カラスに転生したら、少年拾いました。2度目の転生、少年は青年になり私を溺愛してきます。
変わった異世界転生ものです。
なんでもありの方どうぞお読みくださいませ(笑)
5/23 19:00追記
文章後半、ヒロインの愛称を、軒並み間違えて投稿するという盆ミスを誤字報告して頂き教えて頂きました。大変申し訳ありませんでしたー!!Σ(>Д<)
5/29 6:00追記
皆様のおかげで、異世界恋愛【日間】で2位を頂きましたー!!
ありがたやありがたや…。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
私、異世界転生しました。
カラスに。
えぇ、何故かカラス。そりゃあ、確かに前世思ったことがありますよ!!カラスって頭が良さそうだけど、どんなこと考えてるんだろ?なんて。
だからって、わざわざ前世の意識残したまま転生しなくて良いですよね??
カラス転生したと気付いた時は絶望しましたさ!全身真っ黒。この異世界でも嫌われものなカラスは、気を付けないと周りから攻撃されるし何より人の嫌悪の目が辛い!!
こちとら、生きるために必死に食事探しをしなきゃいけない身なんですよ。
ゴミを荒らすカラスにうげ~と思った前世。文句言ってごめんなさい。この嘴じゃ、袋は簡単には開けられないよね。穏便にすまそうとしても、おっきな嘴は豪快に破き口の中へ放り込むしかないし、大きな翼は広げて飛ぶと、人にぶつかりそうな程でスピードもある。そんな姿で迫られたら怖いよね~。でもね、こっちもぶつからないように必死で移動してるのよ!!
唯一この転生で喜んだのは、飛べること。
そう!!
人類が夢見た(?)願いが!
……まぁ、現世人類じゃないんですけど。
それでも、翼を広げて空高く飛べるのは凄く楽しくて、見える景色に感動したのはここだけの、話。
異世界転生ものって色々あったけど、カラスって、なかなか地味だと思うんだよね~。せめて人であれ……。
転生した意味もわからず、このまま死んでいくだけの日々なのかなぁって思っていたある日、私は見つけてしまった。
倒れている人の中で、小さな男の子が母親らしい女性に守られるように泣いて助けを求めているのを。
もしかして、貴族とか高貴な身の上なのかな?と思えたのは、転倒して潰れている馬車の装飾が街で見かけるものよりダントツに豪華なこと。そして、その少年と母親?の服装がきらびやかな光沢のあるドレスやジャケットであったこと。
…うん、そのおかげで気付いたのもあるんだよねぇ。カラスの習性なのか、光り物に反応しちゃうんだよね…。人を襲ったり奪ったりする衝動はありがたいことになかったから良かったものの、集める気もないのに、ついつい光ってるものに反応しちゃう度、自分がカラスなんだなぁと実感してしまうから嫌なんだよね…。
いや、そうじゃない!!
今目下問題なのは、少年だ。見たところ崖から落ちて母親が庇って亡くなった…ってところかな。馬車に潰されるように男の人が1人倒れているのも見える。御者ってやつかな?
ただ、気になるのは、あんな高貴そうな二人組なのに、周囲にいるのが御者っぽい人のみって護衛とかどうしたの?普通いそうだけど……。馬車だけ落ちて、護衛とかは今助けを呼びにいってたりするのかな?
とはいえ、崖からの距離はかなりある。生存者を見つけるまでにあの子生きてられるかなぁ?
