表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/104


「グラヴィ、わざわざ運送ありがとねー」

「ふん、本当じゃ。我はもう帰って寝るからまた連絡してきても知らんし来んぞ」


言って、フッと彼女は消えて行った。

 色々と便利な力を持つと頼られて大変ね。


「……今の者は?」

「ん? 僕の『色んな意味で』の一番の協力者だよ。『空間魔法』を使える子だから、こうして僕達を目的地まで運んで貰ったのさ」

「う、ん」


 オウカは、何かグラヴィに対して思う所がありそうだったが、それ以上の質問は無いようで。


「んじゃあ、行こっか。目的地はこの先だよ」

「……しかし、何やら不思議な場所だなここは。例えようが無いが……ふわふわと浮いてる感覚だ」

「ま、ここは幽世の入口付近だからね」

「かくりよ?」

「死者の世界って事」


なっ――と、彼女は声に出さず口をあんぐり開ける。


「な、なんて場所に連れて来たんだお前はっ。わ、私は死んでしまったのか!?」

「落ち着けよ。言ったでしょ、ここは入口だって。言い換えるなら、現世の出口とも呼べるけど……ほら、川のせせらぎが聞こえて来ないかい? 結構大きな川だから聞こえてくると思うけど」


頷くオウカ。

 少し震えてるのが可愛い。


「あれは三途の川っていう、生者の世界と死者の世界との中心を流れる川のせせらぎだ。神奈備という二つの世界の分岐点も兼ねていて、あの川を渡れば、死者や神の居る幽世に行ける。死者の世も、国とか宗教別に色々分けられてて、そっちを覗くのも面白いけども……これから向かう先はその川の手前にある、まぁ宿泊施設だね」


幽世だの三途の川だの説明したが、これもまた国や宗教などによって名称――アアルだのコキュートスだの――は様々。

 今は敢えて日本的な言い方をした。


「そ、そうか。なら、私はまだ死んでいない、のだな。し、しかし私はまだお前の世界の事を知らないのだが……本来、このような場所、気軽に足を運べる所ではないだろう?」

「そりゃそうだ。でも僕は特別だからね、色々ツテがあるんだよ。さ、すぐそこだから付いて来な」


彼女の手を引き、先へと進む。


「むぅ。すぐとは言うが、先ほどから霧が濃くて一寸先も見えないのだが……本当にこの先に建物など……んんっ!?」


突然、ズンッと目の前に現れた門に、彼女は驚いて尻餅をつく。


「な、なんだ!? こんな巨大な門、影すら感じなかったのにっ」

「良いリアクションありがとう。まぁ僕も初見じゃ同じ様に驚いたからね。さて、さっき連絡したから開けてくれると思うけど……おっ」


ギギギ――重い音と共に門が開いていって、「お待ちしておりましたわ」 いつの日かを再現するように、一人の着物姿なお姉さんが出迎えてくれた。


「わーい、カアラさーん(抱きっ)」

「ふふ……相変わらずお可愛いですわね、糸奇さん」

「カアアサン……? その者は糸奇の母君なのか……?」


オウカが面白い勘違いをしている。


「あら? そのお嬢さんが、件の?」

「そ。僕的には良い筋してると思うんだけどな」


オウカに顔を近づけ、ジッと覗き見るカアラさん。


「うっ……な、なんだ?」

「貴方――【鬼】、ですわね」

「お、おに? い、いや、私はオウカ・ホオズキという者だ」

「……ふんふん、成る程。よろしくお願いしますわ、オウカさん。わたくしはカアラ。ここの責任者です。糸奇さん、確かに彼女は逸材ですわね」

「気に入ってくれたようで何よりだよ。じゃあ早速、研修って流れでいいかな?」


カアラさんは頷き、僕達について来るよう促す。

 彼女の後ろ姿を追いながら、


「おい糸奇、彼女は一体? 只者ではない強者の電磁波を感じるぞ」


 とオウカがひそひそ訊ねてくる。


「んー。とりあえず、こんな場所に居るくらいだからまともな人間ではないかな。てか人間じゃないね」

「人間では、ない?」

「分類するなら、妖、という種族だね。妖怪、物の怪、怪異……うん。君に分かりやすい説明するなら、魔物とかモンスター、かな」


「――マモノ」


おっ? オウカったらピタリと足を止めちゃって、目も虚ろに……あ。

 腰の刀に手を掛けちゃったよ。


「斬らねば」

「おやおや?」

「魔物魔物魔物マモノマモノまものまもの……駆逐っ! するっ!!」


更には変なスイッチ入っちゃったよ。

 止める間も無く、オウカは地を蹴り、カアラさんへと飛び掛かる。

ヤバイなー、止めないとなー……や、大丈夫か。

 カアラさんだし。


「キシン流一刀!! 紫電ッッ!!」


名の通り雷の閃光が如く素早さで対象の懐に潜り込み、更に剣撃は最速、居合い。

 瞬き一つの間に、漸く相手は自身が両断された事に気付くであろう疾さ。

しかし……相手はカアラさん。

 襲撃暗殺不意打ち騙し合いは慣れたもので。


「ゲフゥ!?」


一閃が届くかという直前――オウカが顔面から地面に突っ込んだ。

 足を挫いた? 否。

 挫かされたのだ。

オウカの足首には『粘着質な白い糸』が絡み付いていた。

 後ろを向いたままで、カアラさんはオウカを処理した。

 子供のイタズラを遇らうように。


「全く。どうして【若】が連れてくる子は、こうも毎度お転婆なのでしょう」

「若呼びはやめてよ。てか、女の子は元気な方が可愛いっしょや」

「それは否定しませんが……しかし……まだ彼女、自身の力に気付いてませんわね?」


カアラさんは、地面で気絶しているオウカを見ながら首を傾げて、


「【真の力】を解放出来ていれば、地に伏していたのはわたくしだったかもしれません。糸奇さん。彼女は『計画して』あちらから連れてきて?」

「いや。この子に関しちゃあ、ノータッチだよ」

「でしょうね。貴方が、今更『この血筋』と関わるとは思えませんし。これも縁の導き。皮肉なものですわね」

「ほんとにね。……さて、このまま泥だらけじゃあせっかく傷を消したげた彼女が可哀想だ。適当にお風呂借りるよ」


「勝手知ったるや、ですわねえ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