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「おーなんやここは! 元学校? 病院? ホテル? まぁええわ! 早よ入ろ入ろ!」
クラウドが見つけたのは、そこまで老朽化の進んでいない建物の廃墟。
入り口は自動ドアのようだが、電気が通ってるとは思えない。
「思った通り反応しませんわね。こういった場所は管理されているのが普通なので当然といえば当然ですが。まぁここでも多少の雨風なら防げるし、落ち着くまで待ちましょう」
「え~、でも少し肌寒くなって来たで? どっかの裏口からなら入れるかもしれんよ!」
「警報機があったらどうするんですの? 第一、住居侵入 罪に」
ウィーン「お。なんか開いたよみんな、入ろーぜぇ」
「おお?! なんや知らんが流石糸奇さんや!」
「は? え、何故急に……?」 唖然とする繭。どうせ糸奇の事だ、色々ドアを弄ったのだろう。
「誤作動、でしょうか? いや、しかしそれでも勝手に入るのは」
「でぇじょうぶ、尾裂狐の物件だから僕んちみたいなもん。風邪引きたくないだろ?」
「繭さん……ここは糸奇さんを信じましょう」
「むぅ。これではわたくしが空気を読めない子の様ではないですか。もぅ、どうなっても知りませんわよっ」
頬を膨らませ不貞腐れつつ、繭は先頭をずんずん進んで行く。
それに続く私達。
肝心の建物の中だが……外の寂れ具合とは違い、意外に綺麗なものだった。
いや。
綺麗というか、これは……
「なんか、普通に今でも営業してそうな清潔感やね。埃も見えないし。ここは、ロビー、か? あそこがフロントかね。ホテルって感じや」
「ふむ……外見をリフォームすればすぐにホテルとして使えるでしょうに。狐花様は一体ここをどういう意図で封鎖しているのでしょう」
「まぁあのオバちゃんも色々考えてるんだろさ。とりあえず、あそこにあるダルマストーブで暖取ろうぜ」
まるで勝手知ったるや感じに建物内の備品を使い出す糸奇。
まぁこいつならばここに来た事があっても不思議でないが。
しかし……本当にここは何の目的で置かれてあるのだろう。
吊り橋の存在を見るに、一般人を近付けたくないのは分かるが。
「はいみんな、こんなこともあろうかとタオル持って来てたよー、ほい、ほい」
「流石糸奇さんです……!」
「用意周到スギィ! ホント助かるわー(ゴシゴシ)……ふぅ、ストーブあったかー。やぁしかし、酷い雨やったね。ウチのガッコの低気圧ガールでもいるんかねぇこの辺に」
「こらウメ。本人の居らぬ所での陰口は褒められたものではありませんわよ」
「別に陰口ちゃうし。あの子が超雨女なんは本人も認めとるやん。あ、糸奇さん、ウチのクラスメイトに雨心って子がいましてね? 今日も一緒に来る予定やったんすけど、急な予定で来られんようなったんすわ」
「へー……それは残念。あ、フェネ子、身体拭いたげる」
「やぁ、ん、そこは……!」
妙な間があったな。
もし本当に『あの子が来ていたら』こいつはどんな顔をしていたのか。
間違いなく困り顔拝めていただろうに。
「で、みんなこの後アレするやろ? 肝試し」
「どういう流れですの……今度こそ痛い目を見ますわよ」
「へーきやへーきっ。服乾いたら、ぐるりと回ってここが何の建物か追求しようやっ。それともアレか? こわいん?w」
「……どうせ何を言っても実行するつもりなのでしょう? 勝手になさい」
正直、肝試しなど全く興味ないのでこのままストーブ側にいたいのだが、糸奇はこういうイベントに必ず食いつくし、つまりは必然的に笛子も付いていくので、放って置くわけにもいかず……。
ある程度暖を取った私達は、目的も無く動き出す。
薄暗く先の見えない建物内だったがここでもクラウドが活躍――蛍のようにお腹を発光させ懐中電灯代わりになるという謎の特技で問題は解決――する。
「ふぅん。ロビーだけでなく、どこもかしこも綺麗ですわね」
「思ったんだけど、ここ、普通に管理してる人が定期的に掃除に来てるだけじゃない?」
「それが現実的でしょうけど……何か引っ掛かりますわねこの建物、というよりは空気? 空間? が」
「……ペタペタして」「脱げば?」「……ですね」
「うん? 先程から二人は何を後ろでこそこそ――って笛子さん何故ここでパンツを脱ごうとして!?」
「ぐっちゃり濡れて気持ち悪いんだから脱ぐのは普通でしょ」
「何故糸奇様が答えるんですの!? ああ~……本当に脱いでしまって……当然のように、糸奇様が預かるんですのね」
「繭ちゃんも脱げば?」
「結構です!」