……よし。手助けするか。
そう思った私は、森で見つけた果物を少年がいる場所の近くまで持っていった。
ビクッと身体を震わせ、怯えた目をしてこちらを見る少年は、しかしすぐにキッと睨み付けるように亡くなった母親を守るように立ちはだかった。
もしかしたら、母親を食べようとしてるとでも思ったのかもしれない。小さくても男の子だねぇ。
怖いし不安だろうに、強い子だな。それが私の第一印象だった。
いくつかの果物を置いてその場を離れると少年から見えないところで様子を窺う。最初は警戒して食べようとしない少年も、背に腹はかえられぬと思ったのか、恐る恐る手を出し、問題ないとわかれば、全て食べきった。
うん、良かった。これで飢え死には免れたかな?折角助かった命だもの。出来れば生き延びて欲しいよね。
幾日か同じようなことを繰り返していたある日、少年から声を掛けられた。
年の割にすごくしっかりした喋りだった。
「待って!!…って人の言葉はわからないか……」
話し掛けられたのが初めてだったので(そりゃそうだ!鳥だもの)、思わず反応して振り返ったら一瞬綺麗な碧眼を大きく見開き、さらに話し掛けてきた。
「え。もしかして…本当に僕の言葉がわかる…の…?」
う~ん。これどう反応するのが正解かなぁ。とりあえず鳴いてみようか。
「カァ!(うん)」
ビクッ。
あ、ごめん。カラスの鳴き声って結構大きくて怖いよね。
でもそのまま見つめていたら、どうやら気持ちが伝わったらしい。
「わかる……ってことで、いいのかな…?あの、食べ物をくれてありがとう。君のお陰でなんとか飢えずにすんでるよ」
おぉ、誉められた!!
ちょっと嬉しくなって小躍りしてたら、ぷはっと吹き出す声が聞こえた。
「は、ははははは!!なにそれ、もしかして喜んでるの!?そんなカラス、見たことないよ!!」
どうやら私の歓喜の舞がツボに入ったらしいです。……いや、そんなに笑わなくてもいいじゃん。こちとら前世ぶりに人と話せて、感謝までされて嬉しくなっちゃうのも当たり前でしょ!!!
笑いすぎて涙まで出てきた…と思ったらそのままぼろぼろと涙が止まらなくなってしまったようだ。
「は……はは……。僕、まだ笑えたんだ……。もう…このまま死ぬだけだと…思ってた…っ、のに……っ」
喜怒哀楽って大事だよね。それすら出来なくなるほど、きっと少年は絶望していたんだろうなぁ。
そっと翼を広げてポンポンと腕を叩いた。…つもりだったけど、実際に出来たのはばっさばっさと柔らかくもない羽根が少年に攻撃している姿にしか見えなかった。
……うん。そんなもんよね。
でも、少年はそれで伝わったのかうっすらと笑みを浮かべて私にぎゅううと抱きついてきた。
うぇえええ!?
「カラスなのに、僕よりよっぽど人間みたいだ……っ。
……ありがとう」
それだけ言って少年は静かに涙を流しながら泣き止むまで私を離さなかった。
(これ、人に転生してたらめっちゃ感動シーンなんだけどなぁ……)
結局はカラスでしかない私には滑稽な姿しか見せられないのである。
その日を境に、少年…ディオは変わった。私と友達になりたいと自ら名前を名乗り、私にはルーという名前をつけてくれた。
私は近くの川の場所を教えたり、木の実のなる場所を案内したり、一緒に行動するようになった。
街が見渡せる場所にも行ったけど、『あぁ、この場所か…』と位置の把握だけすると街には行かないと宣言して森の中で過ごし始めた。
多分……あれはただの事故じゃなかったんだろう。
崖の上を見に行ったんだけど、そこにはとくに視界が悪いとか道が悪いとかもなく。…恐らく馬車に何か仕掛けがしてあってそれで転落したんじゃないのかなぁ。その証拠に何ヵ月経っても誰も探しに来ない。
狙われるような立場なら、生きているとわかればまた、危険な目に遭うに決まっている。守る人はここにはいない。ただのカラスにできることはほぼない。
それでも、この森のことなら大体把握している。それに、私なら街に行っても問題ない。
だから、店主にごめんねと思いながら、たまに肉や魚の食べ物を盗んでくる。どうせカラスとは嫌われものなのだ。ちょっとくらい攻撃されても慣れたものだ。
「ルーったら、また街で盗んできたの!?だめだよ、そんなことしたらルーが怪我するだけじゃないか!」
