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星の回想  作者: 悠春
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草原が好きなだけなのに

 今、俺はとても残念な扱いを受けている。というのも王家に仕える魔術師の集団である宮廷魔術師10人に囲まれて拘束されてしまっている。うち5人は俺が怪しい動きをしても一瞬で取り押さえられるように魔術が発動できる体勢だ。ここは一つ抗議の声でも上げてみよう。


「草原に寝っ転がって思い出し笑いしてることの何がいけないんですかね。それともアレですか。平日の真昼間から仕事もしないで惰眠を貪っているのがダメなんですかね。」


 無視されるとも思っていたが、いかにもリーダー格のような風貌の魔術師が応えてくれた。


「マリア様からの命で貴方を拘束して城に連れてくるよう言われている。貴方にこのような対応をするのは失礼であると重々承知ではありますが、城までの道中は我慢していただきたい。」


 おざなりな対応を受けている訳じゃないし、どのみち城はもう目と鼻の先だった。仕方ないここは大人しくしていよう。むりやり脱出することもできるがメンドウ事になるのは目に見えているからな。

 目と鼻の先といっても城は割とけっこうでかい。視界に入ってもそれなりの道のりだった。

 5分ほど歩き、城の敷地に入ったところで拘束が解かれた。城の中で魔術を使えば誰がどんな魔術を使ったのかがわかるためこれ以上の拘束は必要ないとのことだろう。流石に城中の人間全員を相手にしたくはない。それに現陛下の姉君であるマリアの召集を断れるような立場ではない。下手をすれば国家叛逆罪とかいう話にもなりかねない。

 そこまで考えたところでさっきのリーダーっぽい人が話しかけてきた。


「私たちが働いた無礼重ね重ね謝罪する。マリア様は謁見室にてお待ちだ。」


「謁見室?ルクスもいるのか?」


「私はそれ以上は聞かされていない。ただ今日はマリア様の機嫌が悪いと城内の人が騒いでいたぞ。」


 最後にそれだけ言うと俺を連行した魔術師たちはこれ以上は関わりたくないと言わんばかりの勢いで俺から離れていった。

 まぁその気持ちも分からんではない。なぜならマリアは親しみと穏やかと優しさが人間の形をしたような人間なのだ。怒ることは珍しくはないが、機嫌が悪いのは異常事態だと言っても過言ではないだろう。


「これはメンドい事になったなぁ。」


 他人事のように呟いたあと俺は謁見室まで歩を進めた。

 10分ほど歩いたところでようやくたどり着いた。城にたどり着くより城内を歩いた方が時間がかかるとは何事だまったく。

 豪奢な扉は開かれており、その中にはルクスとマリアだけでなくアプリジナの面々もあった。

 アプリジナはここフェレヴァース帝国の宮廷魔術師の中でも特に異質で強力な魔術が使える魔術師の集まりだ。アプリジナの管轄は軍ではなく陛下直属なため国の中枢に関わるような任務が多く、その任務の全ては秘匿されている。なぜそんなことが分かるのかというと俺もアプリジナだからだ。

 この状況を見る限りはルクスとマリアとアプリジナで会議があるのだろう。だから俺も呼び出されたと。

 だがこのときの俺はまだ気づいていなかった。任務の会議で呼び出されたのなら拘束されて連れてこられる意味がないということに。


「ご足労いただき申し訳ございません。早急に話し合いの場を設ける必要がありましたので。」


 意外にも一番に話しかけてきたのは宰相のライトム=トーマスメイスだった。今日もタキシードがよく似合ってる。メイス家は代々王家に仕えてきた家のことだ。その中でもトーマスは国家の統治を担当してきた。宰相の地位に落ち着くのも納得だろう。

 ただここで新たな疑問が生まれた。


「なんで任務の会議にライトムがいるんだよ。」


「それはこれがアプリジナの任務の会議ではないからでございます。」


「は?それはどういう…」


「それではこれよりアプリジナ序列第7位ユースティア=ネザーゲートの処遇を決定いたします。」


 呆然とするとはこのことだろう。処遇とはなんだ。俺は草原で寝っ転がっていただけだ。これはアレか?冤罪とかいうやつか?


