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「――おっと。放ったらかしにして申し訳ありませんでしたね獄卒の皆様方。それで、続けます? 我々桃源楼一同は、歓迎しますよ?」
来る者拒まず、去る者追わず。
我々が提供するものは、いつでもお客様が(嫌でも)納得する結果である。
「じょ、冗談じゃねぇ!」「こんな所に居られるか!」「逃げろ逃げろ!」「もう殺されたくねぇ! 獄卒長の旦那! すんません!」
てんやわんやと散る獄卒連中。
こちらに近付きたくないのか皆窓から飛び出して行く。
ここ三十階ビルぐらいの高さあるのに、ようやるわ。
「むっ? お、おい糸奇。今逃げて行く奴らの中に、先ほど死んだ筈の幹部が混じっていたような?」
「ああ、うん。獄卒ってのは地獄で亡者を管理する役人なわけだから死って概念は無くって、すぐ復活は出来るんだ。まぁ、殺されて生き返る度に魂が磨耗してどんどん弱くなるから、階級は落ちるけど……おや?」
獄卒全員逃げ去ったと思いきや、獄卒長だけが場に立ち尽くし、こちらを睨んでいた。
「テメェら……! よくも俺らをコケにしてくれたなぁ!」
「まだお帰りにならないのですか? 私は早く帰りたいのですが」
七時までに帰って家族揃って夕食を食べるウチのルールがあるってのに。
「許せねぇ許せねぇ!! テメェらも! ここも! ぜんっっぶ! ぶっ壊してやるッ!」
シュゥゥと全身を石油ストーブのように赤く光らせる獄卒長。
あ、やば、このフラグは……「暴れんなら外でやれや!!」 同じく嫌な予感を感じたのか、すかさずトロスちゃんが獄卒長を宴会場の窓の外に蹴り飛ばす。
窓まで駆け寄り、堕ちていく光の粒を眺めていると……カッ! と強く瞬き『膨張』した。
「あ~そっちかぁ。自爆フラグだと思ったのになぁ。きたねぇ花火が見たかったのにぃ」
「ガッカリしてる暇あんなら早く片付けてこいよ。お前が煽ったんだろ? アタシは仕事に戻るからな」
ノリが悪いなトロスちゃんは。
僕は何も悪く無いのに。
「御津羽はどうする?」
「ぼくはここから眺めてるよ~。なんか『いいもの』が見られそうだし~」
御津羽も冷たいな。
僕は働きたく無いのに。
「しゃあない。行くよオウカ」
「行くってお前……まさか!? わ! わ! 体を掴むな! おまっ!」
「口閉じとけ。舌、噛む、ぞっ――と」
そのまま。
僕らは窓から飛び降りた。




