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そして、食後。


「腹もふくれたし、腹ごなしにこ島ん中探険せんっ?」なんてウメの提案に、私達は特に反対する理由もなく……あてもなく、ひと気の少ない森林エリアへと足を踏み入れるのだった。

「いやぁ~……あんな高級品をようさん食べるだなんて初めてですわ。ほら、こんなにお腹ポッコリ」

「あははー、ボテ腹みたいだねー。ボテ腹JKだー(さわさわ)」

「し、糸奇さん……! 笛子のお腹も触って下さい……!」

「犬みたいな奴だなー知ってるけど(さわさわ)」

「はぁー。しっかし、やっぱ森の中は開放的やねぇ。空気が気持ちいいってゆぅか。『上だけ水着姿』ってのもあるんやろうが」

「で、でも、誰かに見られたら恥ずかしい……糸奇さん以外に見せたくないのに……!」

「へへ、後悔しても遅いぜ。王様による命令は絶対だかんなっ。それにその羞恥心もすぐに快感に変わるだろうよっ」

「暴君やなぁ、まさに王やわ。その気概が王様ゲームの強さの秘訣なんかなぁ。……ホンマ、糸奇さんがウチらと同じ学校居てくれたら毎日がもっと楽しそーやでっ。中等部の時は居たんやろ? 復学する気は無いんか?」

