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ZZZ
初めて見た時、これが天使だと思った。
絵本とかアニメから飛び出したようなキラキラした非現実的な何か。
欲しい、と。
一目見てそう思った。
「あの子は私の恩人の息子さんだ。これから何度となく会う機会も多いだろう。仲良くして貰いなさい」
パパンに紹介されたその幼女にしか見えない男の子は母親の陰に隠れてビクビクしていて、
「男がコソコソすんな」
と母親に背中を蹴り出され、こちらに飛んで来た。
思わず受け止める雨心。
女の子みたいに軽くて、柔らかくて、良い匂い。
幼心に、もう自分の物、そう思った。
常に自信なさげな男の子。
何か焦ってるようで余裕がなさそうで。
そんな一挙手一投足が、雨心には愛おしくって。
男の子は、歳を重ねるごとに綺麗で明るい子に成長していった。
が、それは表の顔。
根幹は変わる事は無かった。
誰よりも優れている男の子は、誰よりも劣等感を抱いていた。
本人はバレてないつもりでも、雨心だけは男の子の変わらぬ弱さを知っていた。
愛おしかった。
――そんなある日、世界は雨心の待ち望んだ世界に様変わりした。
邪魔する者の居ない雨心と男の子だけの世界。
蜜月だった。
このまま死ねたらどんなに幸せかと思った。
けれど……永遠なものなんてなかった。
その日、その夜。
男の子は、今まで見た事も無いような表情になった。
表情というよりは、瞳。
宝石のようだった瞳が紅く輝いた。
暗い部屋の中でもハッキリ分かる妖しい瞳。
心臓を掴まれたような、全てを見透かすような瞳。
瞬間、理解。
男の子は、雨心の知る男の子では無くなったのだと。
男の子からこんな威圧感も頼り甲斐も感じた事はない。
これが――神様。
あの夜から何度も見続けているあの夜の夢の。
朝起きると忘れる夢。
の、筈なのに。
今日は違った。
「……あれ? アコ?」
え。
夢の中の幼馴染が、台本に無いセリフを漏らした。