腐女子の私に推しCPがグイグイ攻めてくるんだが
腐女子が乙女ゲームに転生したらどうなると思う?
秒で推しカプ作って毎日脳内アハンウフンの楽園状態です本当にありがとうございます。
ええ、マジでそんな日常送ってますがなにか?
二次元マジパネェ。舞台が学園ともあって顔面偏差値異常事態のフルスロットルだぜ。あっちにもこっちにもイケメンしかいねぇ。なんかもう元の世界に戻ったら私眼球死滅すると思うわ。リアルの現実逃避から目がァ! って自分で潰しそう。やだなにそれこわい。
しかしここは乙女ゲームの世界なわけで。ちゃんとヒロインがいるわけですよ。
それがまたクソ可愛い天使ちゃんで、あまりにモブとの格差がすごすぎて乙ゲー怖ぇってなったのはここだけの話。幸せになってね。誰とくっつくか知らないけど。モブは見守ることしかできないので。
ちなみに悪役令嬢もいるけど、この子もリアルに比べたらとてもわかりやすいツンデレちゃんで簡単に手懐けました。今では親友です、はい。
だって男のために人生棒に振ることないじゃないですか。もったいないぞ。美人ちゃんなのに。
腐女子だけど女の子も大好きですからね、私。可愛い子は眼福です。
そんなわけで、悪役令嬢だったナタリアと私で楽しくゲームの展開を見守っていたわけですよ。さて、誰がヒロインちゃんを射止めるのかってね。
それを楽しみつつ、腐女子として見逃せない異常に仲のいい二人の男がいましてね、ヒロインの攻略対象でもある黒騎士候補の正統派イケメン、ティードと、この国をまとめあげる宰相の息子で見た目ショタの可愛いシュエルド。
この二人本当に仲がいい。
攻略対象でライバルとなるはずなのになんでそんな仲良くしてんの? って突っ込みたいくらいこの二人の距離感がおかしい。
肩抱くし、後ろから抱き締めるし、なんか常に腕組んでるし。え、普通なの? ティードおまえ守る対象おかしくないか? シュエルド、甘える相手違うだろ? ヒロイン目の前にしてこの二人はなにをやってるの? と、まあ……乙ゲー詐欺にでもあったかのように私には衝撃の嵐だったわけで。ご褒美でしたけどね、はい。
それで攻めはどっちなのか、受けはどっちなのかで揉めるわけですよ。私の腐った脳内が。
結果、腹黒ショタがあざとさで攻め込んで抗えず食われて受けになりさがる黒騎士で決まりました。はい、おいしい。
そんなこんなでヒロインちゃんを応援しつつ推しカプを見てたわけですよ、毎日。学校ってこんなに楽しかったっけ? と毎朝ルンルンで通える二次元の強さよ。現実もこれくらい楽しかったら……。社畜よろしくとなった私にはもう二次元しかない。だから今を楽しまねばならない。
そう、毎日ルンルンだったはずなのになぁ……。
「なんでこうなった」
脚本があればその場に叩きつけてやりたい。
誰がモブに救いの手を差し伸べろと言った。モブは黙って見守るのが仕事じゃろがい。
「ねぇ、なんでいつも僕のこと見てるの?」
こんなイベント要らねぇんだよぉー!
後ろから抱きつくショタの温もりが怖すぎて震える。
設定では同い年だがどう見ても十二歳です。ショタです。間近で見たらくっそ可愛いな、おい。実は女の子っていうオチもワンチャンあるぞこれ。
「ねぇ、聞いてるー?」
「ひゃい!」
「ははっ、ひゃいってなに? かわいー」
可愛いはてめぇだァー!
私、推しは遠くで眺めるタイプなんです。こんな近くで会える勇気なんてないんです。
簡単に言うと、無理すぎて死ぬ。
両手で顔を覆うと、シュエルドがようやく私から離れてくれた。ホッとしたのもつかの間、ショタは私の前に回り込むと覆っていた手を遠慮なく剥した。おまえぇー!
「ーーっ」
「自分はいつも見てるのに僕には見せないなんてズルくない?」
モブの私にどうしろと。こんな間近にくっそ可愛い顔面見せられて、襲えと? え?
「は、離し……」
「なんで? 僕に触られるのいや?」
ショタの本気が私を殺しにかかってる。
ガチで威力がやべぇ。あ、今魂抜け出てる気がする。
たしゅけてナタリア……死んじゃう、私死んじゃう。
「ねぇ、名前教えて?」
「……は?」
「教えてくれたら手を離してあげる」
ほら、はやく。と耳に囁かれ、意識が遠のく。なぜ私にそんな技をしかけてくるのか。ティードにやればいいじゃないか。なぜこんなときに限って一緒にいない、受け担当!
「……アリスです」
「アリスちゃんかー、可愛い名前だね!」
モブの分際で可愛い名前しててすみませんね!