「糸奇さんと同じ学校生活……何度妄想したか……でも実現したら刺激が強過ぎ……!」

「学校ね。魅力的だけど今は仕事がね。ここのテーマパークも軌道に乗ったとこだし?」

「ここテーマパークって……まさか! あの大人気過ぎてチケットも入手困難な【異世界遊園地】の事か!? この島にある!? 糸奇さん関係者なんか!?」

「し、糸奇さんは関係者どころか『園長』ですよ……」

「まぁアレも副業だけどねー。行きたいんならみんなの分のチケット用意したげるよ。二人が世話になってるからね」

「ホンマに!? 糸奇さん最高や! ……ん? んん? あれ!? 今そこの茂みに隠れたのツチノコちゃうか!?」

「へ、蛇さんですか……? 味が気になります……!」

「この島のことだから居てもおかしくないね。捕まえれば三百万らしいよ。――オフッ。フェネ子、それは僕のツチノコだよっ」

「さっきから野生動物並みに本能的すぎやろ笛っち! 森に帰れ!」

「あ、毛虫だー」

「モフモフです……」

「よく触れんなぁ君ら。ちょ、近づけんなや!」


……なんてIQの低そうな会話をする集団だろう。

数歩後ろからついて行ってるが、およそ女子高校生とは思えない清楚感の無さである。

まぁその中心にいる奴が諸悪の根源でもあるのだが。


「難しい顔をしていますわね。妹さんが楽しそうなのですから、九魔の目的は達しているのでは?」


そう隣で肩を竦めるのは繭だ。

彼女もまた、上だけ水着姿。元々履いていたゴシック調のスカートに似たフリル付きの水着。


「まぁ確かに楽しそうね。家でも糸奇といるとあんな感じだし。この水着姿以外現状に不満はないわ。逆に、あんたがよく素直にこんな格好受け入れたわね」

「ゲームであれど敗者ですからね、わたくしは。絡新の教えに『敗者に価値無し』というものがあります。絡新の女が結果をゴネるなど醜い真似は出来ませんわ」


厳しい母を持つと大変だな。

母の存在が子供にどう影響するのか、私も笛子も『知らない』けれど。


「まぁ。絡新の教え云々が無かったとしても、糸奇様は無理矢理に同じ格好にさせたでしょうね。『今も』そういう我儘な方なのでしょう?」

「……そう、ね。あんたと糸奇がどんな仲だったのか私は知らないけど」

「別に。笛子さんを怒らせるような甘酸っぱい思い出話などありませんわよ」


その出会いは運命的であり、普遍的であり、感動的であり、必然的であって、何より計画的だった。

繭は小学生の頃、命を落としかけた。

彼女は横断歩道を渡っていた。

信号は当然青。

と、そんな彼女目掛け、物凄いスピードで鉄の塊が迫ってくる。

それは一台ではなく、四方八方から。

そこは渋谷のスクランブル交差点。

たまたま何台もの車が同時に玉突き事故を起こし、ドミノ倒しのように、一人の少女を目指し突っ込んで来ていた。

逃げる暇などない。

足がすくんだ彼女は恐怖で目を瞑る事も出来ず立ち尽くすして……直後クイっと服を引っ張られた。

物凄い音を立てて車たちが一箇所に押し潰される。

その中心にいた繭は……無傷。丁度人間『二人分』の隙間にいたお陰で助かったのだ。

彼女の隣には、もう一人、子供がいた。

その子が咄嗟に繭を引っ張り、文字通り死地から救ってくれたのだ。

その後絡新家はその子供を家に招き、盛大に持て成す。

夏休みで仙台から東京に来ていたその子供は、それから帰るまでの一週間ほど、繭の遊び相手になった。当時は人付き合いの苦手だった繭も、その子供にだけは心を許した。

名前以外を殆ど打ち明けなかった謎の子供。

その正体が明らかになったのは、つい最近の事だという。


「……成る程、ね。何よ、蓋を開けたらラブコメのような昔話じゃない。フエが聞いたら嫉妬で面倒くさい事になるわよ」

「……この話を知るのは同時の家の者とお父様くらいで家族外では九魔が初めてですわ」

「そりゃあどうも。でもそんな話聞いたら、あんたが糸奇に特別な感情抱いてるのが自然な感じするけど?」

「嫌いでは無いですよ。それ以上に、今はお母様と色んな意味で対等という関係に嫉妬の炎を焦がしてるだけで」

「……あんたのお母さん好きも異常ね。てか一つ腑に落ちないんだけど、糸奇とカアラさんが初めて会ったのが五年前らしいのに、あんたがそれより昔に住んでた東京の家で会ってないっておかしくない?」

「それは単純で、糸奇様が絡新にいたその一週間、家にお母様が居なかっただけの話。糸奇様が去った後も、礼を言いたいとお母様は絡新の力で彼を捜しましたが、見つける事は出来ず、時間だけが流れ……そして……数年前。偶然、二人は互いを知らぬまま相見えたと聞いています」


はぁ、糸奇らしい巡り合わせだ。

時系列的に、繭と出会った頃の糸奇はまだ『力』に目覚めてない筈だが、それが無くとも奴は直感で繭の危険を察知出来た。

そういう星の下に生まれた王子様。


「私には兄弟も姉妹もいませんからね。だからこそ当時は新鮮で楽しかった記憶があります。……あの方も、『僕もいないから新鮮』とおっしゃってましたし」


……成る程、こちらが本題か。

抜け目ない奴。


「普通、気遣って訊かないのがマナーじゃない?」

「わたくしも昔話を話したでしょう? それに、絡新の女は知りたい事実は何をしても突き止めなければ気が済まないのです」

「はぁ。まぁ別に隠すような事でもないんだけど。そうね、お察しの通り、私と笛子は糸奇と兄妹でもなんでもないし、五色の血族でもないわ。ただの居候」

「なぜ偽りを?」

「色々と都合がいいのよ、同世代の男女が同じ家で暮らすにはね。まぁ昔から五色を知る町の人は、糸奇に拾われたってこと知ってるんだけど」

「糸奇様に拾われた? 五色に、ではなく?」

「……少し口が軽かったわ。流石にこれ以上はゲロんない。絡新の長女でしょ? 後は自力で突き止めなさい。や、普通にプライベートな問題だから詮索やめて貰いたいけど」


だが、絡新の者の観察眼は鋭い。

近い将来確実に、真実に辿り着かれるだろう。


「ふん、まぁいいですわ。糸奇様の情報から少しでもお母様のいる桃源楼の話に繋がったらと思いましたが、関係は薄そうですわね」


貪欲な女だ。

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