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そして明日。


というより今日。

昨日糸奇に言われた通り私は喫茶店の前で待っていた。

明日だの今日だの昨日だのややこしいな。


奴の言い方だと、これから新たな職場に案内する予定のようだが……私を一つの場所に定着させるつもりはないのだろうか。

各職場が忙しい時の手助けに向かわせるのを想定しているのならば解るが。


「おはよー。もう朝ご飯食べたー?」


寝癖のついたまま眠そうな顔で現れる糸奇。

格好もスウェットと短パンという寝巻きのようなスタイル。

というか寝巻きだろこれ。

まぁ、本来なら色気皆無なこの格好も、こいつに限っては素材が良いから……って何を考えてるんだ私はっ。

な、ナニとは言わんが、昨日ナニの所為で目を合わせられない。

だが、返事くらいしなければ意識してると思われる。


「い、いや、まだ」

「おはようございますです糸奇様っ!」


と。

グイッ!

間に割り込んで来て糸奇に抱きつく童子切。

二人きりの時は無言だったくせに打って変わって生き生きしている。


「キーちゃんもおはー。君もブレファまだなら喫茶店の材料にパクって何か作ろっかー」

「勝手知ったる過ぎるぞ糸奇ちゃーん?」

「げぇー、ババァ!」


音もなく私達の側に現れたのは、この喫茶店のオーナーだったり他にも多くの立場を持つ女性、尾裂狐狐花。

糸奇の祖母でもあるらしいが、その見た目の若さは私達と変わらない。


「朝ご飯ならバアちゃんがちゃっちゃと作ったげるから中で待ってな」


半ば強引に店内へ押し込められる私達。

開店前の静かな店内に客として入るのは変な気分だ。

思えば、私がこちらの世界に来た時初めて入ったのもこの店か。

当時の、糸奇という生物に会った衝撃は今も忘れられない。

フッと自然に笑みがこぼれた。

糸奇に与えられた分を果たして返せるのだろうか?

出来る気がしない。


「うわ、こいつ一人でニヤニヤしてるですよ糸奇様っ、キメーですっ」

「こらこら指摘するのは可哀想よキーちゃん、思春期特有のアレだから」


こいつらはもう無視だ。


「ハイお待たせ~。狐花さん特製モーニングだよ~」


サンドイッチ、サラダ、スープ、コーヒーの定番セット。

食欲を誘う香りに鼻がヒクつく。

この世界に来てから多くの料理を知ったが、個人的にはおにぎりと味噌汁と漬物が最も私の舌を唸らせた。コーヒーは未だに苦くて苦手で、それを狐花も知ってか私だけオレンジジュースである。


「おや? 今更だけど、一人見ない顔が……や、待って、言わないで。……もしかして、童子切かな?」


ズバリと指を向ける狐花。

正解だが、私は特に驚いていない。

狐花ならば刀が人化しても驚かないだろうと、一目で何の刀か看破する目を持ってるだろうという確信があったから。

なんといっても、糸奇の祖母なのだから。

……や、待てよ。

思えば、狐花が童子切を見るのは文字通り今が初だ。

刀の姿ですら見せてはいない(最近までカアラに預けていた)。

どこで存在を知った?


「ああ。実は私の愛刀が童子切の姉妹刀で【安綱やすつな】って子でね。あの子に君の話を聞いてたからもしやと思ったんだ」

「き、キーに姉妹が……?」


初耳といった様子で目を見開く童子切。

私の世界の刀の姉妹刀がこちらの世界に? と一瞬混乱しそうになったが、少し考えれば分かる事。

糸奇のように、狐花が私の世界に来て手に入れたのかもだし、元々童子切もこちらの世界の生まれだった可能性だってある。

深く考えないようにしよう。


「今度会わせたげるよ、あの子も会いたがってたしね」


ポフン、狐花が童子切の頭に手を乗せる……と、


「はぅぅっ!?」


童子切が悶えだし、髪色が一気に白から黒に。

この反応昨日も見た。

糸奇が、童子切を一度で使いこなし、隷属させた時と同じ。


「おっ。触り心地はやっぱり姉妹、似てるねぇ。孫が増えたみたいだよ」


糸奇のような神の力を持たぬのに、相手を掌握する力を持った狐花。

これこそ、カアラなどの強者をも従わせるカリスマ性というやつか。

なるほど逆。

糸奇の祖母だから凄いではなく、狐花の孫だから糸奇も凄い、だったのか。


「ババアもうあっち行ってよ! 相対的に僕が大した事無い奴に見られちゃうだろっ」

「うっふっふ。その小物くさいセリフ吐いちゃう糸奇ちゃんもかわいいよ~」


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