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宣伝印象操作の結果

 その日の夕方。末森城で信長の弟信勝は、親戚たちと共に、いかにして信長を討つかの軍議を行っていた。そのとき、家臣のひとりが慌てて部屋に駆けこんでくる。


「大変です殿! 領民たちが信長様を強く支持している模様です! これでは信長様を攻める大義名分が弱くなります!」


 家督争いにもある程度の大義名分は必要だ。信勝派は、無能で不吉な呪われた男信長に領民を任せられない。尾張のため、ここは自分が当主になろう、としている。


「はぁっ!? おい馬鹿! あの天魔がどうして支持されるんだよ!」

「どうやら、最近行っている経済政策の成功が大きいようで。町では魔王万歳と誰もが唱和しております!」

「なん……だと……!?」


 いままで、蔑む罵倒の意味で信長を魔王と、天魔と罵ってきた親戚連中は、領民の盛り上がりに頭を抱えたのだった。信勝は、自身の爪を噛みながら眉間にしわを寄せる。


「まずい、まずいぞ……こうなったらアイツの人気が根付く前に、いますぐアイツを討つしかない! 勝家、戦支度だ!」


 信勝の判断に、反信長派の親戚はおろか、家臣の勝家もぎょっとする。


「お待ち下さい信勝様。いま信長様を討てば領民からの信頼を失いかねません」

「何悠長なこと言ってんだ勝家! いま討たないでいつ討つんだよ! アイツの人気が落ちる保証なんてないんだ。領民の支持が不動のものになってから、あのとき動いていればと思っても遅いんだぞ!」


 信勝の怒声に、親戚たちは黙ってしまう。信勝の言うことも、間違ってはいないのだ。


「それにだ、アイツの経済政策はまだはじまったばかり! オレが当主になったあともその政策を引き継いで、完全に成功させ終われば、それはオレらの手柄だ! アイツはあくまで発案者という立場に収まる! それもやれるのはいまだ! いましかない!」


 その力説で、ふんぎりのつかなかった親戚たちは重い腰をあげた。勝家だけは不安があったが、自分に言い聞かせた。


 ――確かに、信勝様が当主になるには、いまが最後の機会なのかもしれない。私は決めたはずだ。我が主君、信勝様を織田家の当主にしようと……領民から慕われる信長様を討つのは気が引けるが、これも乱世の習いだ……しかし……。


 信勝と親戚たちが打倒信長に燃え、一致団結する様子を前にしながら、勝家は思う。


 ――信勝様たちは、うつけの天魔には織田家を任せられないと言う。だが信長様は、もののひと月で尾張半国を統一し、斬新な経済政策で領民からの支持も厚い……我が主君、信勝様を当主へと押し上げることに異論はないが……。


 信勝たちは、信長討伐の軍議を再開し、勝家も加わる。だが、勝家の胸からわきあがる溜飲が下がることはなかった。

  

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