ep.95 異変
短くてごめんなさい…。
第三夫人は独特な雰囲気を持った人だと思う。たくさん話したわけではないけど、あれは確かに人を魅了する力を持っていると思う。
・・・敢えて『なにが』とは言わないが。
これは俺の見立てだが、長男はもともと野心を持っていたのだろうが、行動に移すほど現実の見えていない男ではないように思える。
それに他の兄姉たちも本当はもっと分かり合えるような器量を持っていてもおかしくない気がするのだ。あの件以来会っていないが、現状はどうなのだろうか?
セイクリッドヒールをかけて出たあの黒いもやには見覚えがある。十中八九、邪神教の呪いかそれに準じる何かだろう。もしあれが人を操るタイプか洗脳するタイプのものだったらあの事件自体すべて仕組まれている可能性がある。
・・・確か長男は部屋に軟禁されているはずだったな。もし洗脳されていたとすれば、解呪した今なら普通に話すこともできる、か?
ものは試しだな。第三夫人のところに行く前に実際に話を聞きに行ってみるとしよう。
まずは次男のイルワマターのところに行くとするか。
コンコンコン
「アウルです。イルワマター様と少し話がしたいんですけど、今お時間大丈夫ですか?」
「・・・・・・どうぞ」
元気が無いな。元気の塊というか、わりかしパワフルな人だと思っていたけど流石に堪えているのかもしれないな。
「失礼します、あれからどうですか?特に体調とかに変化はないですか?」
「あ、あぁ。特になんともないよ」
あれ、思ったよりも元気そうだ。でもなんかどこかよそよそしいように思えるのは気のせいか?
「それはなによりです。皇帝陛下も今は回復されてもう少しで日常生活に戻れるくらいには元気になるそうですよ」
「えっ?!親父倒れたのか?!」
ん?何を言っているんだ?倒れたも何も、毒を飲まされてその謎解きにも付き合ってもらったじゃないか。もしかして、いろんなショックが重なりすぎて記憶の混乱でも起こっているとか?
「・・・失礼ですが、私のことはわかりますでしょうか?」
「申し訳ない、俺はあまり物覚えが良くなくて、思い出せないんだ。・・・どこかで会ったことがあったかな?」
えっ…?
この人は何を言っているんだ?あれだけのことを全て覚えていないということか?
「…もしかして、記憶がないんですか?」
「いや、記憶はあるけどここ最近のことを全く思い出せないんだ。まるで夢を見ていたというか、頭に霞がかかっていたよう感じだ」
待て待て…。ということはどういうことだ。急いで頭を働かせろ。
イルワマターが嘘をついている可能性も少なからずあるが、この困惑した顔を見る限りそれもないだろう。
ということは、あの晩餐会でイルワマターは完全に操られていたもしくは洗脳されていた可能性が高い。
それに、ここ最近と言っていたから晩餐会のときだけいうわけでもないのだろう。
…じゃあ他の人は?
「イルワマター様はまだ記憶が混乱されているご様子、また時間を見てお邪魔致します」
「ごめんね、なんとか思い出せるように頑張ってみるよ」
※※※
―――やられた。
アリスティアもジーニウスさえも記憶を無くしていた。あれだけのことがあったのに、誰一人として晩餐会を覚えている奴がいなかった。
これは俺が解呪した弊害なのか、はたまたそれ以外の要因によるものなのかは判断に困るところだが、どっちにしろ今やれることは一つだ。
「第三夫人に会いに行くとしよう」
もうこの人が何かしらを知っているのは間違いないだろう。分かりやすいほどに証言も出ていることだしな。
コンコンコン
「アウルです。体調が優れないとお聞きしましたので、及ばずながら治療できればと思い来ました」
「あらあら、ふふ。どうぞ」
あれ、思ったよりも声色は元気そのものだ。喋り方もかなり普通な気がする。
「失礼します。……思っていたより元気そうですね。というか、ちゃんとした服を着てください!」
第三夫人は服を着ておらず、下着にスケスケのベビードールのようなものを着ているだけだった。
彼女の特徴が際立って見えるのは、かなり目に毒だ。
あんなもの、見てくれと言っているようなものだろう。
「あらあら、本当におませさんね。あの時も私のことをじっくり観察していたのかしら?」
…やはりバレていたか。でもバレないように細心の注意を払ったにも関わらずバレたとなると。この人は相当な使い手ということになる。
そんな風には見えないけど、人は見かけによらないのだな。
「気づいておられたのですね…。興味本位というか初めてくる城に興奮してしまいまして」
「普通なら罰せられてもおかしくないのだけれど皇帝を助けていただいたのだし、特別に許すとしましょう」
よくいうぜ。
「単刀直入に聞きますが、あなたは何者ですか?」
「……質問の意味が分からないわね。私は第三夫人よ?」
表情が変わったな。ただ、これ以上野放しにして厄介なことになっても意味がない。早々に終わらせてルナとデートしてやらなければ。
「では質問を変えますね。あなたは邪神教の人間ですね?それで、皇族に洗脳に類する呪いをかけた。さらには邪魔になる俺たちを殺すために闇ギルドに依頼を出した。…仲が悪いはずの闇ギルドを利用するとは、闇ギルドも思ってもみなかっただろう」
「…ふふふ、なんのことかしら。でも、あなたをこれ以上自由にさせるのも面倒ね。もう少し遊んでいたかったけど、私の悲願のためにもここで死になさい」
くそっ!結局こうなるのかよ!こんな美人に殺されるなら男として本望だが、生憎俺には待ってくれている人達がいるからな。
「障壁展開!」
これでどんな攻撃も防げる!
……あれ、これフラグ立てちゃったか?
「ふふふ、私の攻撃は防げないわよ。おやすみなさい。坊や」
『夢魔法 もうひとつの世界』
やっぱりフラグだった…か…!
「んんん…。あれ、俺確か第三夫人と戦おうとして…どうしたんだっけ?」
周囲に目をやると見知った光景が広がっていた。赤い大きな鉄塔に高いビル。
目の前を通り過ぎていくたくさんの人々。
ここは…
「…東京?」
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