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――その後も。
僕達は二人でお兄さんへのご奉仕を続ける。
二人で一緒に耳掻き――案の定オウカが耳掻き棒で抉って悶絶させたり――したり、
二人で食事をあーん――案の定オウカが山葵を口内にぶち込んで悶絶させたり――したり、
二人でお酌――案の定誤って酒を飲んだオウカが大暴れ――したりして。
こんな綺麗どころな僕達にチヤホヤして貰えるなんて、例えタワーのようなお金を積まれても実現出来る甘美ではない。
勿論、それ相応の『代価』は払って貰うが。
「ぅぅ……頭がガンガンする」
「もぅ、この子ったら。ほら、お水飲みなさい」
「悪い……ん? 何でお前が水を口に含んで……ま、まさか!? (ぶちゅ)んん――!?」
「ぷはっ。ふぅ。どお? 頭はスッキリした?」
「……、……お前、誰とでもこんな事をしているのか?」
「ひ、み、ちゅ」
「あはは……仲がよろしいんですね」
お兄さんは僕らのディープな遣り取りに顔を赤くしている。
男の子はこういう百合百合なのが好きだからね。
これも客に対してのサービスだから仕方ないね。
現在、僕達はある場所を目指し廊下を歩いていた。
お兄さんには少し『見せたいもの』があったから。
「お二人は、昔からの仲で?」
「うふふ、いえ? 今日が初対面ですのよ」
「そういえばそうだったな……」
オウカ自身がそう錯覚するほどに、僕の馴れ馴れしさは相当なものだ。
コミュ力オバケとよく言われる。
「初対面? へー、二人の空気を見れば、姉妹と言われても疑いませんよ」
「こんな姉は欲しくない……」
「あらオウカ。自身が妹ポジションという自覚はあるのねぇ」
「そ、そういう意味じゃないっ。第一、お前歳はいくつなんだっ」
「ピチピチの一六ですわよ~。貴方は?」
「……一五」
「オッホッホッ、やはり妹ポジですわねぇ。おや? お客様、どうされました?」
お兄さんは顎に手を添え、「妹……?」と何か考え事を始めた。
いや。
『自身の発言』に思う所があったのだろう。
もっと悩め悩め。
「いえ……今、何かを思い出そうとしたのですが……こう、引っ掛かってる感じで……」
「妹とか言ってたな。居るんじゃないのか?」
「妹……? ……ッ! そ、そうなんですオウカさん! 居るんですよ可愛い妹が!」
「お、おう、そうか。そんな勢い良く身を乗り出さんでも」
「あ、ああ、すいません。急にモヤモヤがスッとしたんで」
「思い出せたようで何よりです。――と。着きましたよ」
その部屋の戸にはこう書いてあった。
『宝物庫』と。
「なんて読むんだ? 文字、らしきものだと思うが」
「オウカさん、そういえば海外の方で? 髪も赤いし。にしては日本語がお上手で……」
「オウカは剣と魔法のファンタジーな異世界から来たんですよ、お客様。言葉も、異世界とを繋ぐ扉を潜れば自動的にその世界に対応出来る仕様ですので」
「あは、は……もうなんでも有りですね、ここは。あ、オウカさん、これは宝物庫と読むんです」
「ほぅ……(ガタタッ)ん? 鍵が掛かってあるな。まぁ当たり前か。糸奇、鍵は?」
「ないよ」
「はぁ? 鍵もないのにここまで来たのか? それとも鍵がなくとも開けられる方法でも?」
「ないよ。この部屋の戸と錠は、現世幽世とその他の凡ゆる世界の中でも五指に入る程の堅いセキュリティだ。中には、ここの利用代金として払われたお宝や、どこぞから押し付けられたヤバい呪具、店員の子が『要らないから』と押し込んだ魔法アイテムが納められてある」
「最後のやつは物置がわりにしてるだけでは……。しかし、ならばどう開けるんだ?」
「そんなの(キンッ)こじ開けるだけさ」
立てた人差し指を鍵穴の前で小さく振るうと、小さな金属音。
「ん? 今、何か音が……(スゥー)……開い、た? 糸奇、何をやったんだ」
「扉は傷付けずに中のセキュリティだけ『切った』」
「いやよくわからんが……というか、カアラに怒られないのか?」
「怒られるだろうね。だから後で戻しとくよ」
「戻せるのか……本当に硬い鍵だったのか? これ」
いまいち納得してないオウカだったがまぁ簡単に開けたようにしか見えないのもしょうがない。
どれだけ凄い事をやってのけたか理解出来るとも思えんし。




