131.
「俺……登場っ!」
応接室の扉が開き、その声が部屋の中に響く。
アクトとミシェ、そしてクルクノス国王フィルディナントと第2王子アリッシェロナは声の主に一斉に顔を向けた。
現れたのは、橙色の髪をした凡庸な青年。
いつもと違い白と茶色を基調とした品の良い服を着ているが、アクトもよくご存じの剣士・エリィである。
「エリィ?!」
「今までどこに……っていうか、何でここに?!」
登場した見知った顔に安心する反面、国王のいる部屋に乱入など不敬罪で捕まっても文句の言えない所業にアクトとミシェは困惑しながら声を上げる。
「……何だ、エリィ。 話していなかったのか」
2人の様子を見て、国王フィルディナントは咎める様子もなく呆れるように呟く。
「話すタイミングが無かったと言いますか! 何と言いますか!!」
そんな事を言いながら、エリィはつかつかと部屋の中に入って来て、アクトとミシェの近くで止まる。
そして、普段と全く変わらない調子で口を開いた。
「じゃあまず、改めて自己紹介だ!
俺はエリエッシュロ・クルクノス、このクルクノス王国の第1王子だ!」
「「……」」
開いた口が塞がらないとは正にこの事、とでも言わんばかりに、アクトとミシェは口を開けたまま先程までの不敬やマナーといったものを忘れて茫然としていた。
「……第1王子? エリィが?」
ミシェの疑問に、正面に座る国王と第2王子が頷く。
「第1王子って国王の後継者……次期国王?」
ミシェの疑問に、正面に座る国王と第2王子が更に頷く。
当人のエリィは「そう!」と宝物を見せびらかすような自慢げな顔をしていた。
どうやら冗談でも何でもなく、エリィが第1王子というのは間違いないようで、アクトとミシェはお互いの顔を見合わせて目をパチクリとさせる。
「「えぇえええええ?!?!」」
そして、絶叫した。
コポポポ……
アリッシェロナが紅茶を空のカップに注ぐ音だけが部屋に響く。
差し出された紅茶をアクトとミシェは一気に飲み干す。
「……落ち着きましたか?」
「な、なんとか……ギリギリ……」
「何を言ってるかさっぱり分からないけど、続きを聞きましょう」
カップを置いて、とりあえず混乱だけは落ち着いたアクトとミシェは、話を聞く体勢になる。
「と言っても、俺が第1王子だっていう話は、それ以上は特に何か言う事も無いけどな!」
ちなみにエリィはアリッシェロナに「兄上は説明不足を少しは反省して下さい」と絨毯の上に座らされている。
次期国王に対してそれでいいのか、と気にする余裕はアクト達には無い。
「百万歩譲ってエリィが王子だっていうのは分かったとして、」
「譲る距離長い気がするけど、うん!」
「王子が護衛も付けずに1人で何で世界中をフラフラしてたんだ?」
アクト達がエリィと最初に会ったのは、フローラルハウズ帝国の東の端、港町オーロラメイス。
それからレストラート連邦を横断するように移動している最中も、"クルクノス王国の王族"として何かしているようには、少なくともアクトには見えなかった。
「それは、父上から頼まれてた調べ物をしてたんだ」
「調べ物?」
「黒帝竜でしょ。 あたし達と一緒にいた方が良い理由なんて、それ以外無いでしょ」
「そういう事!」
ミシェの言葉に同意するエリィ。
当然、黒帝竜が目的というのはアクトも承知しているが、黒帝竜の"何を"という部分が気になっていた。
そして、それは王族……しかも次期国王という、言ってみればこのクルクノス王国の2番目に偉い人間が単身で国外に出てまでしなければならない事なのだろうか。




