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「ささ、どうぞお客様、中へ。民俗学を専攻しているのであれば、こういったモノは興味がおありでしょう?」

「そ、それはそうですが、本当に入って良いんですか? で、ではっ、失礼しますっ」


遠慮しつつも本能には逆らえないのか、足早にお兄さんは中へと入って行く。

さて。

宝物庫の様子を一言で表すなら……カオスだ。

整理整頓はされているが、中に納められているのは国籍もジャンルも統一されていないチャンポン状態なお宝たち。

凶々しいオーラを放つ西洋風の鎧があるかと思えば、その隣には抜き身の日本刀と可愛いクマのぬいぐるみがあったり、宙に浮いた椅子の上にはボードゲームの箱や木製のルービックキューブっぽいパズルがあったりと……まぁ、このゴチャゴチャ感、嫌いでは無いけれど。


「うわぁ……凄いなぁ、これ。あ、この椅子、もしかして有名な【座ると死ぬ椅子】ですか? それにこの刀……もしやあの【妖刀村正】!?」

「きゅ、急にテンションが上がったなぁ」

「ふふ、オウカ。男の子はお宝が大好きなんですよ。お客様。お楽しみのところ恐縮ですが、一つ、【お見せしたいお宝】がございます。こちらへ」

「あっはい。……あのぅ。今更なんですけど、俺のような一般人が、こんな凄い所、入って良かったんですか?」

「ええ、ご心配なく。現世に戻られた時には『忘れている』筈ですので」

「な、成る程……、……忘れたくないなぁ」


稀に。

隔世や幽世に入った者がそこでの記憶を忘れていない、なんて場合もあったりするがそれはそれで問題ない。

どうせ周りからは『夢』扱いされるだろうし。


「お客様、こちらです。この【三面鏡】はご存知で?」


僕は、定番な嫁入り道具の前で足を止め、お兄さんに問い掛ける。

三面鏡。

今の時代は珍しい? であろう家財。

そんな三面鏡だが、今は白い布で覆われている。

まるで『使うな』とでも言うように。


「いえ……どんな謂くが付いていて?」

「これは、とあるお客様が代金がわりに渡して来たモノで、名を【トゥルードレッサー】……直訳で真実の鏡、といいます。昔の、とあるイギリスの貴族の女性が使っていたもののようで白雪姫に出てくる魔法の鏡も実はコレがモデルなのですよ」

「あの白雪姫の!? それは凄いっ」

「(クイクイ)糸奇、白雪姫とは誰だ?」

「ん? ああ。創作話に出てくるお姫様の事でそこにはとある魔法の鏡が出てくるんだ。その鏡を巡って白雪姫のおばあさんは狼に食べられ、お菓子の家の魔女に追いかけられ、最後には人魚になって泡と共に消える」

「色々お話をチャンポンし過ぎじゃないですか糸奇さん!?」


そうだったかな。

乙女な御伽噺はよく分からないや。

バトル要素の強い三匹の子豚とか猿蟹合戦は好きなんだけど。


「すると糸奇さん。モデルになったと言う事はこの鏡に『自身の知りたい事を映す』力が?」

「いいえお客様。飽くまでこの鏡はモデル。このトゥルードレッサーの真価は、『映った者の今一番大切なモノが映る』です」

「ッ! つまりは、これを見れば俺の記憶を呼び起こす鍵に……?」

「あるいは」


頷きつつ、僕は鏡を覆う白い布を外す。

その下には、穢れのなき純白のドレッサー。

観音開きな蓋を開け、鏡面を露わにする。


「どうぞ。ああ……言っておきますが。映す像が、必ずしも『美しいモノ』ばかりだと思いませんよう、肝に命じておいてください」

「……はい」


お兄さんは頷き、恐る恐る鏡を覗き込む。

最初こそ、僕達三人の姿を見せていた鏡だったが……次第に、ユラユラとその像を水面のように波打たせ始め……。


「むっ、変なモノを映し出したぞ? これは……ベッド、か? 上には……一人の『女』が眠っているな。身体中に包帯を巻いていて、酷い怪我だ。医者、のような者達も確認出来るが、これは?」


「――、――、――あ」


ガクリ。

お兄さんが、膝から倒れ込んだ。

その顔色は、青ざめを通り越し、真っ白。


「お、おい! 大丈夫か!?」

「お……おもい……出したん……です。お、俺は……い、生きてちゃ……いけない……最低な野郎……だった……!」

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