「いやいやちょっと待ってくれ。俺が何したって言うんだ。しかも処遇が決定した?当事者の話も聞かずに決定したってのか?」


「白々しいですよ。ユース。」


 ここで初めて本日絶賛ご機嫌ナナメなマリアが口を開いた。声は穏やかで包まれるようだ。それに加えてあの天使のような笑顔は新しく作られた精神干渉系の魔術ではないだろうか。だがそんなほがらかな雰囲気のマリアだが目だけは全く笑っていなかった。真っ白な壁にひとつだけ黒いシミがあれば嫌でも目がいってしまうとかそういう感じがする。まぁマリアをシミに例えるのはこの上なく失礼だが。

 そんな失礼な考えを後ろめたく思った訳ではないが、ここは程よく機嫌を取っていこう。


「今日も素敵な笑顔ですね、聖女様。ところで私はどんな罪を犯したというのでしょうか?」


 すると真正面にある玉座から高らかな笑い声が聞こえてきた。


「ハッハッハッハッハずいぶん殊勝な態度だね。君らしくないけど、罪人としてはふさわしいね。」


 そんな明らかに場違いな態度を見せたのはこの国の皇帝陛下で有らせられるルクス=フェレヴァース陛下だ。俺と同じ齢18にして一国の長とは誰も思わないだろうが、その突き抜けたカリスマ性により支持率96%とかいうバグみたいな数値を叩き出している。まぁそれも宰相のライトムと姉であるマリアの協力あってのものだが、どの国家も他人の協力なしでは成り立たない。ルクス自身の力量がものすごいということだ。


「無駄話をしている暇はないわよ。ユース、貴方の罪は挑戦権を個人の判断で行使し、神と対峙したことです。貴方にはその罰を受けてもらいます。」


 なるほど。どうやらマリアは勝手に神と戦ったことに腹を立てていたみたいだ。


「挑戦権は個人の所有物のようなものだ。国の意見を聞く必要があるのか?」


「確かに一般市民であればそうでしょうけど、貴方は軍のひいては陛下直属のアプリジナです。せめて一声かけるべきだったのではありませんか?」


「気づいたら使ってたんだから仕方ないだろ。俺だって勝算もなく挑んだりしない。」


「そんな言い訳が通用するとでも思っているんですか?」


「話が逸れてきていないかい?姉さん、ユース。もう起こってしまったものをどうこういっても仕方ないよ。重要なのはユースの処遇だ。そのためにアプリジナを可能な範囲で集めたんだよ?」


 流石に熱くなりすぎたのかマリアがシュンという効果音が聞こえてきそうな勢いで落ち込んでしまった。マリアもこういうところは年相応という反応を見せる。特に兄弟であるルクスにはそういう部分が顕著に現れる。

 しかし、なるほど。ここでアプリジナか。法廷で裁かれないのは挑戦権についての記述が法に明記されていないからだろう。とすると多くの意見を集めるためにアプリジナに協力を求めるのは自然な流れだ。


「それで今回は序列5位のカインの意見を採用することにしたんだけど。カインにしてはまともな意見だったよ。」


「カインはときどき抜けてたり抜いてたりするけど真面目が服を着て歩いてるようなもんだろ。むしろまともな方が普通だと思うけど。」


「周りに対してはそうかもね。でも君に対しては違うだろ?」


 やらなければいけないこと以上のことをやってのけるカインと違って俺は必要最低限のことしかやらない。やることやってんだから良いだろ?というのが俺の意見だが、今やっとけば後が楽だろう?というのがカインの意見だ。

 目指しているところは同じな気がするが現時点での対応の違いが俺たちの反りが合わない理由だ。

 同じ任務にあたってはちょっとした小競り合いを繰り広げている。今となっては挨拶みたいなものだ。


「その言い方からすると意地の悪い処遇ではないということでいいのか?」


「まぁ牢獄行きとかアプリジナの資格を剥奪するとかそういうのじゃないよ。…では待ちに待った発表の時間だ。君の処遇は……」


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