202.
「それで、あの荷物はホントに必要なのか?」
ガタガタ。
揺れる馬車の中、ミシェとの口論が一旦落ち着きハコが尋ねる。
馬車の後方に積まれたメリアブルームで買い込んだ木箱や麻袋の山。
おおよそ荷台の半分を占有しており、アクトたちが窮屈している要因の1つでもある。
「田舎の部外者への警戒心ったら無いわよ。 特にうちみたいなド田舎なら特に」
「唯一、部外者で警戒しないのが商人ということでしたね」
「そういうこと」
「オレが聞きたいのはそういうことじゃなくて。 中身、商品セレクトの方よ」
ミシェが選んだのは食器や調理器具、衣服や石鹸など、王都だといわゆる生活必需品に分類される品ばかりだ。
それと、最近の流行りであるお菓子や便利グッズが少々。
行商人というともう少し珍しいものを運んできたりするのでは、というハコの意見も分かるというものである。
「んー、村の外から物が届くってだけでお祭り状態だから、中身はそんなに大事じゃないのよね」
「それもはや田舎っていうより秘境じゃねぇか」
アクトの意見に全員が頷く。
少なくとも、今しがた通って来たろくに商店の無い村々ですら十分田舎だった。
それ以上に田舎だというのなら、むしろ田舎に失礼である。
「え、そうなの? 旅に出始めのときに散々田舎者って言われたから、ずっと田舎だと思ってたんけど」
「……いや、それバカにされてるだけだから」
「え、そうなの?!」
聞けば「田舎者」と言われたから、自分の村はずっと田舎だと思っていたらしい。
そういえば、と今まで通って来た村々も看板や店のメニューなど最低限の文字が書いてあったのをアクトが思い出す。
アクトが教えるまでミシェが文字が全く読むことすらできなかったと考えると、それ以上の田舎出身だと考えてみれば当たり前の話なのかもしれない。
「と、とにかく! 安心して、ハコさんに絶対損はさせないから」
「信じるぜ嬢ちゃん。 まー、王家からたっぷり運転代は貰ってるから損する余地はない訳だが……」
荷物を「これも経費で大丈夫」と全額ハコが払ったのを見るに、庶民のアクトが想像できないくらいの金額を貰っているのだろう。
というか勅命って給料出るのかな、とぼんやり考える。
「ちなみに、勅命の任務が終われば褒賞金が出ますよ」
「え、何で分かった?!」
「顔に出てたぞ!」
アクトが自分の顔をむにむにと触る。
そこまで顔に出る方では無い自負はあるが、人の顔色を読むのが仕事ともいわれる貴族がこの場に多すぎるのである。
「大した額ではないが、庶民であればしばらく遊んで暮らせる程度には貰えるぞ」
「それは大した額なのでは……?」
「なー……?」
「あ、見えた!」
ミシェが指差す先は土砂崩れの果てに、山頂の一部が陥没している……ようにしか見えない場所だ。
「……あそこに、村が?」
「何でここまで来ても半信半疑なのよ!!」
怒るミシェを後目に他の面々も半信半疑でしか無かった。




