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「勅命って、国の偉い人からの命令ってことよね? 昔、本国から来てたの1回だけ見たことあるけど」
『本国』というのは、ミシェの出身の隣国フローラルハウズ帝国で首都近辺を指す言葉である。
クルクノス王国と違い近年できた国であるため、隣国でありながら色々と勝手が全く違う。
ミシェが「まー、突っぱねたんだけど」と付け加えた内容も、クルクノス王国ではありえないことだ。
「エリィがあんな感じだけど、このクルクノス王国って国は、王族の言葉は絶対なんだよ」
「絶対?」
「そう、絶対。 だから『勅命』ってのは王族が絶対的な命令として出したものってことだな」
王族の言葉は絶対であり、王の言葉は法よりも優先される。
それがこのクルクノス王国の不文律。
幸い今代の王族は民主的なので普段のお喋り程度の反論で不敬罪にはならないだろうが、それでも勅命と言われたものは反論を求めぬ絶対の決定である。
「でも、嫌だっていれば断れるんじゃないの?」
ミシェの疑問にアクトが肩を竦める。
「王族が撤回してくれればな。 そもそもこの国で、唯一合法で法律を破ることが許されてるのが勅命だからな」
「そんなに凄いヤツなの。 じゃあ、もし従わなかったりしたら……」
「王国法に従い不敬罪で拘束されます。 場合によっては、極刑もありえます!」
笑顔でエリィが補足する。
ここでミシェはようやく他の人がため息の1つも吐きたくなる理由がを理解した。
とはいえミシェとしては黒帝竜を追うというのは旅の目的ではあるので、単に旅の同行者が増えたというだけではあるのだが。
「って訳で反論は認めない方向で、質問は受け付けるぞ!」
「では、質問です」
待ってましたとばかりにゼノディアがすっと手を上げる。
「我々で黒卵と黒帝竜の関連性について調査するというのは分かりましたが、どう調査するのですか?」
指名されたことにばかり目が行っていたが、そもそもこの調査隊の目的についても曖昧な部分がある。
例えば、黒帝竜に話を聞くというのができれば話は早いのだが、そんなことはほぼ不可能と言っても過言ではない。
相手は理性の無い暴竜と名高いドラゴンだ。
そもそもアクトたちの先の旅路の最後は黒帝竜と戦って実質負けたようなものだし、ゼノディアの部隊が半壊したのも同様の理由であるのだ、捕まえるどころか接触したところで一方的に蹂躙される可能性すらある。
「それも考える調査隊! ゼノディア何かアテ無いか?」
「それも込みの指名ということですか。 ……分かりました、私の方で何か考えておきましょう」
「よろしく!」
軽い返事にゼノディアは大きくため息を吐く。
他の質問はとエリィが見回すが、それ以上の質問は無いようだった。
勅命だから反論しても無駄だし、黒帝竜のアテなんてそうそうあるものではない。
「では、各々準備が終わったら私の屋敷に集合してくれ。 恐らく、早々に王都から離れることにはなるだろうからな」
これ以上話すことも無いということで、ゼノディアの言葉でその場は解散となった。