「カァカカァカァ!!(だって、ちゃんと食べないとダメだもん)」
ちなみに、ディオがカラス語がわかるわけではない。
でも、言わんとすることがわかっているのかシュンとして私の頭を撫でてくる。
「……わかってる。僕のためだってことは。でも、そのせいでルーが怪我して欲しくない……」
優しいなぁ。本当に良い子だな。だからこそ、生きて欲しい。…それにこの子の身分は恐らく……。
街で流れる噂で、この国の第二王子とその母親の側妃の訃報の話が囁かれていた。正妃の子どもより優秀だと噂の王子だったのに……と言われれば納得することばかりだ。
きっとディオは正妃に恨まれていて、事故に見せかけて殺されたのだ。訃報の話が流れているのに、誰も探しに来ないのはそういうことだろう。
……果たして彼に味方はいるんだろうか。
どうかこの優しい子に、救いの手を差しのべて欲しい。そう願わずにはいられない。
私が盗みをしてくることを気にしたディオは、母親の形見でもある小刀を手に森の動物を狩る練習を始めた。
最初はウサギなどの小動物から。上手く行かないことも多かったけど、それでも少しずつ慣れてくると魚をとったり大きめな動物も倒せるようになってきた。
きっと、武術の基礎は習っていたんだろう。あんなに小さいのに……。王族って大変だなぁ。
でも、決して鳥には手を出さなかった。弓だって作ったから狙えばいいのに、間違ってルーを撃ったら恐いからとか言って。
同種(?)を憐れんでくれたのかな。カラスを食べるわけじゃないしそんなに気にしなくて良いのに。鶏肉美味しいよ?
そんな日々を何年か共に過ごし、ディオは10歳になったという。
すっかり身長も伸び、160cm近くはある。この世界の人は成長が早いのかな?
最近は顔を隠し、たまに街に様子を見に行くようにはなった。一緒にいると奇異の目で見られるので私は離れたところを飛行しながら様子を窺った。
大体は情報収集のようで、小遣い稼ぎをしながら色々聞いて回っているみたい。
その噂によると、どうやら正妃の息子、王太子は評判が悪いらしい。18歳とディオとは年の差のお兄ちゃんだけど、女癖が悪く横暴で、跡取り息子が自分しかいないことを良いことにやりたい放題やってるらしい。正妃は宰相の娘で王も強く出られず、民に重税を課し無理な政策を繰り返しているみたいだ。
……最悪だな。
そんな男に引っ掛かる女性もどうかと思う。いくら国一番の婿候補でも、私は願い下げだ。どうせなら、ディオのような人の方が……なんて。カラスの私には関係ないか。
「せめて、叔父上に連絡できれば……っ」
ディオは民の苦しんでる姿を見て思わずぽつりと溢した。
それは、以前彼から聞いた、唯一の味方にして、対抗勢力である現王様の弟、王弟という立場にいる人。
隣国との小競り合いに先陣をきって闘い続けている辺境騎士団長を担っているそうだ。
その隣国との小競り合いも王妃が裏から手を回して、王位争いに参加出来ないように仕組んだのではないかと言われているようだ。何故なら、ディオが死んだ(と、思っている)から、王太子の次の王位継承権は王弟にあるからだ。
そこまでわかっているのに動けないのは、それだけ王妃の力が絶対的だからなのかなぁ。王弟に代わる戦力がいない、ということもあるのかも。
ディオが呟いた言葉で、私は決断した。
その辺境にいるという叔父さんに助けを求めよう。
ディオが以前話してくれた。叔父さんはディオによく似ているのだとか。
同じような輝く碧眼に、日に当たるとキラキラと眩しいさらさらの金髪。年は若く、まだ30代前半だという。
普通ならただのカラスにわかるはずもないのに、私が興味を持ったから文字を教えてくれた、ディオ。
【ディオ、イキテル。フォレスターのもりのナカ】
持ってても仕方ないからと、母親のお墓(あの崖の下に作った)に供えられていた明らかに由縁ありな指輪を拝借して、拾ってきた紙に木の実を潰した液体に嘴を使って書いた手紙とも言えないメモと一緒にめちゃくちゃ時間を掛けて丸めた。
……こういう時人間って本当に便利な身体だったなぁと実感する。
ディオの寝顔を見ながら、暫しの別れを心のなかで告げ、落とさないように嘴にメモと指輪を咥えて朝日と共に飛び立った。
──それが今生の別れになるとは知らずに。
「カ……ァ、……カァッ……(あぁ、やっちゃったなぁ……っ)」
