104.
ガタガタガタ。
無事、紫水晶の鉱山での目的だった純度の高い紫水晶を入手する事ができ、シェインレートへ向けての帰路の街道を馬車が進んでいく。
「それにしても、遭難してたとは思えない凄い量持ち帰ってきたわね……」
「そうですね、鉱山の方々も驚いていました」
「流石アクトだな!」
全員でアクトの鞄の中を覗き込む。
そこには、深い紫色をした水晶がいっぱいに詰められていた。
「目的の純度のヤツが見つかったから、遭難した甲斐あったってもんだな」
「なー」
「これで結界石を作れば、黒帝竜の回復力を無効化できるのよね?」
「あぁ、上手く作れば貴族の家宝どころか国宝レベルの魔法道具が作れるレベルのものだから、期待していいと思うぞ」
「この小さな鉱石が、国宝レベルになるんですね」
エルヴィーラがその中の1つを手に取る。
手の平に納まる大きさだが、その魅惑的な色は代替えの効かない力に妙に納得感のあるものだった。
「じゃあ、結界石じゃなくて魔法道具作った方が黒帝竜に効くんじゃないの? 国宝レベルって物凄く凄いって事よね?」
「んー。 理論上はそうなんだけど、それを作る技術が現代に無いんだよな」
アクト曰く、現存する国宝と呼ばれている魔法道具はいずれも遠くに見える黒塔・天の傘と同程度の大昔に作られているものである。
そして技術が失われて久しいこと。
「アクトの所属する輪転の軛でも無理なのか?」
「輪転の軛でも修理が限界だな。
そもそも、技術が失われてるのは魔櫃じゃなくて魔核の技術だから、時計屋っていうよりは彫金師の問題だな」
「なー」
ガタガタガタ。
そんな話や他愛のない話をしている間に、馬車は無事にシェインレートの街へとたどり着いた。
「早い帰りだったな」
鉱山を出て数刻、シェインレートの宿屋前へと到着した馬車。
アクト達が馬車から降りると、シェインレートの領主の少年ルフナスカが直属の兵士を伴ってお出迎えをしてくれた。
この人、実は暇なのかなとアクトとミシェが顔を見合わせていると、「お前たちが帰ってくるという連絡があったから来ただけだ」と訂正された。
「目的のものは見つかったか?」
「あぁ、満足いくのがな」
アクトが鞄の中に詰まっている紫水晶を見せる。
魅惑的な深い紫の色が詰まった鞄に、ルフナスカは引きつったような顔になる。
「……お前達、最深部まで行ったのか?」
「行ったっていうか、成り行きっていうか……。 これだけあれば十分だよな?」
「頼んだ量も純度も無理めな理想論だったんだがな……だが、これなら黒帝竜打倒も現実的な話になったな」
ルフナスカ曰く旅人組合と協力して、対黒帝竜の討伐部隊を竜殺しを中心に募り、
旅人組合が元々準備していたという事もあり数日以内には準備が整うとの事だった。
「ともあれご苦労だった、あとは彫金師の仕事だ。 出立の日まで身体を休めてくれ」
採ってきた紫水晶を渡して、この少し変わったお使いは無事に終わった。
強行軍だった事もあり、今日はもう休もうという話になり、アクト達はそのまま宿屋へと戻る事にした。
空を見上げると、丁度日暮れの時間となっていた。
「はー。 あんなに色々あったのに、半日しか経ってないんだな」
「なー」
アクトが辺りを見回すと、出かける前と変わらずシェインレートの街は旅人で賑わっている。
つい数刻前まで鉱山の深穴の底にいたという事、逆に今この場に立っている事が妙に夢見心地に感じていた。
「半日の出来事にしては色々あったわね……。 でも、それはそれ! 黒帝竜との戦いに切り替えていかなきゃ!」
今までの道のりでは行きあたりばったりの戦いが多かったが、今回は事前準備も人手も万全の状態。
……つまり、倒す算段があって挑みに行くという事だ。
「勝算はどうなんでしょうか」
エルヴィーラが聞くと、ミシェが腕組みをしながら考える。
「普通の黒帝竜なら旅人組合が討伐部隊を組んだなまず負けないんだけど、首領ってなると絶対とは言えないかしら」
「この上ないくらい良い流れだから、きっと大丈夫だ。 そのためには、休息をちゃんと取って万全の体調にしとかないとな!」
「それもそうだな。 疲れに疲れてるし、そういうの考えるのは明日でいいか……ふぁぁ」
アクトが大きな欠伸をする。
決戦の日は近い……が、今日ではない。
各々の考えはあるが、とりあえず今日の所はと宿屋に早々に戻っていくのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
相変わらずストックがギリギリで投稿しているのですが、
なんとかゴールデンウィークもお休みせずに乗り越えられました。
そして、とうとうお話が100話を超えました!
読んで頂いてる方がいるのを励みにここまで頑張ってこれました、
これからも更新頻度落とさずに頑張っていこうと思いますので引き続きよろしくお願いします。
さて、此方でお話は一旦一区切りとなります。
次のお話が調整中のため更新を1週間お休みして、
次回の更新は再来週の月曜日の6/5(予定)となります!
さて、次は一体どんなお話が待っているのでしょうか。




