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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第4章 帝国お家騒動編
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ep.96 もうひとつの世界

SIDE:第三夫人ルクレツィア


なんとか夢に誘うことが出来たみたいね。私の恩恵の特性で直接害することは出来ないけれど、それを含めてもお釣りが来るほどの能力だ。だって、この魔法で見る夢では記憶がどんどん薄れて、残るのは夢世界での記憶のみ。最終的には現実世界のことを全てを忘れてしまうんだから。


「ふふふ、こんな子供に幹部達や龍が止められたと思えないほど可愛い寝顔ね・・・。私の子も生きていれば、今頃これくらいだったのかしら・・・・・・」


それにしても、さっきこの子が言っていたことが気になるわね。早い内に準備をした方が良いかしら。


とりあえず、この子はここに寝かせておいて問題ないでしょう。こっちで1日経つ頃にはこの子の見ている世界では1年が経過しているはず。そこで夢から目覚めれば、ショックを受けて自ら死を選ぶでしょう。


「坊や、ごめんなさいね・・・。私の悲願のためには必須なの・・・。せめて夢の中で1年間、精一杯楽しんでちょうだいね・・・」


この夢では制限はあるものの自分に都合がいい夢を見ることが出来る。その人が望んでいれば世界征服だって不可能じゃ無い。・・・それこそ、死んだ人も蘇らせることだって。


「こんなところで私は止まれないの・・・ごめんね・・・」









SIDE:アウル



目の前にある巨大な赤い鉄塔に高層ビル、スーツを着こなして歩くサラリーマンたち。俺はこの景色をかつて何度も見たことがある。ここは間違いなく・・・


「・・・東京だ」


試しに頬をつねってみたけど痛い。・・・あれ、というか俺はなんでこんなところにいるんだ?たしか第三夫人に会いに行って、それで・・・


「あれ、そもそも第三夫人って誰だっけ・・・?」


「あっ、こんなところにいたの?探したんだから~!」


不意に聞き慣れた声のした方に顔を向けると、そこには俺の知っている女性が立っていた。


七海ななみ・・・?なんで東京にいるんだ?」


「はぁ~?何言ってんのよ。あんたが俺に付いてこいって言うから、東京に付いてきたんじゃない!札幌のJRタワーの展望台で夜景を見ながらプロポーズしたの、忘れたとは言わせないわよ~?それに今日だって、折角東京来たんだからデートしようって昨日決めたじゃないのよ~」


この女性は間違いなく俺の彼女(・・・・)本田七海ほんだななみだ。でも、七海とは遠恋になって・・・それが嫌で東京に連れてきたんだっけ?


なんか頭に霞がかかったような感じがして、よく思い出せない。でも七海が言うんだしそうなんだろう。彼女は俺にはもったいなくらいしっかりした女性だからな。


「ごめんごめん、ちょっと疲れてたのかも。とりあえずお腹も空いたし、お昼ご飯でも食べようか」


「も~、じゃあお昼は全部任せちゃおうっと!えへへ~」


「任せてくれ。じゃあ何食べようか。簡単なものならすぐ作るよ。材料も収納に入ってるし、パスタでも・・・」


あれ、収納ってなんだ?俺は今なにをしようとしていたんだ。こんなに周囲にお店があるのに作ろうとしていた・・・?


ふぅ~、落ち着け。きっと疲れてるんだ。


「何言ってるのよ。でもパスタは賛成!実はここら辺で美味しいパスタ屋さん調べておいたからそこに行きましょう!」


「流石は七海だな。ぬかりなく調べてるってわけね」


俺なんて全く調べていなかったからな。でも俺はなんでパスタを作ろうとしていたんだろう?料理は好きだけど、完全に自作しようとしていた気がする。それに竈を作ろうともしていたような・・・。なんか思考が原始的な生活に戻ったみたいだな。




「着いたよ!ここのイタリアン、すっごく評判いいんだって。パスタだけじゃなくてピザもイケるって口コミに書いてあったの!」


「確かに美味しそうだね。早速入ろうか」



おぉ・・・。外見もお洒落だったけど、中も洒落てるな。席同士も近すぎなくて俺好みだ。店員も可愛い子ばかりだし、美味しければ通っちゃいそうだ。


「あ!今店員の子達見て鼻の下伸ばしたでしょ~!目の前に可愛い彼女がいるってのに、まったくもう。男はこれだから――」


ふふふ、また始まった。七海のお説教タイムだ。なんだか懐かしくかんじてしまうのはなんでだろう。ここ10年以上聞いていなかったように感じる。


にしても、こんなに可愛い子が俺の彼女とは思えないほど可愛いな。黒髪ショートがよく似合ってて、顔立ちも綺麗系だからぱっと見ただけで美人だと分かる。それでいて服装や性格はお高くとまっていない。ちょっと勝ち気なところがあるけど、それがまたイイ。


「話聞いてる~?・・・あ、あそこの茶髪の店員さんに見とれてたんでしょ!あの店員さん可愛い上にセクシーだもんね~。ああいうのが好みなんだ?」


おっとと。考え事し過ぎたな。


「ばか、違うっつーの」


まぁ、確かにあの店員さんは可愛いと思うし、色気たっぷりで目を引かれる気もするけど・・・・・・。というか、あの店員さんどこかで見たことがある気がするんだけど、どこだっけ?


