240.
「ナナ~、そろそろアクト起こして頂戴~」
「なー」
太陽の照り付ける草原の一角にある岩肌。
返事をするように鳴いたナナは、硬い岩肌の上だというのに気持ちよさそうに寝ているアクトの顔面に向かって体当たりをする。
痛みは無いが、ふわふわの毛が鼻をくすぐる。
「ぶぇっくしっ! ナナぁ、また変な起こしかた覚えたな……」
「なー!」
目を覚ましたアクトを見て、満足そうに鳴くナナ。
「うぇー、背中痛い……」
「そんな所で寝てたら当たり前でしょ。 どこでも寝れるっていうのも考えものね」
半泣きしながら伸びをしているアクトを見ながら、やれやれとミシェが肩を竦める。
「っていうかミシェ! それにゼノディア様も、戻って来たのか!」
少し離れた位置でヒラヒラと手を振りながら作っている食事だろう鍋を混ぜているゼノディアを見つける。
似合わないなぁ、と思いつつ鍋からはシチューのような良い香りが漂ってきた。
「思ったより戻って来るの早かったな」
「ま、まぁね。 調べたこと説明するから、食べながら話しましょ」
「お、おぉ」
相変わらず痛い背中を擦りながら、ふらふらとアクトが這うように鍋の方へと歩いていった。
「ミシェがアクトが心配だからと急いで帰って来たんだ」
シチューの盛られた木製の皿を手渡されながら、開口一番ゼノディアはそんなことを告げる。
「べ、別に狭い村なんだから調べものも時間掛からないでしょ」
「ふっ、私としてはもう少し調べても良かったがな? そこはハコに任せたから問題無かろうが」
「だ、だって旅人初心者のアクトをこんな何もない所に放置したら気が気じゃないわよ」
ミシェが不貞腐れるようにシチューを掻き込む。
「ミシェは心配しすぎだって。 流石にオレだって脱初心者くらいにはなってるだろ」
心外だと言わんばかりにアクトが言う。
王都を出て数々の危険を乗り越えてきたのだから、と。
「「……」」
ミシェとゼノディアが顔を見合わせ首を傾げる。
「何か言えよ!」
ナナが慰めるように小さな手でぽんと肩を叩く。
どうやら他人から見るとまだまだ旅人初心者のようで、アクトは大きくため息を吐いた。
「雑談はこの辺にしておいて早速情報共有といこうか」
「そうね。 エリィとエリーさんは黒卵と宝珠を調べるために先に村を出ていったわ」
村に戻ったミシェたちはエリィたちと分かれた後、ミシェの家の書庫の本を調べたり、ロージェや村長を始めとした村の住人に聞き取りをしたそうだ。
「村長の話によると、大昔にドラゴンの研究者が村に来たことがあったらしいの」
「『月光の液』があれば 黒帝竜を正気に戻せるかもしれない……とだけ言い残して、ドラゴンの住処へ向かった後消息不明だそうだ」
「だから『月光の液』っていうのを探した方が良さそうなのだけど、情報が少なすぎるのよね……」
話を聞きながら、アクトが鞄からシリンダーを取り出す。
「『月光の液』って、これか?」
ロットと共に作った月光色にほのかに発光する不思議な液体。
月光の液と言われても、過言ではない。
ミシェとゼノディアが何度か顔を見合わせる。
「何でアクトが持ってるのよっ!」
思わずの叫びが、周囲に響き渡った。




