114.
『グォオオオ!!』
眼前で影からそろぞろと現れる黒帝竜の群れが咆哮し、周囲の待機がピリピリと揺れる。
影から現れる黒帝竜は最初は数えられる程度であったが、あっという間に空想庭園と呼ばれる平地を埋め尽くすほどの数となった。
「狼狽えるな! たかが黒帝竜の数が増えただけだ!」
討伐部隊の面々の声が飛び交う。
流石というべきか、黒帝竜の群れが突然現れるというイレギュラーな事が目の前で起こっている中で、彼らの動きは素早かった。
即座に、影から新たに現れた黒帝竜の群れ対して攻撃を仕掛けるチームと黒帝竜の首領への攻撃を続けるチームへと分かれたのだ
幸いにも、影から現れた黒帝竜に回復力は無く黒帝竜の首領に比べると小柄で動きも遅い上、数人掛かりで攻撃を行えば砂が崩れ落ちるように霧散する。
しかし、倒した傍で再び影から現れるので、一向に数が減っていかない。
その上、本命である黒帝竜の首領の回復力は変わらず、攻撃を行ってもすぐに回復してしまう。
最初に拘束た鎖があるのは幸いというべきだろうか。
「オレ達も動くぞ! アクト、結界石を頼む!」
討伐部隊の動きを見ながら言うエリィの言葉に、ハッとしたアクトが慌てて結界石の入った硝子の箱を開ける。
「わ、分かった」
硝子の箱の中には紫水晶で作られた6つの小さな結界石と、中央に大きな結界石が1つ。
アクトが箱中身を確認しながら辺りをキョロキョロと見回す。
「どうしたの?」
「いや、結界石を隠せそうな丁度良い場所が無いかなって」
空想庭園が平地とはいえ山の中腹。
座れる程度の大きさから人が隠れられるほどの大きさまでの岩場が無数にある。
黒帝竜の群れにこのまま踏みつぶされれば文字通りの平地となってしまう可能性もあるが。
「アクト、そこの岩場はどうだ? 丁度、影になる場所に穴があるぞ!」
エリィが指差したのは、小動物が巣作りで掘ったかのような小さな穴。
草木の生えぬ地のましてや岩場で動物が掘るなどはあり得ないのだが。
「確かに、ここなら安全そうだな。 硝子の箱が頑丈とはいえ、なるべく攻撃にさらされない方がいいもんな」
威張り顔のエリィは無視しつつ、アクトが箱の中から小さな6つの結界石を取り出しポケットに入れる。
そして硝子の箱の蓋を閉じて箱ごと穴の中に入れる。
「えっ、箱ごと入れるの?」
「この大きい結界石が結界の要なんだぞ。 頑丈な箱で覆っておく方が良いだろ?」
「……確かに、そのまま使えるとはいえ壊される訳にはいきませんからね」
「な~」
ミシェ、エルヴィーラ、ナナが納得しながら箱が入れられた穴を覗き込む。
「じゃあ、まず最初の結界を起動するぞ」
手を翳しアクトが魔力を注ぐと、チカッと硝子の箱に入った濃い紫色の宝石が光り輝く。
光は結界石の外へ地面を這いながら円形に波のように、空想庭園の隅から隅まで広がっていく。
そして天に向かいながら収束するように波は進んでいく。
波の進みが終わる頃には結界石を中心としたドーム状の薄紫の膜が、空想庭園を覆うように作られていた。
「よし、第1段階である最初の結界を張るのはなんとか完了だ……。 でも、こっからが本番だぞ!」
「分かってるわ!」
「気を付けていこう!」
「はい、心得ております」
「なー!」
アクト達はお互いの顔を見て頷き、
黒帝竜の群れとの戦いが繰り広げられる、
既に戦場と化している空想庭園を駆けていった。




