187.
「んで、ソレ何作ってるんだ?」
ドゥラプレイヤと呼ばれるかつて竜使いの隠れ里があった場所を目指す街道。
ハコがアクトが手に持っている白銀色のスープを指差して尋ねた。
ガタン、ガタンと馬車の揺れに合わせて、スープの上に不規則に波が立っていた。
「あーこれか。 これはシリンダーの液を作ってるんだよ」
馬車の荷台に置いてある鞄からガラスでできた細い筒状の容器を取り出すと、揺れる車上で器用に白銀色のスープを容器に入れていき、蓋をする。
それを繰り返すと、スープの入っていた容器は空になる。
代わりに、アクトの手元には白銀色の液の入ったシリンダーが3本残った。
「へぇ、シリンダーってそうやって作んのか」
「これは割と我流だけどな。 シリンダーって魔力を液体にしたものを入れるだけだから、作るのはそんなに難しくないぜ」
腰に挿してあるシリンダー銃を取り出し、先程作ったシリンダーを入れ込む。
これはシリンダーの魔力がある限り弾丸を撃ち続けられる、旅人にも人気の武器である。
アクトの持っているものは市販品に比べると時計屋の仕事がしやすいように色々改良されてはいるが。
「旅ってのは念には念を入れておくに越したことは無いって身を持って経験してきたからな。 準備できることは準備しねぇと」
つい先程見た不穏な夢の内容を思い出しながら、改めてアクトはそう感じていた。
「あぁ、その通り。 旅人のマナー『何事も人命第一』だな」
「んー、まぁそうなんだけど……。 ミシェもよく言ってるけど、その旅人のマナーって何なんだ?」
アクトの認識としては旅人の心構えのようなものではあるようだが、『スライムを見かけたら倒すべし』などルールっぽいものも多い。
「旅人組合の作った……っていうか、旅人の間に昔からあった暗黙の了解を明文化したもんだ。 10年前に旅人が増えた後、文化の違いだったりでそういうの知らない奴らのトラブルが絶えなくてな。 "ルールというほど厳密でないが可能な限り守った方が良い物"を作ったんだよ、それが旅人のマナーって訳」
「じゃあ、旅するなら従った方がいいんだな」
「ま、波風立てずに旅したいなら、な」
ニヤリとハコが笑う。
どうやら全然守らない旅人も少なくないらしい。
「……さぁて、お喋りはここまでにしとこうか。 そろそろ目的地のドゥラプレイヤが近いぜ」
「分かった。 おーいみんな、そろそろ着くってさー!」
アクトが荷台に乗っている、他の黒帝竜調査隊のメンバーに声を掛けた。




