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「――とまぁ、この子の初めての客はそんなお兄さんでさぁ」


「アハハ~その人間、糸奇さんのご奉仕受けて貰えたなんて凄い体験じゃないですか~」


アレから一時間程経った今。僕らはこの後始まる団体客の宴会の準備をしていた。


「オウカもワァワァ必死に涙目で叫んでてさ、いやぁ笑った笑った」

「オウカちゃんかわい~」

「う、うるさいっ、あの場面じゃ誰でも熱くなる所だろっ」


食べ頃のリンゴのようにオウカは頬をあかくして、


「だ、第一、お前、勝手にあんな真似をしていいのかっ」

「あんな、とは?」

「だからっ、あの男やその妹を何事も無かったような状態に戻した事だっ。べ、別にあの結末には不満は無いが、運命は不可逆では無かったのかっ」

「不可逆だよ。変えられないのが当前だ。ただ、僕はその限りじゃないだけ。僕は何しても良いんだよ、神様だから」

「あはっ、オウカちゃん、よりにもよって運命とか、それ、糸奇さんに言っちゃう~?」

「ど、どういう意味だ?」

「こら御津羽、そこんとこはまだ秘密しててよ。謎多きキャラでいたいからね」

「糸奇さんも大概だな~。……にしても。話は戻るけどさ~、その客の人間、今回の利用料払い切れるのかな~?」

「払い切れるか、だと? どういう意味だ?」


何も知らないオウカの当然の疑問。

御津羽が僕を見て『説明してないの?』と視線を送るので、頷き、『説明してやって』と視線を返す。

なんで視線で会話してるのかは謎だ。


「全く糸奇さんたら~。ねぇオウカちゃん、この桃源楼では客が利用料を払うのは理解出来るよね~?」

「当たり前だ。ここは飯も風呂も奉仕もある宿のような場所なのだろう?」

「そ~そ~。その利用料の形態も色々でさ~、基本現金は無し。一つは、君も見たような宝物庫のお宝たち。そんで一つは、『情報』」

「情報?」

「ん~。君も知っての通りここには色んな店員さんがいるわけで~、金品よりも情報が欲しいって子も多いんだよ~。それは探し物だったり、人だったり、お宝だったりの情報ね~。オウカちゃんにも探し物の一つ、あるでしょ~?」

「……むぅ」

「詮索はしないよ~。あ、因みに、君がこの世界を来た時通った門あるでしょ~? アレも糸奇さんがここの仕事で客から貰ったもんなんだよ~」

「なんと、そんな経緯が……、もし、その客がここに来なければ、必然的に私も今ここには……」

「それが四年前だったかな~? 糸奇さんが『求めていた報酬』じゃないけど、それを機に桃源楼辞めちゃってさ~。んで、すぐオウカちゃんの世界に『行って』~」

「なっ! 糸奇お前っ、四年前私の世界にっ?」


全く、御津羽は口が軽すぎる。


「御津羽、話が脱線してるよ。人間の場合の利用料支払いの話、でしょ」

「あ~そ~そ~。さて、ここまで話してだけどオウカちゃん。こんな凄いお宝や情報を、迷い込んで来た一般人が払えると思うか~い?」

「むっ……到底不可能だと思うがどうなるんだ? まさか腕の一本も置いて行けと?」

「あはは~、そんなんで足りるわけないじゃ~ん。腕も脚も身体全部でも到底払いきれないよ~。だから、基本は『魂払い』だね~」

「たましい?」

「早い話が寿命だよ~。頂く年数も、受けたサービスによってまちまちだね~」

「じゅ、寿命、か……いや、待て。さっきの、『払い切れるのか』という話は……」

「普通なら、そこまでゴッソリ魂は頂戴しないんだけど~、今回は店員二人、しかも伝説の糸奇さんからのご奉仕だよ~? 魂一人分どころか、親族全員から頂戴しても足りるかどうかだね~」

「なっ……! し、糸奇!」


そんな縋るような目で見んなや。


「はぁ、安心せぇ。今回は新人であるオウカの料金分しか取らないよ。大体寿命五年分。客商売だし、取るものは取らないと。納得、出来るよね?」

「……分っている」


確定バッドエンドからあんなハッピーエンドを用意してあげた。

いくら正義の化身オウカでも、文句は言えまい。


「糸奇さんたら優しいな~。ぼくならそんな『絶望味の濃い魂』、美味しく頂くのに~」


ニコニコしつつも軽く本性をチラ見せする御津羽にビクリと怯えるオウカを眺めつつ、「テメェら喋ってないで仕事しろ!」とトロスちゃんに怒られつつ、大広間に大人数の御膳のセットを完了。


「ふぅ。さて、今日のだいたいの仕事はこんなもんかね。後は宴会で出る洗い物やゴミの処理くらいだよ」

「え? この後の宴会には参加しないでいいのか?」

「いいんだよ。適所適材ってのがあるから。少なくとも、君やトロスちゃんみたいな『キレやすい』子には無理な仕事だ。御津羽みたいな子なら飄々とこなせるだろうけど……」

「ぼくは『今日の団体さんに顔が割れて』ますからね~」

「……一体どんな宴会なんだ?」

「チラッと見てく? 後学の勉強、といっても、君が担当する事はないだろうけど」


僕の決め付けにオウカは少しムッと唇を噛み「私にも理性はあるっ」と胸を張った。

さて、その吐いた唾、飲み込むなよ?


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