15.旅人の休息地の夢
──それは酷く鮮明な夢。
『ほー、すげー賑わってる町なんだな』
町の広場は、多くの旅人で賑わっていた。
複数の街道の交差点にあるこの町は、旅人の往来が多く休息地としても人気だそうだ。
『おかしいわね、いつもはここまで人が多く無いんだけど……。 お祭りの時期でも無いんだけど、何かあるのかしら』
ミシェが首を傾げる。
話を聞いてみると、やけに賑わっている原因は、旅人向けに大規模に募集を掛けている高額な報酬の依頼が目的で人が集まっているそうだ。
『高額な報酬の依頼かぁ。 なんか旅人って感じだな』
『なー』
アクトが頷くと、上着のフードに入っているナナが鳴く。
『でも、これだけ人が集まるほど大規模なんて珍しいわね。 どこかの金持ちの催し物かしら?』
町中を散策していると、町の北門から男がただならぬ様子で走ってくる。
風貌から察するに、高額な依頼というのが目的の旅人だろう。
『こ、黒帝竜の大群だぁ!!』
男が空を差すと、町の北の空に巨大な黒い鳥の大群が近づいてくるのが見える。
否、角と尾を持つ黒いドラゴン……先日アクト達が竜渓谷で襲ってきたものよりひと回り小さいが、まごう事なき黒帝竜そのものである。
町は突如として騒々しくなる。
戦えない者は黒帝竜とは反対の方向へと逃げ、戦う意思のある旅人は武器を持ち黒帝竜の方向へと向かう。
『オ、オレ達はどうする?!』
アクトが空を見ながら逃げるか隠れるかとおろおろしていると、ミシェは右手をかざし武器を構える。
『目視できてる時点で、逃げるのは手遅れよ。 死にたくなければ応戦以外の選択肢は無いわ』
『んなこと言われても……』
『ななっ!』
ナナがアクトの髪を引っ張る。
空を見上げると、黒紫色の炎の塊が無数に降り注いでくる。
ミシェが瞬時に周囲を見渡す。
『アクトこっちよ!』
『うわっ、あぶねぇ!』
『なー!』
アクト達は慌てて近くの建物の影に隠れる。
炎の塊は建物は勿論、町の路面や逃げ遅れた人々に容赦なく降り注ぐ。
あらゆる建物が半壊し、町はあっという間に炎に包まれる。
そして音が落ち着いたかと思うと、地響きが周囲に響き渡る。
黒帝竜の群れが、地上に、町へと降り立った音だ。
グオォオオオ!!
降り立った黒帝竜たちは、まるで蹂躙を宣言するように次々と咆哮する。
ビリビリと、大気が揺れるような感覚が辺りを満たす。
平穏な町に訪れた突然の襲撃。
準備が不十分だったのか、交戦する旅人の数も次第に減っていった。
『流石にこれはもう正面から戦っても無駄ね……。 戦力が違うわ。』
ミシェが襲ってくる黒帝竜を槍で迎撃しながら退路を探す。
アクトも物陰に隠れながら、同じく退路をさがす。
『逃げるならあっちの方角か?』
アクトは、倒壊した建物の隙間から、比較的被害の少ない箇所を見つける。
黒帝竜の群れの意識が向いていない事を確認し、素早くそちらへ向かう。
『アクト! 駄目、そっちは……!』
ミシェの言葉の途中で、ゴゥッという轟音が上空から響き渡り地面に影を落とす。
上空には、視界から天を覆い隠すほどの巨大な黒紫の炎の塊が迫っていた。
そこで、夢はプツリと終わった──
旅の再会です!
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