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超えた一線

「…………綺麗だ」


 気づけば、自然とその言葉が口をついて出ていた。


「んっ、そりゃ、あたしは敵に背中は見せないし、一切の逃げ傷がないのが自慢なんだからね……って、だから、女子力ないとか言われ――」

「違う。そうじゃないんだ」


 利家の言葉を遮り、信長は感動を隠さず伝えた。


「そうじゃなくて、本当に綺麗なんだ。利家の背中」

「え?」


 肩越しに振り返った利家と視線がかち合う。


 白く美しい背中を晒しながら、自分を抱きしめる見返り美人。


 その姿は、まるで温泉に浸かる天女のようだった。


 信長のなかに芽生えた欲望が、熱さをそのままに、違うものへと変わった。


「ワンコ。俺はさ、ワンコのこと、女子力低いとか、思ったことないぞ」

「ノ、ノブ? 急にどうし、あっ」


 利家を振り向かせ、布団の上に押し倒すと、信長は彼女の両腕をつかみ左右に開いた。


「や、やぁっ……ノブ、だめぇ……」


 言葉とは裏腹に、抵抗する力はあまりに弱かった。

 それに、信長はあれほど見たかったおっぱいを一瞥だけして、あとはもう利家の瞳にくびったけだった。


「ワンコ。大好きだぞ」


 優しく笑いながら告白すると、利家の目に涙が浮かんだ。


「おい泣くなよ」

「だ、だって……だって子供の頃からずっと好きだったんだもん……」


 そう言って、利家の目からは、とめどなく涙が溢れた。嬉しそうにはにかんで、幸せそうに頬を染めながら、


「ずっと、ずっとノブのこと好きで、いつもノブのことばかり見て。だから、みんなから女子力低いとか言われるたびに、あたしじゃノブに愛して貰えないのかなって、ずっと不安だったんだから……」


 初々しい、乙女な想いを口にされて、信長は溢れる想いを噛み殺した。


 ――ヤヴァイ。ワンコ、マジで可愛い。普段の凛々しいお前はどこに行ったんだよ! やっぱりワンコは俺の嫁だ!


 抑えきれなくなった想いに、できる限りの手綱をつけながら、信長は利家にキスをした。

 深く舌を絡ませてから、彼女の耳元で謝る。


「その、負担、かけちゃったらごめんな」


 いまの信長は、利家の肉感的な体に対して、ただの邪な感情ではなく、慈しみたい、という想いでいっぱいだった。


 ただそれでも、やはり信長も男なわけで、どれほど好きな女の子、いや、好きな女の子だからこそ、あまりにも性的魅力が強すぎる、その煽情的な肉付きに、力が入ってしまうかもしれない。こればかりは、信長でもどうしようもなかった。


 だから、利家を抱きしめる前から、信長は言いようのない罪悪感に押しつぶされそうになる。なのに、利家は熱く濡れた瞳で、甘ぁく言うのだ。


「いいよ。ノブになら。ノブに、痛くしてほしいの……ノブに、消えない痛みを刻みつけて欲しいの。あたしが、ノブだけのものだっていう……」


 ――ッッッッ~~~~~~~~~~ッッッッッッ‼‼‼?


 その晩。信長は利家の外とナカ、両方の体温を堪能し尽くした。信長の想いはどれだけ溢れさせても尽きることがなく、ふたりが意識を失ったのは外が白みはじめてからだった。

   

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