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「五色の人が、みんな消えた?」

「……うん」


置き手紙もなく、ご飯の準備も途中で。

まるで神隠し。

神の一家がヤラれるとか、なんて皮肉。


広くなった神社。

数日前まであれだけ賑わってたのに、今もう光を失ったように陰気な場所になってしまった。

僕も、張っていた虚勢が剥がれた。


「なんかパパンが焦って駆け回ってたけど、そゆこと。なんて望んだ通りのシチュ……んん、なんでもない。ま、やる事変わらないけど」

「……なんでご飯の準備してるの? もう、仕事はしないでいいんだよ?」


蓄えはあるから家のお手伝いをしてくれる彼女に払える給料もある。

このまま遊んで暮らしでも余裕なくらいに。

けど、それでいいのか?


「シキは、この先どうしたいの」


僕。僕は……。


「ゆっくり考えればいい。学校にも行かなくてもいい。自分も行かない」


なんで? と、僕は訊けなかった。

なんで、急に優しくなったのだろう。

彼女の性格を考えたらこんな布団に蹲ってる情けないヤツなんて引っ叩いてでも再起させようとしそうなのに。気を遣ってくれてる?


――そして彼女の宣言通り、その日から本当に二人だけの生活が始まった。


朝はメイドに起こして貰いメイドの作った朝食を食べ、

昼はメイドとゲームや映画見たりしてメイドの作った昼食を食べ、

夜はメイドの作った夕食を食べメイドに背中を流して貰いメイドと共に眠る生活。


メイドは買い物ですら宅配サービスで済ませ、片時も僕から離れない。

神社を訪ねて来た氏子達や自らの両親でさえもすぐに追い返していた。

ある意味僕を実家に監禁な生活。


そんな生活を一週間、一ヶ月過ごし……相変わらずの学校にも行かない自堕落な日々。

一向に家族は帰ってこない。


「シキには悪いけど、こんな日々をずっと夢見てた」


そんな風にメイドは、僕の頭を洗いながら呟く。


三ヶ月が経った頃には、メイドはデレデレだった。

いや、元からあった気持ちを表に出しただけらしい。

初めこそキャラを保ちつつツンツンな態度で背中を流していた彼女も、今では泡まみれで僕に絡み付いてくる。

思えば、幼女時代の彼女はこんな素直な子だった。

皆が居る手前デレられなかったが、今はそんな目もない。

隠す必要がない。

今の出で立ちのように。


こんな日々を待ち望み僕の為に磨いて来たメイドスキル。

僕とは別のベクトルで化けの皮を剥いだ彼女のご奉仕は、暴力的な程に僕を更にダメにする。


「ママンが言ってた。『自分の血筋の女はダメ男に惹かれる』って」

「……あの親父さん、見た目いかついのにダメ男なの……?」

「知らない。そんな姿想像するのもキモい。けど今ならママンが言ってた意味、わかる」

「……僕はしっかり者になりたいんだけどな」

「ダメ」


言いながら、背中に抱き付いてくる彼女。

僅かながらにプニョリとしたのが押し付けられる感覚にドキドキ。


「シキはそのままダメダメでいいの。ダメダメがいいの。カッコよくなっちゃダメなの」


こんなワガママ聞いた事がない。

ここまで堕落を求める女は普通じゃない。

僕の再起を邪魔する女。

けれど、そんな彼女が僕の一部になっていた。

依存という言葉すら生温いほど粘っこい泥。


――その夜も、当然のように一緒の布団。

向かい合って、お互い手を握って。


「明日は外出ない? そろそろ陽を浴びないと体に悪い気が」

「ダメ。誰がシキを狙ってるか分からない。あと、変なキッカケでシキが目覚めても困るし」


幼馴染の手を握る力が強くなる。

必死さすら感じる。

いや、既に彼女は気付いていたのかもしれない。

僕が無意識に『何か掴みかけている』事を。


「そうだ。寂しいなら、賑やかになればいい。帰ってこないなら、増やせばいい」


メイドが頭のおかしい事を言い出した。


「ええ……僕たちまだチューボーだよ? 子供だよ?」

「平気だもん。こーゆーのは若ければ若いほどいいって聞いたっ。善は急げっ」

「わっ」


布団を蹴り飛ばし勢い良く僕に跨る幼馴染。

言い出したら聞かない奴。


「縁の神社の神様の癖に何も知らないんだ。世界はこうやって縁を繋げてきたんだよ。何もおかしくないのっ。縁の神がビビるなっ」


……確かに。

僕は何を怯えていたのだろう。

今更世間体でも気にしてたのだろうか。


目の前には僕を大切にしてくれる相手。

僕も彼女が支えになってる。

拒む理由は無い。


二人の将来を想像する。

歪だけれど楽しそうな家庭。

きっと彼女は、その時も僕を引っ張ってくれるだろう。

これもまた、一つの形。

一つの縁。


ああ、そうか、これが縁か。

この神社に来るお客の気持ちが今、理解出来た。

パパンやジイちゃんが扱っているモノの重みと軽さを実感した。


――直後。

僕の見えていた世界が変わる。


皮肉なものだ。

それを気付かせてくれたのが、一番それを気付いて貰いたくなかった彼女自身だなんて。


「え……? うそ……や、やだ……ダメ……」


泣きそうな顔になる幼馴染。

流石、親の次に長く僕を見てきた彼女だからこそ、僕の変化にすぐに気付く。

だが、もう引き返せない。


僕は、カッコいい男にならないとイケなくなった。

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