134.
「なんか……色々衝撃だったわね」
応接室から、元いた客間のようなリビングルームが広がる部屋に戻って来たアクト達。
ミシェが(恐らく)自身を落ち着かせるように、テーブルの上に新しく置かれているマカロンを平らげていく。
「衝撃的というか、色々驚きすぎて、冷静に考えれば気になる所ばっかりだった気がする……」
アクトが落ち着こうと部屋に帰って来て2杯目の紅茶に口を付ける。
「うちは普通の王族だから、気にする所なんて1つも無いぞ!」
「「普通とは?!」」
一緒に付いてきたエリィが自信満々に言うので、思わずアクトとミシェが高速で突っ込みを入れる。
「ちょっと大国なだけで、普通の国王と王子だぞ!」
「何だったらエリィが王子っていうのが一番驚いたわよ!」
「今まで各所のお偉いさんと知り合いだった謎が解けたっちゃそうなんだけどさ……」
当のエリィは「隠してた訳じゃないけど!」と相変わらず悪びれる様子もない。
ちなみに、このクルクノス王国の貴族であるエルヴィーラは当然知ってる事だが、第1王子であるエリィは滅多に人前に出ないので庶民が知らないのも無理はない!とこれまた悪びれずに言うものだから、「それはそれでおかしく無い?!」と更に突っ込みが過熱する。
「なー?」
そんなやり取りを、留守番をしていたナナが首を傾げながら眺めていた。
「気になる事といえば、あの国王サマ……全然気配が無かったわよね」
ひとしきりエリィに突っ込みを入れた後、ミシェが空になったマカロンの皿を端に置いて山盛りのマフィンをの皿から1つ手に取り頬張りながら、ふと思い出したように言う。
「いやいや、威圧感ありまくりだっただろ。 国王陛下の前なんて緊張しすぎて何考えてたか覚えてねぇもん」
「確かに喋ってる時は威圧感もあるし存在感もあるんだけど、少しでも目を離すと全く気配が無かったのよ。 山の狩人の方がまだ気配あるわよ」
一歩間違えば不敬罪な発言である。
ただ、この場にいる王族が「父上は実力者だからな!」と気にしていないどころか自慢げなので、問題なさそうではあるが。
「確かに部屋に現れた時も突然だったな……。 でも、キラキラ王族オーラ全開の第2王子がいたから目立たなかったってだけじゃねぇか?」
「第2王子は思い描いてた通りの王族って感じだったわよね。 ……カッコ良かったわ」
「あ、そう……」
「アリスは自慢の弟だからな!」
うっとりと言うミシェとエリィは何処かズレた同意をするエリィを、呆れるようにアクトが眺めていた。
「あとは……そう、王サマってエリィのお父さん……なのよね?」
「そうだぞ、父上だからな!」
「威圧感はともかく若かったわよね、お兄さんって言われても違和感ないかも?」
むー、と唸っているミシェに対して、アクトはそこは不思議に思っていないようだった。
「それはアレだろ、何人か見た事あるけど貴族で昔に流行ってたっていう"年齢静止"だろ?」
「そうだぞ! だから父上の見た目はお若いままだな! 正確には知らないけど、俺より年下じゃなかったかな?」
「へー、なんかそう考えると不思議だな」
アクトとエリィで話が進んでいる中、ミシェは首を傾げて話に付いていけていないようだった。
「年齢静止って……なぁに、それ?」
「あれ、世界的に一般的じゃねぇのか?」
「世界的にはそんなに浸透してないと思う!」
「あ、そうなのか」
「なー」
アクトが寄って来たナナを抱きかかえながら、年齢静止について説明を始める。
正式名を『年齢静止魔術』別名『不老魔術』と呼ばれる特殊な魔術。
結論から言うと、人類の夢と言われている不老不死研究の副産物で、魔術を使用した人間の外見をその時で止めるというもの。
ただし、寿命自体は変わらない。
見た目は"不老"ではあるが決して"不死"ではない、だからあくまで見た目の"年齢静止"。そんな魔術である。
数十年前にとある魔術師によって開発された魔術だが、とにかく必要な魔力量が膨大なため、魔力のある……特に貴族の一種のステータスとして流行った時期があったそうだ。
「不老不死じゃないけど、見た目が変わらない魔術……世の中、不思議なものがまだまだいっぱいあるわねぇ」
ミシェがそこまで興味無さそうに頬杖を突きながら、皿にある最後のマフィンを手に取った。
明日8/22で連載開始してからなんと1周年を迎えます!
なので、明日は活動報告の方を初めて更新します。
思い返すと長いやら短いやら……
感想や所感がメインですが、ちょっとした発表?のようなものもあるので、
お時間ありましたら、ぜひご覧ください。




