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「ん? オウカ、このひと月でおっぱい成長した? やっぱ適度な運動と美味い飯は重要だねぇ」


「きゅ、急になんの話だ!? ジロジロ見るなっ(サッ)」

「ま、それはそれとして、なんやかんやで鬼神化の感覚は掴めたろう? これなら次の仕事紹介出来そうだね。いつでも出来るようにしときなよ」


簡単に言ってくれる糸奇。

まだそうほいほいと成れるものじゃないのに。


……因みにだが、私が竜王を撃破した後、世界を去る直前糸奇は犠牲になった勇者らに加えて竜らも蘇らせた。

『全て元の舞台に戻す』という配慮らしいが……その後の世界を思うと、なんともモヤモヤが残るオチだ。


「そう易々とキーが何度もお前に協力すると思わないで貰いたいですよ。これからは自力でやるです」

「お前その呼ばれ方気に入ったのか……と言うか人型に成れたのならもっと前から……」

「いや、本来キーちゃんがこの姿に成るにはいくつか段階踏まなきゃでね。持ち主が童子切の力を100パーセント引き出せるようになって且つ信頼関係マックスで初めて実体化させられる、んだけど。面倒いから僕の力で色々すっとばしちゃった」

「うふ、糸奇様は始めからキーを使いこなせる上に好感度もマックス! 全力でもないのにアレほどの力の開放も初めてで……溜まっていたものを吐き出すような快感でしたっ。糸奇様こそ真の持ち主に相応しいっ」

「こらこら、僕より弱い君を使う理由は無いだろ? 神の前だ、立場を弁えなさい」

「おうふ、これは出過ぎた真似を。お許しくださいです」

「「ふふふっ」」


よく分からないが、相性が良いのは見て分かる。

童子切も、糸奇という最上位の使い手を一度味わってしまってはもう他に靡かないだろう。

糸奇レベルの親子のような信頼関係を得られる日は来るのだろうか。


「さて(ザバッ)」

「おまっ、急に立ち上がるなっ。ヒトの顔の前に突き出すなっ」


――なんやかんやあって。


風呂から上がると、時刻は一五時頃で。


「はいはい。さ、出来たよキーちゃん」

「わーいですっ」


一〇分ほどで、糸奇は童子切の為に黒のワンピースを繕い終える。

部屋にあった私の服の布を使ったようだが、生半可な完成度ではない。

いつかカアラの言っていた糸奇の裁縫の腕を再確認した。


「お風呂入ったのに何故か疲れたから甘いの欲しいなぁ。お、冷蔵庫にケーキあるじゃんお茶にしよーぜっ」

「素晴らしい提案ですっ」

「か、勝手に漁るなっ」

「時すでにお寿司だよっ」


ホールのケーキは測ったように正確に切られ、部屋に備え付けであった皿の上に分けられている。

三人でケーキを半分食べるつもりか。


「ほらほらオウカ、客にコーヒー淹れるんだよっ。仕事場の成長を確かめてやるっ」

「やるですっ」

「……泥水を出してやる」


全く、バタバタと騒々しい。

喫茶店にたまに来る家族連れのようだ。

……家族、か。


ああして誰かと狭い湯船に入ったりこうして賑やかにお茶したりなど、本当に久し振り(仕事を除きプライベートと言う意味で)。

思えば実の妹も糸奇のように私を揶揄うような生意気な奴だった。

まだひと月にも満たぬこちらでの生活。

忙しなくはあったが、なんやかんやで嫌な思い出は無い。

少し前の、憎しみに囚われていた頃では考えられない充実した日々。

これに関しては癪だが糸奇に感謝してやらないでもない。

口には出さないが。


もし。


全てが解決して、私にも普通の家庭を持てるような未来があるのだとしたら、こんな……

って、何を考えるんだ私はっ。


「……ほら、淹れてやったぞ」

「よぉし。じゃあそれを氷の入ったコップに移してガムシロと牛乳をドーンッ」

「ドーンッ」

「ああ!? 折角淹れてやったのに台無しにするな!」


狐花に教わった技術とコツを注いだのに。

バカ舌相手に出すんじゃなかった。


「うーん(モチャモチャ)これは喫茶店のと同じチーズケーキだ。もしかして手作り?」

「……悪いか」

「いんやー。アレをこんな短期間で再現出来るなんて意外に器用ってか家庭的なんだねー。一人で食べるつもりで作ったの?」

「食い意地やべーですぅ」

「そ、そこは色々なんだよっ」


練習がてらに作ったものだが、世話になった奴らに渡すつもりの一つでもあった。

桃源楼の連中だったり、五色家の連中だったり。

糸奇や童子切も、一応該当するので思惑通りではあるのだが。

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