結果から言うと、私はなんとか辺境に辿り着いた。叔父さんだと思われる人も見つけた。
でも、噂通り、辺境騎士団の彼らは優秀だった。街の人たちのように見逃してはくれない。
接近する私を弓で射止め、撃ち落としたのだ。瀕死の私のもとにやってくる人がいた。太陽に反射して輝く金髪。
あぁ、多分この人が、ディオを助けてくれる人だ……。
「カ……ッカァ……(こ、これ……)」
私は嘴からそっとメモと指輪をその人の前に置いた。
「……っこれは……!!……まさか……っ」
指輪を手に取ったあと、紙に書かれた拙い文字に目を落とす。
……ごめんねぇ、下手くそで。なるべくくしゃくしゃにならないように、持ってきたけど……わかった…かなぁ……っ。
「副団長。暫しの間、この場を任せた。私は精鋭を数人連れて、極秘任務に向かうっ!!」
……こんな、イタズラとも、罠とも思える私の作戦なのに、動いてくれた。
ああ、この人になら、ディオを任せられる……。
ディオ………、帰れなくてごめんね…。幸せになってね……。
「……よくやってくれた、静かに眠れ」
……ただのカラスの私に声を掛けてくれるなんて優しいなぁ。
流石ディオが頼りにしてるだけある人だ……。ありがとう。
そうして、私は2度目の生を終えたのだった。
**********
「……ディオは無事に助けられたのね」
私は3度目の生を得た。
何故か、2度目のカラス生と同じ世界観、時代に。
正確にはきっちり生まれ変わりまして。15歳である現在、私はまもなく迎える成人の儀を前に改めてこの世界の歴史書を手に独り言を呟いた。
あれからディオは無事に叔父様とお会いして、辺境に匿われたあと、反正妃派の面々と共に、ディオを旗頭に叔父様である王弟コーエンを後ろ楯に反旗を翻した。
正妃の悪行は民だけでなく貴族や果ては他国にまで及んでいて、相当な粛清があったらしい。
当然正妃の身分は剥奪。同じく王太子も身分剥奪、親子揃って辺境へ追放された。他にも多くの貴族が身分剥奪や降格、逆に叙爵したりと大忙しだったみたい。
辺境伯は長年隣国との戦争でかなりの恨みを持っており、親子は相当肩身の狭い思いをするだろうが自業自得というものだ。
その話を家庭教師から聞いて『ざまぁみろ』という感情が沸いてきた時、ぶわぁっとカラス生の記憶、そして異世界転生の過去を思い出したのは今から10年近く前。
……思い出し方、雑じゃない?
まぁ、良いんだけども。
私は成人の儀で、ようやく王城に初めて出向く。
そう。
今生で初めてディオに再会するのだ。25歳になったこの国の王太子に。
ちなみに、今の国王は、王弟であったコーエンだ。ディオの父親である元王様は、正妃を御しきれなかったことや、悪政を繰り返していたのにも関わらず止めなかったことなど、王としての器ではないと、弟へ委譲した。
コーエンは自身の子どももいるが、あくまでディオが成人するまでの繋ぎの王であると宣言してディオを王太子に据えているという。
……本当に、あの時出会った清廉で強く優しい人なのだと思った。
ディオはあれからどんな風に育ったのかな?
25歳にもなるのに、未だに婚約者もいなくて、早く娶れと周囲から言われているにも関わらずずっと独り身を貫いているという。
あの事件のせいで、人間不信になっちゃったのかなぁ…。貴族ってそういうところあるものね。
そんな私は実は伯爵家の娘だったりする。父親譲りというか、前世からの影響かわからないけど、瞳の色は黒曜石のように真っ黒。髪はこれまた真っ黒な髪。
…いやいや、異世界転生くらい明るい色にしてくれてもいいんじゃない!?と思ったものだけど、その代わり、顔立ちは目鼻立ちハッキリしてそこそこ可愛い部類なんじゃないかと自負している。
ドレスを着込んで、王城に向かう。他のご令嬢方は、今日こそ王太子妃の座を手に入れる!!とばかりに気合いの入ったドレスとギラギラとした眼差しで、非常~に恐い。
我が家の父親は質実剛健、宰相補佐というなかなかなポジションで参謀よろしくこき使われている立場なのだけど、特に権力には左右されない人で、ルーフェミアの好きにして良いと言ってくれる珍しい貴族だ。
だから、私は1歩引いて見てようと思ってる。むしろ憧れの王都でお城の舞踏会に参加できるなんて、これこそ異世界転生の醍醐味よね!!