私がつけたんじゃないから。文句は親に言ってくれ。
「学年はー?」
「お、同じです」
「……あ、そっか。見てたから知ってるよね。同じって」
これは怒られる流れか。見てんじゃねぇよ的なあれか。なるほど。あまりに見すぎて気づかれてしまったわけだな。失態にも程があるだろ! 腐女子としてあるまじき行為だわ。なんてこった。バレるだなんて。もう見れないじゃないか。私のオアシスが……。
「それで、なんで僕のこと見てたの?」
「な、なんのことですか?」
「えー、ここでしらばっくれるの? バレバレなのに?」
ええ、抵抗しますよ。無駄な足掻きでも。私がここにいる理由がなくなるじゃないか。なんのために死んで転生したんだ私。
そう、戻れないのよ。戻りたくても。だから二次元で生きなきゃならないの。モブだけど! モブだけどね!
せっかく二度目の人生だ、好きに生かさせてくれ。間近で推しカプ見れる人生謳歌させてくれ頼むから。
「隠したいならそれでもいいけどさー。見てるだけでいいの?」
「…………はい?」
「それで満足できるの?」
めちゃくちゃ満足してますがなにか?
毎日幸せ噛み締めてますよ。供給過多で時々死にかけてますけど。ナタリアにいつもドン引きされてるけどこれは生理現象ってやつなので抑えるの無理っていうか。むしろもっとやれっていうか。
「いつもありがとうございます」
「……は?」
「あ、いえ、なんでもないです」
あぶねぇ。うっかり本音が。
「よくわかんないけど、アリスは僕を見て満足してるってことかな?」
いきなり呼び捨てかーい。
いや、別にいいですけど。それより両腕を肩に置かないでくれますかね。近いんですよ距離が。
首傾げて、楽しそうに笑って。あえてやってる感があざとすぎて。ーーははは、くそ可愛い。カプ推しだったのに単体でも推せるとかしんどみ深すぎて。
ちょっと一回家に帰らせてくれ。頭の中整理したい。予想以上に私、今テンパってるから。
「顔真っ赤なんだけど、大丈夫?」
いえ、死にそうです。無理です。
「……かわいー」
だから、可愛いのはあんただって……おい、待て。顔近づけんな、おいショタ。なにする気だショタ、おいこら。
「なにしてるんだ」
「あ、ティード」
ここで来んのかーい!
驚きから足滑らせて後ろに倒れかける私を簡単に受け止めるとは。しかもシュエルドも一緒に。すげぇな。さすが黒騎士候補、鍛えてらっしゃる。
「エル、女性相手になにをやってる」
「えー、お話してただけだよ? ね? アリス」
「ひぇっ、あ、はい。そ、そうですね?」
いや、ちょっと待って。なぜ私を挟んで会話をなさるのでしょう。
「アリス……?」
ひょえっ。そんなイケボで名前呼ばないでくれ。しかも後ろで、間近で、私に触れながら。ーーえ、私明日死ぬのか?
「前に話したでしょ。熱い視線送ってくる女子がいるって」
「……ああ、それが彼女なのか?」
「そう。認めないけどねぇ……」
これなんて拷問?
焦ればいいのか恥ずかしさで死ねばいいのか。推しカプに挟まれ、見てただろてめぇと尋問受けるなんて一生ないわこんなの。目の前にはくそ可愛い男子。後ろにはくそイケメンな男子がいるというのに。私という存在が邪魔すぎて泣きたい。
「こら、距離感考えろ。困ってるだろ」
「あっ、」
「すまない、大丈夫か?」
私にくっついていたシュエルドをいとも容易く剥がし、自分の背中へと避難させるティードのイケメンっぷりよ。ーー抱いてくれ。
思わず思ってしまった私を誰か殴ってくれ。モブが調子乗ってんじゃねぇ。わかってる。わかってるから。
「もう、なんで邪魔するの!」
「困らせてるだけだろ? おまえはいつもそうやって後先考えずに手を出して」
「失礼なこと言わないでよ! 僕ちゃんと相手選んでるし」
「嘘つけ。誰でもやってんだろ」
「違いますー!」
おいおい、目の前でいちゃつき始めたぞこいつら。
攻めが受けの腰抱いて頬膨らませてますが。受けが困ったように笑って攻めの頭撫でてますが。
ーーあ、今日死ぬわ私。これ最後のご褒美なんですね、わかります。
「アリス、大丈夫?」
「どうかしたのか?」
いえ、ちょっと威力でかすぎて正気保ってられないっていうか。聖域が眩しすぎて見れないっていうか。
ちょっとほんと、尊みがしゅごすぎて。
「すいません、もう無理です、帰ります」
「え?」
深く頭を下げて走るようにして私は二人の傍を通り過ぎたーーはずだった。ショタの反射能力チートかよ。
ガっと腕を取られ、どこにそんな力がと思うくらい強く引かれると、私は二人を下敷きにして床に倒れ込んだ。
「いっ、た……」
「あれー? ごめん、軽く引っ張ったつもりだったんだけど」
どの口が!