「なぁ七海、その店員さんだけどどこかで会ったことがないか?なんだか、知っている人のような気がするんだけど・・・」


「んー、私は知らないわねぇ。・・・もしかして、学校が一緒だったとか?いつかは分からないけど、雰囲気が似ているなら高校か大学とかじゃないかしら」


でもこんな不確かな根拠で聞くのは失礼だし今はデート中だ。



・・・やめとこ。


「おっ、このウニといくらのクリームパスタにしよう。あと、マルゲリータかな」


それにしてもウニといくらなんて久しく食べてないな。これで作ったパスタならみんなも喜んでたべるんだろうなぁ。・・・・・・みんな、って誰だよ。さっきから何かを忘れているような気がしているんだけど、なんだっけ?


「どれも美味しそうね。私は、うーん・・・これ!和風たらこパスタ!もちろん大盛りとスープ、デザート付きだからね?えへへ、ごちになりますっ!」



めっちゃ食うな?!まぁ、それは今に始まったことではないか。食べ放題行っても時間いっぱいギリギリまで食べ続けるような女だもんな。それなのにモデル体型を維持しているんだから、どれだけ燃費が悪いのかって話だ。


注文して待つこと15分くらいでパスタとスープとサラダが届いた。値段も高かったからか、ウニといくらがふんだんに使われていて、見た目で既に美味いのが分かる。


「「いただきまーす!」」


美味いっ!!ウニクリームってこんなに美味かったのか!これは高い金払ってでも食いたいと思える一品だ。付け合わせのサラダやスープも主張しすぎず、絶妙にパスタを際立たせてくれている。惜しむらくは、この残ったパスタソースにパンをつけて食べられないことだろう。


「この店を選んで正解だな。ありがとう七海」


「ふふっ、どういたしまして!ねぇ、パスタ半分こしようよ!」


なんかこういうのいいな。普通のカップルっぽくて新鮮だ。一緒にご飯を分け合ったり、なんてことないことで笑い合ったり。こういうことを幸せって呼ぶのかもな。


七海が言っていた通りここのピザも美味い!イタリア旅行に行って死ぬ前に食べたピザも最高に美味かったのを覚えている。今考えるとあれが俺の最後の食事・・・


ズキッ


痛っ・・・!頭が急に痛くなったけど、今は治まったな。あれ、俺ってイタリアに行ったことないぞ。なのになんでイタリアに行ってピザ食べたなんて思ったんだろ。しかも俺は死んだ・・・?


ズキズキッ


「・・・なぁ七海、俺ってイタリアに行ったことあったっけ?」


「私の知る限りだと行ってないんじゃないかしら?どうしたの急に。あっでも以前イタリア行きたいって言ってたわね。今度二人で計画して行ってみるのも楽しそう!本場のピザがどんなもんか食べてみたいもの!」


七海も知らないって事は俺はイタリアへはいっていない、ってことだろう。


・・・思い過ごしかな?


せっかく七海が東京に一緒に来てくれたんだし、あまり変なことを言って困らせるもんじゃないな。・・・ん?七海が東京にいるってことはつまり・・・


「そういえば七海、今更だけどお母さんは北海道に置いてきて大丈夫だったのか?確か病気で大変だって・・・」


「うん、でもあんたに着いて行きたかったから、お母さんには悪いけどこっち来ちゃった!それだけあんたのことが好きって事なのっ!恥ずかしいから言わせないでよね~」




!!




・・・ずっと何かが頭の中で引っかかっていたけれど、やっと合点がいった。


「なぁ、七海。俺がどうしてお前のことを好きになったか知ってるか?」


「何よ急に。でもそうね、やっぱり私が可愛いからかな?あとは気遣いの出来るしっかりした女性だからとか?」


いやまぁ、それもあるけどね?


「それもある。けど一番の理由は七海が優しい女性だったからだ。お父さんを早くに亡くして、女手1つで育ててくれたお母さんが重い病気になって、入院することになったときに君は泣き言1つ言わなかった。まだ大学生でまだまだ遊びたい盛りだというのにだ。俺は単純に凄いと思ったと同時にそんな君を支えてやりたいと思ったんだ」


・・・まぁ、それも俺が東京勤務になってしまったせいでかなり悩んだものだ。別れずに遠恋を続けるか、別れてお互いに新しい人生を歩むか。


「・・・」


七海は俺の話を優しい顔で見てくれている。その顔は全てを包み込むような優しさで溢れているように見えた。


「・・・君は、本当の七海じゃないんだろう?」




そう考えた途端に頭がすっきりしはじめた。今に比べてしまうと、さっきまでの自分の頭が全く機能していなかったのがわかる。・・・ここは、夢の世界なのだろう。夢を見ているときに、これが現実じゃないと気づくといきなり把握できる情報量が増えるアレだ。確か明晰夢とかいうやつだろう。


