25.
「待て、ここから先はクルクノス王国軍の駐屯地だぞ」
メリアブルームの町の北門を超え街道を暫く進むと、木製の簡易柵の中にテントがいくつも張られている場所がすぐに見えてきた。
近づくと、茶色の軍服に身を包んだ見張りの軍人に止められる。
「えーっと、オレは輪転の軛のアクトールだ。 こっちはオレの連れ。 ゼノディア様からの依頼物を届けに来たんだが…」
「えっ?!」
アクトの言葉に、軍人より先に反応したのはミシェである。
軍人の方はうむ、と頷く。
「そうか、話は聞いている、通れ。 ゼノディア様は一番奥のテントにいらっしゃる筈だ」
「奥のテントだな、分かった。 行こうぜミシェ」
「なー」
駐屯地の中は数十個のテントがぽつぽつと不規則に張られており、その間を軍人たちが慌ただしく移動しながら何かの準備をしているようだ。
一部のテントには旅人が集まっており、馬車や酒場のようにわいわいと話に興じていた。
「アレが酒場でニーニとトートが話してた報酬目当てで集まってる旅人なのかな」
多くいる旅人を見ながらアクトが話しかけるがミシェは落ち着かないようにキョロキョロと辺りを見回しており、アクトとナナが首を傾げる。
「ミシェ、聞いてるか?」
「なー?」
「そそ、そんな事より! ゼノディア様って、あのゼノディア様?! 竜騎士の?!」
「確かそんな異名もあったな、ゼノディア様のこと知ってるのか?」
「し、知ってるも何も、超有名人じゃない!」
ミシェの話では、竜騎士とはドラゴンに認められた者の異名であるという。
簡単に言うと、ドラゴンと1対1で戦って勝利した者。
普通のドラゴンというのは、温和で知能が高く、よほどの強者でないとそもそも相手にすらされないという。
そのため世界でも片手で数えられるほどしかおらず、ミシェたち竜殺しの憧れの対象だそうだ。
しかも、ゼノディアはクルクノス王国の貴族でありながら竜騎士の異名を持つ強さを持つだけでなく、クルクノス王国軍のトップ、総司令も務めた事のある実力者。
「そんな凄い人……いえ、伝説の人に今から会うの?! すごい緊張してきた!」
「やけに詳しいな。 大丈夫だって、貴族なんて実力があるか無いかってだけで自信過剰な人しかいねーから」
「なー」
ナナも心なしかアクトのフードの中でうんうんと頷いている。
「で、アクトはあの魔法道具で超有名な輪転の軛のメンバーなの?」
「普通そっち聞くのが先じゃね? まー、別に隠してた訳じゃねぇけど、一応メンバーだ」
「ふーん、若いのに時計屋としての腕がいいのと箱入りなの納得したわ」
「若いのに腕がいいってのミシェに言われてもなぁ……」
ミシェは深く詮索する気はない……もとい大して興味は無いようで、話はそこで終わってしまった。
有名とはいえ、輪転の軛は世界中に支店があるためそこまで珍しものでもないのだろう。
駐屯地の一番奥に向かって歩いている間、テントを出入りする旅人や兵士が見ながらアクトは一つ疑問を持つ。
「なぁ、人数の割に魔術師が少なくないか?」
アクトが辺りを見回しながら首を傾げる。
見回して目に入る旅人も兵士も、剣や鎧など重装備な人物ばかり。
ローブを着て杖を持つ魔術師は、探しても1人2人かろうじているくらいだ。
魔術師というのは旅人であればそこまで珍しい訳でもないので、
ここまで姿が見えないのはいささか不自然である。
「そりゃそうよ。 黒帝竜も然り、ドラゴンには魔術は一切効かないもの。 だから黒帝竜討伐の時は支援や回復みたいな最低限の魔術師しか同行しないわ」
「えっ、魔術が効かないってヤバくないか?」
魔術とは魔術式を描き魔力を使用する事で炎を起こすなど超常的な事を可能とする。
そして、魔術師とはその技術を使用する事を生業としている人達だ。
ドラゴンは空を飛ぶため、それと相対する場合はそれなりの対策が必要だ。
しかし、超常的な力である魔術が一切効かなとなると、それこそ剣や弓など普通の武器で対抗するしかない。
「だからこそ、竜殺しって専門家が必要なのよ。 竜殺しって凄いのよ?」
「いや、魔物倒す仕事してる時点でそこは疑ってないけどさ。 思ってたよりドラゴン倒すのって大変なんだな」
「なー」