あの強さが軽くとか恐ろしすぎるんだが。
「エル、おまえ……!」
「あはは、だってアリスが話終わってないのに帰ろうとするから。それより、ティード……どこ触ってんの?」
「あ? なに言って、」
ふに。と包まれる感触が胸にありまして。
私は視線だけを動かし確認した。
ええ、触れてますね。
ティードの手が、私の胸を。
「「…………」」
「これ、ラッキースケベってやつかな?」
呑気にシュエルドが言う。なぜそこでショタの胸を揉まないんだ、ティード!
「す、すまない!」
「い、いえ……」
いや、触られたの私なのになんでそんな真っ赤になってるの。むしろ私の微かにある程度の胸でごめんねって言いたいけど。
「決してわざとでは……っ、いや、弁解の余地はないな。本当にすまない。事故だったとはいえ、女性の胸を触るなどと……どうか責任をとらせてほしい」
いや、真面目か。そんな顔真っ赤にさせて。可愛すぎやろ。そんなでかい身体してなにピュアって。なるほどこれがギャップ萌えか。ーー尊い。
「あの、お気になさらず。事故ですから」
「いや、しかし」
「ティード、あんまりしつこいと嫌われるよ?」
元はと言えばおまえのせいだろー!
なにさり気なく私の腰後ろから抱いてんの。逃げられないようにってやつですか。なるほど。離せこのやろう。またさっきの絵になってるじゃん! 今度は前にティードで後ろがシュエルドだけど。
「エル、元はと言えばおまえがあんな乱暴なことをしなきゃ」
「アリスが逃げるからだもん」
「に、逃げてないです」
「……嘘つき」
ひえぇ。耳に囁くのおやめくだしゃあ……。
ぷるぷる震える私をシュエルドは目を細め笑う。このショタドSだ。絶対そうだ。攻めだ。攻めに決まってる。私の読みは当たってたヤッホイ、違う、空気読め私。
「エル、やめろ……彼女が困ってる」
「……っ」
お、おう?
シュエルドを離してくれるのはありがたいが、なぜ私を胸に抱くのかな? いや、めっちゃ胸板厚いな。すげぇ鍛えてるね。すっぽり抱きとめられてる自分にびっくりだわ。
「あれぇ? ティードなにしてるの? 奥手な君が大胆だね?」
「……違っ、」
なにもしてません、と両手上げても遅いですが。また真っ赤になってるし。完璧受けだなこの人。可愛い。私でも可愛いと思うわ。
まじまじとティードを見ていると、さらに顔を真っ赤にさせ「すまない」と謝ってきた。
ーーん"ん"ん"っ。
私の中に母性というものがあったのか。この子息子にしたい。頭撫でまくりたい。
「なに、ティードも気に入っちゃった?」
「は? なに言って、」
「いいよ? ティードとならシェアしても」
先生、攻めが私挟んでエロいフェロモン撒き散らし始めました。
こいつ魔性すぎる。いかん、息子を守らねば。
違う! そうじゃないだろ!
ここは、私抜きでアハンウフン展開をしてもらわなきゃいかんだろうが。さあ、どっかの空き教室で存分にどうぞ。私覗きまではしませんから。あとで事後の雰囲気見せてくれたらそれで。ってなんで私に視線がロックオンされてるんだ。おい待て。近づくな、ショタァ……!
「エル、からかいすぎだ」
「……ちぇっ」
「すまない、悪気はないんだ」
ずっと悪意しか感じなかったのですが?
でもティードの可愛さに免じて許してやろう。まあ、私も無断で腐った妄想しまくってるからね。すまない。いや、ほんとに。
「ほら、そろそろ帰るぞ。今日うちに泊まるんだろ?」
「あ、そうだった」
な、んだと?
私の見えないところでお泊まり愛だと?
なんてこった。シュエルドに捕まったときはクソイベント発生でふざけんなと思ったけど、これは最高のご褒美のフラグだったのね。ありがたや……。ナタリアにあとで報告しよう。ドン引きされるだろうけど。
「じゃあ、アリス……またな?」
「え? あ、はい」
「アリス……また、遊ぼうね?」
ティードの「また」に意識持っていかれたら不意打ちくらいました。チュ、と私の頬にショタが、ドSショタがキスを。
ふふっと笑う小悪魔に、私は顔を真っ赤にさせるしかなかった。
「なにしたんだ? 固まってたぞ」
「なーんにも。してないよ…………まだね」
ティードの腕に自分の腕を絡めて、シュエルドは楽しそうにほくそ笑んだ。
可愛いおもちゃ、みーつけた。
ふと思いついたふざけた話の第2弾。
楽しかったー。