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小話 ▼ ?年前 ▲
「こらシキッ、だらだらしないっ(ペシペシッ)」
「んあー? 箒で掃かないでよー、わしゃゴミか」
「休日だってのに家の仕事も手伝わないヤツなんてゴミ以下ッ」
言ってくれるじゃないか幼馴染め。
「このメスガキ~、僕は跡取りだぞークビにするぞー」
「シキなんてどうせこのままじゃ跡継げないしっ。五色の縁切り神様の力も全然引き継げてないしっ」
「あっ、言うてはならぬ事をっ。神社で巫女服じゃなくメイド服着てるような変な奴に言われたっ」
「ニッチな神社の癖に常識求めるなっ。ゴミッ、ゴミッ」と未来の神様を足蹴にする罰当たりな幼馴染。
生まれた時からの付き合いだが、この子はいつもそうだ。
見た目は小動物の可愛らしさと小柄さだが、中身はツンツンとツンデレ猫のような猛獣。
デレは幼女時代にしか見てないが。
「もー、神様の力なんてその内発現するでしょー。焦らない焦らない」
「そんな事言ってっ。このままじゃシキの代で神社終わるっ」
「パパンとママンはそれでも気にしないってよー。それも縁の導くままとかなんとか~」
既に先代の神だったパパンに神の力はない。
力は僕の中でスリープモード。
それでも今も神社が賑やかなのは、あの人の人徳だろう。
「みんなシキに甘すぎるのっ。この神社無くなったら就活しなきゃじゃん! めんどい! 死んでも後継げっ」
「なんて自分勝手なヤツだ。まぁ、マジのピンチになったら漫画の主人公よろしく覚醒するかもねー。それまでひと休みひと休み~」
「コラッ、二度寝すなっ」
小うるさいチビメイドの正論には辟易していた。
自分が情けない事は自分が一番痛感している。
言われずとも、焦っているのだ。
期待に押し潰されている。
神社近くに住む昔からの氏子らからも直接は言われてないが風の噂で『五色はもう終わり』と囁かれているのを知っている。
「学校でも遊んでばっかでっ。白狐先生にも昨日怒られたでしょっ」
そんなの空元気に決まってる。
焦りを誤魔化してるだけ。
そういえば、先生は言わずとも僕の焦りを察してくれてたな。教師の鑑のような人。
本当に。
それこそ、さっき言ったような劇的なキッカケが無ければ僕の神の力は目を覚まさないだろう。
しかし、僕の周囲の大人達は有能揃いで、もし何か問題が降り注いでもすぐに解決してしまうのは明らか。
僕が出る幕などない。
こんな、何もかも後ろ向きな僕に、神様などこなせるだろうか。
僕は、パパンやジイちゃんみたいな本物とは違う。こんな僕に、人々の運命を操る度量が?
「ほらっ、こいっ。せめて売店にでも立っててっ」
「やーだー」
無理矢理立たせようとする幼馴染。
今はこの強引さが、少し有難い。
――そんな、起こる筈が無いと高を括った自身のピンチ。
だが運命の日は、予兆もなく訪れた。