229.
「これは……シリンダー?」
アクトがドラゴンヴァレーから渡されたシリンダーを見つめる。
シリンダーには限りなく透明でありながら、光の角度によってはうっすらと水色に見える液体が入っている。
それから眼前に見える黒帝竜を見据える。
コラプサーという脅威が去ったが、白銀のドラゴンであった黒帝竜が地上に降り立つ。
動向を見守る中、黒帝竜に近い位置にいるミシェとゼノディアの会話が耳に入る。
2人共酷く動揺しているが武器を構え臨戦態勢は崩さない辺り、修羅場をいくつも潜り抜けた強者というところだろうか。
「どうするの、戦うの?」
「馬鹿言うな、あれはセイヴァーだぞ?!」
「そんなの、あたしだって分かってるわよ! でも黒帝竜相手にそんなこと言ってる余裕……」
黒帝竜。
少しでも攻撃を掠ったら致命傷は覚悟しなければいけない、その場のものを破壊し尽くす暴竜。
今までの旅路で、何度も対峙してきたアクトたちはそれを重々承知している。
例え、目の前の黒帝竜が見知ったドラゴンであったとしても、それだけで対応を変えれるほど甘い相手ではない。
『ギャオォオオ!!』
黒帝竜の咆哮が響き渡る。
攻撃を行ってこないのは、セイファートとしての意思があるからなのだろうか。
それとも、単なる黒帝竜の気まぐれなのだろうか。
ミシェたちから黒帝竜を挟んで反対側、こちらも黒帝竜に近い位置にあるエルヴィーラが剣を構え目線を黒帝竜から離さないように、隣にいるエリィに語り掛ける。
「……エリィ、そろそろ撤退の判断しないと最悪全滅しますよ」
「いや、ここはアクトに任せよう」
「アクトさんに?」
エリィはポンとエルヴィーラの肩に手を乗せ、後方をちらりと見る。
時間的な猶予は、さして無い。
「長老サマ、このシリンダーは何なんだ?」
再びシリンダーに目を落としたアクトが尋ねる。
『知らぬ。 儂も最悪の事態になったら使えとしか聞いておらぬ』
「おいおい……」
ドラゴンは人間の制作物に疎いのだろうと半ば呆れつつ、渡されたシリンダーを銃に装填する。
『時計屋。 時間はあまり無いが、そのようなもので何とかなるのか?』
「んー……。 オレが想像している通りの代物だとしても、時間稼ぎだぞ?」
『……今は贅沢は言わん』
ゆっくりと、銃の照準を黒帝竜に合わせる。
「ナナ、何かあったら頼むぞ」
「ななー!」
カチリ、と引き金を引く。
同時に、銃から彗星の如く光の尾を引く弾丸が撃ち出され、弾丸は寸分狂わず黒帝竜へと当たる。
リーン……
一瞬、世界が止まるかのような、感覚。
"それ"は次第に収束していき黒帝竜とその周辺だけを、時間から切り取ったかのように停止させた。
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
投稿文字数がとうとう300,000字を超えました。
毎話1,100字越えを目安に執筆していますが、それを考えるとかなりの量になってきましたね。
長期休みの度に書き溜め→休み明けに全て消費されている、を繰り返していますが、
今後ともペースは崩さずに頑張っていきたいのでよろしくお願いします。
さて、此方でお話は一旦一区切りとなります。
次のお話が調整中のため更新を1週間お休みして、
次回の更新は再来週の月曜日の5/20(予定)となります!
次は一体どんなお話が待っているのでしょうか。




