269.
「コラプサー、そろそろ"アレ"使ってもいいかしらぁ?」
エリィの振りかぶった剣を鞭でいなし、エルヴィーラの放った水球の水魔術をステップを踏むように避けるアナスタシア。
ちらりと少し離れた場所で戦うコラプサーへ視線を向ける余裕もあるようだ。
『そりゃお前次第だろうがよぉ、アナスタシア?』
コラプサーが強靭な翼と尾でミシェとゼノディアの素早く重量感のある攻撃を簡単に防ぐ。
こちらもまだまだ余裕があるようで、愉しそうに嘲笑う声が辺りに響く。
「……ゼノディア様、どう思う?」
戦いの中、間合いを開きゼノディアの近くへ寄ったミシェが尋ねる。
「……話に聞いていた回復力は無いように見える。 が、ダメージがほとんど入ってないな」
「そもそも最初の一撃で並の黒帝竜なら行動不能までもっていけてるはずよ」
「黒帝竜の首領はそう簡単に倒させてくれないということだな。 最も、我々の目的は時間稼ぎでもあるからな」
「あたしたちが倒れなきゃ目的は最低限果たしてるって訳ね」
放たれた黒炎を左右に避けて躱し、ミシェとゼノディアが武器を握り再びコラプサーに攻撃を仕掛ける。
戦いは膠着状態だが、膠着し続ける限りはミシェたちが有利だ。
アクトがいずれ宝珠を使い黒卵に対し何かしらの結論を導き出してくれる。
だが相手もそれが分かっていないはずもなく、先に大きく動いたのはアナスタシアたちだった。
「コラプサー!」
『応よ、待ちくたびれたぜェ……!』
コラプサーの巨体がふわりと浮いたかと思うと同時に突風が吹き荒れる。
高速でアナスタシアをその巨体の上へと乗せ浮かび上がったのだ。
そしてアナスタシアが大きく円を描くように鞭を振るうと、宙に黒炎を纏う巨大な魔術式が現れる。
その魔術式を喰らうようにコラプサーの口元へと黒炎が集まっていく。
「……以前見た攻撃ですね」
「アレはマズいな」
「マズいですね」
以前。
スウォット山岳で同じくコラプサーとアナスタシアと戦った際に見た攻撃。
その時の一撃で、黒帝竜討伐隊へ参加した旅人と、その援軍としてやってきたクルクノス王国軍が半壊したのだ。
「どっ、どうするのよ?! いや逃げ道なんて無いから全力で防ぐしかないんだけども」
ミシェが槍を立てて突き出す。
「……いや、私に任せて皆は下がっていてくれ」
ゼノディアが一歩前へ出る。
大刀の柄を握り、杖を掲げるように上空へ向けて切っ先を天へと向ける。
そして大きく息を吸い込む。
「来い、セイヴァーーッ!!!」
次の瞬間。
ドオォォン!!
上空で白銀の大爆発が発生し、火花が空に飛び散った。




