201.
「嬢ちゃん、ホントにこの道で合ってるか?」
「合ってるって言ってるでしょ、何回聞くのよ?!」
ガタガタ、ガタガタ。
大きく揺れる馬車とそれに負けないような口論に、アクトがふっと目を覚ます。
大きな帽子を押さえながら桃色ツインテールを揺らし口論しているミシェを見て、しばらく元気が無かったがいつも通りに戻ったようで何よりだとアクトが安心する。
相手をしている御者のハコには若干悪い気もするが。
「おはようアクト。 ……こんなところで寝れるのは最早才能だな」
目の前には、緩く結った黒髪が特徴の貴族の男性ゼノディアが言う。
ちなみに皮肉ではなく単純な感想のようだ。
「あー、なんか旅の危険性についての夢を……」
ガタン!
言いかけたところで、馬車が大きく揺れる。
「なななー」
「おっと。 ナナ、飛ばされないようにな」
揺れに任せて吹き飛ばされそうになる白猫のナナをアクトが捕まえる。
揺れが激しいせいか、いつもより窮屈な馬車内のせいか、居場所を上手く見つけられずナナは不満そうである。
馬車は、街道を外れて整備されていない悪路を進んで行く。
見た目だけでいえば、悪路というより土砂崩れの跡とでもいう方が正しいかもしれない。
それを誰かが指摘すると「失礼ね!」と荒げた声が飛んでくるのだが。
竜使いの隠れ里を経った後、黒帝竜調査隊は馬車で街道をひたすら北上しミシェの故郷だという村を目指していた。
アクトも一度立ち寄った事のある街道の交差点メリアブルームの街を通り、それからは旅人はあまり立ち寄らないという小さな町をいくつか通り、更に宿屋はおろか店もろくに無いような村を通ってきた。
更にこの悪路となれば、実は目指しているのは人が住んでる場所ではいと言われても驚かないだろう。
「旅は魔物も危険だけど、移動中にも危険が多いからな。 今みたいに街道を通ってない時は特に!」
アクトが夢で聞いたような内容を危機感無さそうに言う橙髪の青年はエリィ。
こう見えて剣の腕が立ち、こう見えてクルクノス王国の王子である。
「とはいえ、いち乗客でしかない我々には何もできることはありませんね」
隣にいるのは艶やかな長い黒髪を結んだ貴族令嬢エルヴィーラ。
相変わらずの整った顔に無表情で精巧な人形のようである。
「殿下こそ、能天気に気を抜かないで下さいよ」
臣下だからということでエリィだけには敬語を使ってるゼノディア。
ただ扱いは尊敬している人に対するそれではないが。
「俺運良いし、俺より強い人なんて早々いないから大丈夫だぞ!」
「えーっと、どういう意味だエルヴィーラ?」
「つまり、エリィは我々を脅威だと思ってはいないということですね」
「……」
一瞬の、間。
「みんなのことは、信頼してるんだよ!」
「間が無ければ完璧でしたね、殿下」