お兄様にエスコートされて、壇上にいる王族に挨拶する。
「面をあげよ」
あぁ、これはあの時に聞いた王弟殿下……いえ、陛下のお声。
「ルーフェミア・ランスでございます」
私は再びお会い出来たことに喜びと感謝をした。ディオを助けて下さって本当に、ありがとう。
そうして、すぐ横に立つ青年に目を向けた。その姿を見た途端。
涙が溢れて止まらなくなった。
「……?ルーフェミア嬢……?」
訝しげな表情を浮かべ、こちらを凝視するディオ。
わぁぁあああ、これじゃあ怪しまれるに決まってる!!!
「し、失礼致しました!!緊張のあまり、感情が高ぶってしまったようです。申し訳ございません……!」
「ルー、どうした。大丈夫か?」
隣で兄が心配そうに私に声を掛けてくる。
母譲りの柔らかい栗色の髪に翠がかった色合いの兄はまるで私とは似ていないけれど、妹である私を大事にしてくれている。
「……ルー……?」
バッ。と、思わず聞こえた声に反応してしまった私は再びやらかしたと思った。
だ、だだだだだって!!ディオだと思った人が、名付け親でもある本人がルーと呟いて私を呼んだのだから!!
いやいや、語弊がある。兄が呟いたから、復唱しただけに違いない。
……まさかたかがカラスの分際で、今も覚えてくれたのか、なんて調子に乗ってはいけないのよ!!
これ以上の失態を繰り返さないように御前を速やかに退席すると、私は兄を連れて壁越しに大移動した。
………まさか、そんな私の背中をずっとディオが見つめていたなんて気付きもせずに。
カラスのルーがあの後どうなったのか正直気になるし、15年間ディオがどんな風に生きてきたのか、知りたいとも思ったけれど、そんな話をする機会はきっとないだろう。
………そんな思いを感じたのが遠い昔のようです………。
何故か気付いたら、王族主催のお茶会に招かれ、ディオと2人で会うようになり、『ルー』と愛称で呼ばれて愛おしそうに瞳を見つめられるようになり、婚約者候補にまでなっていたのは、なんなんですか!!!!
笑わない王子として、有名だったらしいディオ……もとい、ディオルド・ユニシス殿下。
笑っていたのは私が一緒に過ごしていたあの森での数年間と、私と出会ってからだと後から知って驚いたものだ。
ぽつりぽつりと過去を話すようになったディオは、あの日のルーのことを恩人だと言った。
「俺は以前、母上共々前王妃に殺されかけた。何度も何度も、な。なんとか叔父上の…あぁ、陛下のお力で助けて頂いていたが、ある日陛下に助けを求めるため母が俺を連れて向かおうとしていた馬車に細工がしてあり、母上は俺を庇って亡くなられた。…本当なら、俺もそこで死んでいた。
……カラスのルーに、出会わなければ」
ドキッとした。聞けると思っていなかった前世の話を聞けるのか。しかも、本人の口から!
「カラスのルー、ですか」
そう言うと、さらっと髪に触れ、私の瞳を覗き込みながら笑って言う。
「あぁ。ルーと同じ、黒曜石のような綺麗な目をしたカラスで、とても、面白いカラスだった」
面白いとは、心外な!!
内心で突っ込みながら、目の前のディオの色気にドキドキする。忙しい、感情が忙しいわ!!
