19.
「ここが旅人組合……。 外から見る限りは割と普通の建物だな」
町の広場で朝食を終えたアクトとミシェは、南門の近くにある黒い蝶と「旅人組合」の文字が書かれた看板が目印の建物の中に入る。
建物の中は、大きな広間になっていた。
一番奥には受付のようなカウンター、入って右手には本棚や壁に張り紙がいくつもされている。
左手は寄合所のようで長椅子が置かれている。
混雑というほどの人数はいないが、多くの旅人の姿があり、これから魔物退治だろうか武器の手入れをしている旅人や、報酬金を受取り満足げな旅人がいる。
「ここが旅人組合、のメリアブルーム支部。 旅人が日銭を稼ぐってなると、大体は旅人組合にお世話になる事になるわ。 依頼を紹介してもらって、達成すると報酬がもらえるって仕組み」
「ふーん。 依頼ってどんなのがあるんだ?」
「色々よ。 魔物退治は勿論、情報収集からお使い、店番なんてものあるわよ」
ミシェが右手にある張り紙が大量にされている壁を指す。
様々な絵が紙が大量に張られている紙1つ1つが依頼となっており、自分の達成できそうな依頼を選ぶのだそうだ。
壁の前にはどの依頼を受けようかと吟味している旅人の姿もあった。
アクトがどんなものがあるかと壁に貼られた紙を読んでみると、スライム退治から魔石集め、異端宗教の目撃情報、さすらいの旅医者への届け物。
果ては店のビラ配りから幽霊の目撃情報や伝説の珈琲豆の捜索まで、その依頼内容は多種多様だ。
依頼の紙には絵が大きく書かれており、魔物退治であれば対象の魔物の絵、魔石集めであれば魔石の絵など、どんな依頼内容かが分かりやすい、とアクトは関心する。
「伝説の珈琲豆か。 伝説の紅茶の茶葉ならちょっと興味あったな」
「え、アクトは文字読めるの?」
「まー、本読むのと仕事に支障が無い程度にはな。」
「凄いじゃない! それなら日銭稼ぎには困らないわよ。 文字読める人って少ないし、旅人となったら猶更だから」
ちなみにあたしは文字読めないから、とミシェが付け足す。
文字というのは、基本的に王侯貴族などの上流階級が使用するもので、普通は最低限な単語だけ分かっていれば生活に何ら支障はない。
むしろ都会から離れれば離れるほど文字が読めずとも不便すらしないだろう。
アクトは仕事で必要だからと覚えさせられて、その延長で本を読みながら少しずつ覚えたのを思い出した。
「確かに、普通に生活する分には読めなくても問題ねーけど、旅で新しい町とか行ったら困る事あるんじゃねぇの?」
「そんな事ないわよ。 依頼書もだけど、絵が描かれてるでしょ? それで何が描かれてるか大体分かるの」
「あー、なるほど」
依頼書にやけに大きく書かれた魔物などの依頼内容の絵。
先程行った広場の看板を思い出してもの屋台の看板も売り物の絵が大きく描かれていたし、宿屋の看板もベッドの絵が描かれていた。
文字が読めなくても絵で何となく何を示しているか分かる、という寸法だ。
「意外と文字読めなくても問題ねぇのな」
「依頼を受けるためにカウンターに行けば細かい部分は読み上げてくれるから不便無いのよ。 勿論、読めた方が何かと便利だけど、ね」
そんな話をしながら、2人は建物の一番奥にあるカウンターに辿り着いた。
「さて、到着」
「そういえば、何のためにここに来たんだ?」
何はともあれ旅人組合へ、と連れてこられたアクトは首を傾げる。
「あら、話してなかったかしら? ここで、旅人の登録をするのよ」