今の俺はまさにそれだと思う。


「ふふふ、さすがだね。あなたをここに留まらせることが私の役目だったの。私はあなたの記憶を元に作られた存在なの。だから私は七海であって七海じゃないの。・・・ごめんね」


「いや、もしそうだとしても楽しかったよ。ありがとう」


「いえいえ、どういたしまして!・・・あっ、ここもあなたが夢だと気づいちゃったから不安定になってきたよ。たぶんあともって3日だと思う」


あと数日か・・・。外の世界と時間の流れ方が一緒だとすると、まずいな。


「あ、その顔は時間の流れについて心配してる顔ね?私にはお見通しなんだからっ!でも心配しなくて大丈夫、ここでの1年は現実世界での1日だから」


・・・それなんて時の部屋だよ。でもあと3日ここで過ごしたとしても現実世界では約4分程度しか過ぎたことにならない。


「あと数日だけだけど、俺の傍にいてくれないか?」


本当は七海とは別れたくなかった。けれど七海は北海道を離れるわけにいかなかったし、傍にいてやれない俺なんかが彼女を縛るのは良くないと思い別れたのだ。


「ふふ、いいわよ。たくさんデートしましょう?」


本当にいい女だ。こんな女性に出会えた前世も案外悪いものじゃ無かったな・・・。


「今の七海に聞いても無意味かもしれないけど、1つ聞かせてくれ。・・・俺はお前と別れたのは正解だったか?」


これはずっと気になっていたことだ。転生したことでこのことについて悩むことは無かったけど、聞けるのなら聞いてみたかった。


「真面目な話をすると、別に正解かどうかなんて私には分からないわ。けれど、あなたの記憶にいる私はいつも生き生きとしてる。遠恋になってお互い辛いだろうし、そのせいで私を苦しめないようにって考えたんだろうけど、それもあなたの優しさだと思うわ。それに二人で悩んで決めた結果なんだから自信を持って?別れたとしても一緒にいて楽しかった時間が無くなるわけじゃないでしょ?」


正解かどうかなんてわからない、か。たしかにそうだな。それに七海と一緒にいたらずっと楽しかったからな。本物の七海も今頃は幸せに生きているだろうか?いや、幸せになっていてほしいな。


「ありがとう。なんだか心が軽くなったよ」


「それはよかった。じゃあ残りのデートを楽しみましょう?」




・・・そうだな!楽しむとするか!




※※※




「もう少しでこの夢世界も崩れるわよ」


「分かってる。この3日間本当に楽しかった。ありがとう」


「ふふふ、私もよ。あなたにもう一度会えて良かった」



この3日間で映画や遊園地やテーマパーク、超高級レストラン、ドライブなど思いつくデートをやりつくした。こう言っては変だけど、この点に関してだけは第三夫人に感謝しないといけないかもな。


七海にも会えたし久しぶりに東京を楽しめた。北海道には行けなかったけど、色々なものを食べることが出来た。新たに作りたい料理も考えついたし得るものはあった。


地球での俺はここまでだ。起きたら俺はまたアウルに戻る。第三夫人を捕まえて色々と話を聞かなければいけない。


「あっ、言い忘れてた。この魔法の発動主のことはあまり責めないであげて?本当は優しい人なの。今は色々あってちょっと歪んじゃっているけど、できるなら話を聞いてあげて欲しいの。あなたならそれが出来ると信じているわよ。いい?極力女性を泣かせては駄目だからね!泣かせて良いのは嬉しいときだけなんだからっ!」


「・・・っは~、七海には敵わんな。分かった、とりあえず話を聞いてみようと思う」


「うんっ!ありがとう、ばいばい!」



※※※


うぅん・・・


ここは・・・第三夫人の部屋、か。ベッドに寝かされているようだな。第三夫人はっと。・・・お、まだ部屋にいるな。


「おはようございます、夫人」


「――?!」


かなり驚いているみたいだな。そりゃそうか、本来1日は丸々寝ているはずなんだから。しかしひとまず第三夫人の話を聞いてみるか。それが七海との約束だからな。



「楽しい夢をありがとうございました。・・・聞かせてください、皇族を操って何をしようと考えているんですか?」


ただ聞くだけでは喋ってくれるとは思えないので、威圧を発動しながら聞いている。これでしっかりと話してくれればいいのだが・・・


「くっ・・・。まさか夢から覚める人間がいるとは・・・。坊やはかなり特殊なようね。まるで神に愛されていると言ってもおかしくないくらい」


勘が良いな・・・。愛されているかどうかは分からないけど、特殊なのは間違いないだろう。


「全て話してくれますね?」


「・・・私を捕まえずに話を聞こうだなんて変わった坊やね。でも不思議と信用できる気もする」



第三夫人は消え入るような声で説明し始めた。



ゆっくりと更新していきます。

評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。



皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1日が約4分だと思います。だから3日過ごせば約12分じゃないでしょうか。
[一言] 夢って覚えてられるのか、起きたらほとんど忘れてる自分としては 見た事自体覚えて無いからどんな夢だったけ?って事まで色々だから 夢から覚めたから自殺なんて選択肢何であるの?ってレベル
[一言] 「あまり責めないで」って言われても、暗殺者向けたのが、この人じゃなければだね。
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