「……カラスに対してこんな風に思うなんて、変だと思うだろう?今までにも、皆に言われてきた。だけど、ルーは、…あぁ、カラスのルーは、まるで人間のように感情豊かで、俺よりよっぽど″人″だった。だから、ルーの前では、笑えたのかもしれないな」
「ディオルド殿下……」
「ディオって呼んでほしい」
そんな瞳で懇願されたら、断れない~~~!!というか、手、手をっ、そろそろ離してほしい!!私の頬から!!!距離が近いのよ!!!!
きっと私の顔は真っ赤になっていることだろう。
「…………ディオ」
そう言うと、嬉しそうに微笑む。前世でだってあまり見たことがない表情だ。あの頃もそれなりに笑ってたけど、どこか思い詰めた表情をしてたから。
「……ルーはね、死にかけていた俺に生きる道を示してくれた。死の淵から救い上げ、俺に感情を取り戻してくれて、………そして、俺のせいで死なせてしまった」
「………っっ」
それは違う…っ!と思わず喉まで出かかった言葉を押し止めて、続きを聞いた。
それは、私が知りたかった『その後の物語』だからだ。
「俺が街で兄上の……いやそれだけじゃないが、王家の噂に悩み、叔父上のことを伝えたすぐあとに、ルーはいなくなった。ずっと、傍にいてくれる保証なんてなかったのに、いるのが、当たり前になっていて…正直ショックだった。
でも、本当にショックを受けたのは、その1週間後に叔父上が部下を引き連れ、俺を探しに来たときに……ルーのことを聞かされたときだった」
「ディオ……」
私は、ディオのためにと思って動いたし、今こうして生きてくれていることが嬉しいし後悔はしていない。
……でも、あの場で1人孤独にさせてしまったことだけは後悔した。
ごめんなさい。
言葉にして伝えることは出来ないけど…。
「……ディオは、幸せ……?」
「……え」
ルーを思い出して苦しそうな顔をするディオを見つめ返して私は言った。
「私といることで………ディオは幸せになれる……?」
「……ルー……。
あぁ、俺は…ルーの前でなら笑えるから……。
ルーにはずっと傍にいてほしい。
──好きだ」
じ、自分で聞いておいて破壊力ハンパないんですが……っっ!!!
「…なら、仕方ないなぁ。
寂しがりのディオには、私がついてないとね」
私はポンポンとディオの背中に手を回して慰めるように手を添えた。
刹那、掻き抱くように抱き締められてルー、ルーだ…っ!!って言いながらソファに押し倒された。
えぇえええええええ!!!??
ち、ちょっと待って!?
これどういう状況っ!?いや、そもそも私殿下に対してあるまじき口調で話しかけたよね!?つい前世のことを話されて意識があっちのルーとこっちのルーとが混ざったって言うかなんていうか!!!
それに、ディオの様子がおかしいっっ!さっきの反応なんか、なんかまずい気がする!!何かやらかした感満載なんですけどー!!
「……っあ、あの!!ディオルドでん……っっんむ……っ」
なんとか拘束を(最早抱擁でなく拘束だと思う)逃れようと踠くけれど逆に止めようとした口は塞がれた。そう、ディオの口で。
まだ、私清いのに!!
婚約者候補でしかないのに……っっ!!
それからディオが落ち着くまでその状態は収まらず。むしろ悪化しそうになったところで、救いの手が伸びて最悪の事態は免れた。
……とはいえ、決定的な瞬間を目撃され、そのままなはずもなく。私はあっという間に婚約者候補から婚約者となり、婚姻の日まで決まってしまった。
そりゃあ、女っけがなかった跡継ぎ王子が熱烈にアプローチする女性がいたら、この機会を逃す術はないよねぇ……。
「誰よりも幸せにする……ううん、幸せにしてね、ルー?
俺も誰よりもルーを大切にするからね」
色々と思うところはあるけれど…。そう告げる彼は、本当に幸せそうに笑うから。
だから、私は彼を傍で支えようって思った。
END
ディオ視点はかなりシリアスです。なので、機会があれば書きますが、今回はコメディ要素でまとめてあります。
最後、ルー(カラス)のことがどうなったのかあえて書きませんでした。もし機会があれば、(もしくは私の気が乗れば)その後の彼らや、別視点など書いてみようかと思ってます。
少しでも皆様の楽しかったに繋がれば良いなと思います!