第2話:もみくちゃ
何だこの人の多さ…結構名門だからなぁ。こりゃ見つけられないよ。入学式が終わり、ホールから出たあたしは完全に諦めモード。
「あ、麗ちゃん!勝手に出てたら駄目だよー。」
ちょっと拗ねた様子で恭子ちゃんはあたしに駆け寄った。
「ごめん、人混み苦手なんだよね。」
あたしは顔の前で手合わせ頭を下げた。東京に住んでても人混みが苦手な人間もいるんですよ。意外とね。
いろんな香水の混じった匂いだとか、煙草の匂いだとか、そういうのあんまり好きじゃない。
そういえば、太陽君の匂いは好きだったなぁ…。
「さ、探すよ!」
「えっ、本気?!この中から探すなんて無理だよ。」
みんな同じような格好してるしね…。
「でも、あたし麗ちゃん見つけたじゃん。」
うっ…そう言われればそうだよね。私は諦めて恭子ちゃんに従うことにした。
「どこから探そうね〜。」
「太陽君もあんまり人混み好きじゃないから、落ち着いた場所にいると思うけど…」
とか言ってるそばから…発見。やっぱり目立つなぁ。それとも好きな人には目がいっちゃうもんなのかな。
「んー?」
固まってる私の目線を辿るようにして、恭子ちゃんは太陽君のいる方向を見る。
「あ、もしかして、いた…?」
「うん。」
私と恭子ちゃんは人混みを掻き分けて太陽君に近づく。
「た、太陽く…」
私が声をかけると、太陽君はすぐに振り返り、人混みの中もたついてる私の手を引いた。
こういうとき背の高い人は得だなって思う。
「もみくちゃ…。」
私がそばにくるなり太陽君はそう言って笑った。
「あたし必死だったんですけど…。」
私が拗ねてそう言うと
「あたしももみくちゃなんだけどね…。」
と、後ろから私より大変な目にあっただろう姿の恭子ちゃんが現れた。私より小さくて細いからなおのこと人混みは厄介なんだろうな…。
「ごめん、大丈夫?」
「まぁ、いつものことだからね。」
恭子ちゃんは乱れた前髪を直しながら答える。小柄だけど、たくましい子だなぁ…。
「それより、アド聞かないと!」
「あ、そっか。」
私は慌てて携帯を取り出し、太陽君を見上げた。
「あんた逃げるように会場行ったもんね。」
そりゃ、あんなこと言っちゃったんだもん…走り去りたくもなるさ。
そんなこんなで、なんとか太陽君のアドもゲットできたし…これからの毎日が楽しみ!