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「あ? ……聞き間違えたかな。今、帰れ、って言ったか? 俺らに?」
「はい。ご利用ありがとうございました」
「……どうも、現状を理解してねぇようだな。マナーを知らねぇ新人か? 怖いもの知らずは嫌いじゃねぇが……ちょっと上の奴ここに呼んで来い」
「その必要はございません。桃源楼の女将であるカアラは全て店員に裁量を委ねております。お客様との間での悶着も、その店員の判断を絶対としてますので」
「知らねぇよ。テメェじゃ話になんねぇつってんだ」
「話通じてねぇのはテメェだろさっさと消えねぇんなら窓から放り出すぞ」
おっと。
せっかく清楚キャラを演じてたのに汚い言葉を。
まぁ清楚ボイスなのでよし。
それはそれとして、僕の本音により空気は一気に剣呑なものに。
「へへ、聞いたかお前ら? 高い利用料渡してんのに、客の俺らにこの仕打ちだぜ? こんなん許されていいと思うか?」「いいわけねー!」「舐められてたまるか!」「予定通りここ占拠して慰安所にしてやろうぜ!」
遂に尻尾見せやがったな。
そんな事を漏らされては黙ってられないのがウチの勇者ちゃん。
「貴様ら……慰安所、だと!? させるか!!」
勢いのままに宴会場へと飛び込んだカアラは敵の大将である獄卒長へと拳をお見舞いする――が。
「へっ、なんだその遅ぇパンチは!?」「グッッ!!」
見事に返り討ち。
サッカーボールのように蹴り返された彼女を、僕はキーパーのように受け止める。
「っと。全く、君はほんと勢いだけだな。あ、口切った? 血出てるし腫れてるよ。治したげる」
「こ、これくらい大丈夫だ。くっ……奴め。中々に出来る……」
せやろか。
『今の』君が弱いだけな気がするけど。
しかし、まぁ。
これでお互い、引くに引けなくなった。
「ふんっ、噂の桃源楼ってのもこんなもんかよ? 何で周りの奴らがビビってたのか理解できねぇなぁ? こーんな一等地に店構えやがって、前々から目の上のたんこぶだったんだよ」
「ほぅ。だとしたら、どうします?」
「――白黒ハッキリつけようぜ。お互い、腕に自信のある奴を出し合って、な」
少年漫画か。
嫌いじゃない展開だけれど……けれど。
彼らは勘違いしている。
よくもまぁこんなアウェイで威張れるもんだ。
既に、『蜘蛛の巣に絡まれた蝶』だというのに。




