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「……つまり。お前と九魔は、数百年前の過去の人間だった、と?」

「はい」


オウカさんの問いに笛子が頷く。

改めて聞くととんでもな話だと当事者でも思う。

まぁ糸奇と居ると、それすら大した事ない日常の一部と思えるようになるのだけど。


「それは……凄い話、だな。しかし、どうやって糸奇は過去の世界へ?」

「ウチのグラさんには時間をも跳躍する力があるんです。寧ろその力の為に、糸奇さんはグラさん達を家に招いたらしくって」

「し、糸奇だけでなくとんでもない奴らがまだまだ居るんだな……。しかし、今の話で少しは糸奇に対する評価が向上したのは確かだ。お前達を助ける為に過去に行くだなんて、奴も粋な事を」


「え? ああ、糸奇さんが笛子達を助けたのは『打算』ですよ」


「は? そ、それはどういう」


困惑するオウカさんに、笛子は何でもない事のように言い放つ。


「糸奇さんは、ただ笛子達の能力が必要だったから過去にまで来たんです。糸奇さんの力の一部である『過去を覗く力』を使い、死ぬ運命だった笛子達を見つけて『縁を割り込ませ』、未来を変えた」

「……いや、それは、悲観的に捉えすぎでは……?」

「? 笛子は別に、悲観してませんが。ただ、あの方が合理主義なだけで」


おかしな光景だ。

これでは笛子が糸奇を罵倒し、オウカさんがフォローしているようにしか見えない。


「……少しは情のある奴だと思うがな。第一お前達の能力はその、糸奇の『下位互換』だろ? 言い方はアレだが合理主義であるのならば助ける意義すら奴には無いのでは?」

「ふふ、それは糸奇さんにも分かっています。ただ、あの方は『試したかった』だけ。私達の力で『消えた家族を見つけられるか』と」

「……その話は、狐花やカアラからも聞いた。ある日急に家族が消えたのだ、と」

「はい。そして糸奇さんの力ですら、未だ見つけられていません。糸奇さんの力は五色家の一子相伝。故に神の目は、元神達には通用しないようで」

「……その為に、糸奇は凡ゆる能力者や道具を集めている、と」


そうだ。

そして、まだ叶わぬ願い。

グラや狐花さんの尾裂狐家、カアラさんの絡新家の力を以ってしても痕跡すら掴めていない。

もし何かの事故で死んでいるだけならば、もっと容易に見つかるのに。

多分、糸奇の肉親らは意図的に身を隠している。

事情は知らないが。


「結局、笛子達は役に立ちませんでした。役立たずのタダ飯食らい。なのに、糸奇さんは落胆の色を一切見せず、変わらず笛子達を愛してくれました。恩を返す手段は一つだけ」

「な、なにを……」

「糸奇さんは、図らずも現五色家の当主。血を途絶えさせてはなりません。【縁】を繋げていく義務があるのです。家族が消えたのであれば、その分『増やせばいい』」

「そ、それは、確かにそうなのだろうが……お前は、お前達は、そんな未来に縛られて納得しているのか?」

「『そんな』?」


笛子は妖しく、クスクス肩を揺らして、


「おかしな事を。『愛する者の子を産む』。これ以上の女の幸せがありますか? 勉強も出来て頭のいい姉さんと違い不出来な笛子ですが、体だけは丈夫です。二人でも、三人でも……ふふ」


オウカさんは何も言えない。

最早話が通じる相手ではない。

昔はアレだけ素直だった妹が、糸奇の吐く空気に毒されておかしくなってしまった。

治す薬は無い。


そもそも、妹の想いは恋だの愛だのとは違う。


私達はその出生から、いわゆる普通の現代的な感覚を持ち合わせていない。

歪にズレている。


笛子の想いは、崇拝。


「それで、一つ確認しておきますが。オウカさんは、糸奇さんをどう思っていますか?」

「うっ……」


明らかにそれは確認ではない。

牽制だ。

臆病な笛子が唯一、譲れぬ場所。


「ど、どうも何も私はまだ奴と出会って二日目だぞ? あるとするならば警戒心だけだ」


日数など関係ない。

現に、笛子は一目で堕ちた。


「笛子が望むのはただ一つ。『不変』です。何も変わらぬ事。笛子は、糸奇さんに拾われた日から幸せの絶頂なのです。今以外の生活なんて考えられません」


『だから、もし、糸奇の気持ちや生活に何か変化をもたらすつもりであるならば……』


と言葉には出さず笛子は匂わせ、脅す。


「でも良かった。オウカさんのその答えならば、未来を『書き換えず』に済みそうです」


笛子は、オウカさんの言葉を疑う事なく笑みで受け止めた。

笛子は物事をあまり深く考えない。

脳の容量の殆どを糸奇で埋め尽くしているから。


「おーいっ。お待たせーっ」


と。

ここでタイミングを図ったように糸奇が戻って来て、二人に合流する。


「お、なんか二人共雰囲気が違うね? 僕が居ない間に仲良くなれた?」

「ど、どうなんでしょうね……」

「まぁ……話す事は多かった」


すっかり元に戻った笛子と、苦い顔しか出来ないオウカさん。

二人きりにさせたらどうなるか分かっていただろうに、相変わらず性格の悪い奴だ。

ああ、因みにだが。

先程笛子は勝手に私も『糸奇の妾』になるのだと言っていたが、私は一度も納得はしていない。

助かった命、図々しく自由に使わせて貰うつもりだ。

大学にも行きたいし、十代で母になるつもりも無い。

糸奇も何も言わないだろう。


ただ一つ問題があって……同世代だったり年上だったりと異性に言い寄られて来たが、未だにコレだという男を見た事がない事だ。

そしてこの先も、見つけられる気がしない。

長い間側に居た事で、基準が上がっているのだ。


糸奇以上に骨のある男、どこかに居ないだろうか。



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