだ?」
ルフナスカの問いに、エリィが人差し指をビシッと立てる。
どうやら1つ目、という意味のようだ。
「まず"謎の異変"は解決すればいいだけなので、一番簡単!」
「解決できれば、な。 ……まぁ、仮に解決できたとしよう。 他の2つは解決自体がまず不可能だぞ」
疑惑を全ての人間で0にすることは不可能。
遺恨というものもそう簡単に消えない、生死にかかわる物であれば特にそうだろう。
「他の2つは、解決できないんだったら解決する必要はないぞ! 他の情報で"上書き"すればいいんだ!」
「疑惑や遺恨なんて一過性の情報で上書きできるほど簡単なもんじゃねぇぞ」
エミールの問いにエリィが頷く。
「だから、大義名分を与えればいいんだ。 『今だけ』『〇〇のため』『協力することが正義』大衆大勢のそういう"風潮"を作れば、疑惑や遺恨なんて不安定なもの、一時的に上書きするのはさほど難しくない」
「レストラート連邦にはヴィクトリア女王の"歌とライブ"という情報の流布に最適な仕組みがありますしね」
「クルクノスのやり方だから、あんまり手の内明かしたくないんだけど……ま、緊急事態だから仕方ないよな!」
エリィが「父上に怒られるかも!」と言いながらあっはっはと笑う。
解決と言わんばかりのエリィ。
呆気にとられるルフナスカとエミール。
そんな中、アクトが首を捻る。
「……なんか既視感あるやり方だな」
「あたしが"英雄"とか言われてたアレとやり方一緒じゃない?」
「あ、確かに」
以前、ゼノディアと共に黒帝竜を倒したとき、クルクノス王都クレプシドラに"英雄ミシェ"の噂が瞬く間に広まった。
新聞の一面を始め、噂の広まり方も異様な速さだった。
「でも、そういう判断が早いのは何事においても有利だって旅人の老人が言ってたわ」
「まぁ、クルクノス国民としては、エリィの判断力が優れてるっていう話なら嬉しい話だけどな……」
小さな小部屋の中、演説をするように身振り手振りをするエリィを見ながら、アクトがぼんやりとそう思った。




