ep.94 情報共有
正直かなり油断していたと思う。お香のせいで理性が吹っ飛んでいたとはいえ、さっきのあれは本当に汚点だった。ちょっと今までに無いアプローチだったということと、スパイ映画みたいで楽しそうと思ってしまった俺の好奇心のせいだ。
そういうことにしておこう。うん、俺の精神衛生上それがいい。反省はしているが後悔はしていない!・・・いや、後悔しているな。あいつ男だったし。なんか慣れ親しんだブツがあったし。
きっと詳細な情報はヨミが吐き出させてくれるだろうから、俺はそれを待っていればいい。ヨミだったら間違いないしね。・・・え、間違いないよね?間違って○したりしないよね?!頼むよヨミ!
ひとまず俺は城へ帰るとするか。
「お帰りなさいませご主人様、何か分かりましたか?」
「ただいまルナ。・・・えーっと、闇ギルドの依頼を受けたであろう輩を1人捕まえたよ。今はヨミが情報を聞き出しているところだよ」
うん、嘘は言ってないよな。
「わぁ!さすがはアウル様ですね!!こんな短時間で手がかりを掴むだなんて!」
言えない・・・。俺がお香にやられて男とラブホテルに入ったなんて言えないよ!見てよこのルナの俺を見る目。まじで尊敬している目だし、凄くキラッキラしてやがんのよ。
・・・うぅ、俺の中で罪悪感が暴れ回ってやがる。今度デートするときに精一杯罪滅ぼしするとしよう。
「いや、うん。まぁね・・・」
「?」
本当にごめんなルナ。
それにしても闇ギルドのやつらのやり方は本当に汚いな。武力ではなくこんな手で俺に近寄ってくるとはさすがに想定外だ。
でも今になって考えると、ただ殺すだけなら戦う必要もないもんな。確かに暗殺とは本来こういうものなのかもしれない。
「きっと明日にはヨミが内容を聞かせてくれるだろうから、今日のところは寝るとしよう。ルナも今日のところは休んでくれ」
「わかりました。夜番はディンに任せておきますね。ただ、私は明日ヨミと交代なので、朝方には城を出ますから、そのときは皇女をお願いします」
「あぁわかった。じゃあおやすみ」
気になる点はあるけど、今悩んでも仕方ないしとりあえずは留意しておくだけにしておこう。
おやすみ・・・
『――ウル・・・、お・・・・・・い気・・・・・・て!その・・・は・・・・・・なの!』
!!
「誰?!・・・・・・・・・・・・夢、か・・・?しかし、またよく分からない夢を見てたな」
というか昨日も同じような夢を見ていたような気がする。
・・・もしかしてこれって意味があるのか?それこそ正夢みたいな。それに、喋っている人の声も聞いたことがあるような声だった気がするんだけど、途切れ途切れすぎていまいち思い出せない。
たかが夢だし、気にする必要なんて全くない気がするんだけど、何故か頭から離れない。ここまで出かかっている気がするんだけど、なんか歯痒い。
コンコンコン
「アウル様、ヨミです。ふふふ、"昨日の件"についてご報告に来ました」
くそぅ・・・。わざわざ『昨日の件』を強調しなくてもいいのに。
「入って良いよ~」
「失礼します。・・・あら、寝起きだったんですね。うふふ、お着替えをお手伝いしましょうか?」
「いや、一人で着替えられるよっ!それで、早速だけど昨日の奴からなにか分かった?」
そうそう、やっぱり本物のヨミは余裕というか色気が違うな。偽物もいい線いっていた気がしてたけど、こうして比べてみると段違いだ。
「はい、かなり有力な情報かと思われます」
流石はヨミだ。じゃあ朝ご飯でも食べながら聞くとするか。・・・とその前に朝の身支度を忘れてた。あと皇女の傍にいた方がいいだろう。
「じゃあ準備したら公務をしている皇女の部屋の近くで話を聞かせて貰うよ」
「ふふ、分かりました。・・・私も朝ご飯食べても良いですか?」
「あはは、もちろんだよ。一緒に食べようか!ついでだし、皇女も誘って情報交換しておこう」
「・・・・・・そうですね。わかりました・・・」
あれ、少し落ち込んじゃった・・・。2人で朝食を食べたかったのかな?なんか悪いこと言ったかも知れない。
「やっぱり先に2人でご飯食べて情報共有をしたうえで皇女のところにいこうか。皇女とは食後のお茶でも飲みながら話そう」
「うふふっ、はい!」
女心ってのは難しいなぁ・・・。
さて、歯も磨いたし顔も洗った。あとは朝ご飯を作るだけだけど何を作ろう。
「・・・・・・というか、そんなに見られるとやりにくいんですけど」
『いえ、我々のことは気にせずに料理して下さい!』
朝食を作るべく城の調理場を借りているのだが、俺の料理が美味いとヒルナードやロイエンが喧伝しているらしく、料理人たち6人が興味津々なのだ。
アリスのところの料理人たちはプライドが高くて大変だったけど、ここの料理人達は違う。プライドはあるんだろうけど、その方向性は全く違うのだ。
より美味しい料理を作らんとするために、好奇心旺盛なのである。ここの料理は元々美味しいと思うし不満は無いのだが、やっぱり自分の料理が食べたい。
ちなみに今日作るのは『エッグベネディクト風、オニオンスープ、燻製ソーセージ、サラダ』だ。酢の代わりにビネガーを使うけど問題ないだろう。
ポーチドエッグを作るところで料理人達の『おおっ!!』と言う声が上がったが、完全に無視だ。仕上げにバターと卵黄を使ったオランデーズソースをかければ完成だ。イングリッシュマフィンの代わりに普通のパンで代用している。
「よし、完成かな。・・・・・・みなさんの分も作っておいたので、よければどうぞ」
『ありがとうございます!』
うーむ、なんか信者を作っている気分になってきたな。でも美味しいものはみんなで食べた方が幸せだ。いずれは田舎で、農家が営む隠れた名店料理屋さんってのも面白いな。使う食材は自分で育てた野菜をメインに、狩ってきたジビエや魔物肉を使う。
あれ、これかなり楽しそうじゃない?ちょっと本気で検討するのもアリかも。
席は個室が1つとカウンターのみとかにしたら、お客さんとも喋れるしカフェのマスターみたいで面白そうだ。そんで夜は自作ワインとかの酒類を飲ませるバー的なのも面白いかな。
ん?料理人達に混じって見覚えのある女性がいる。・・・明らかに思い出したくない人だ。
「・・・そこでなにしてるの?」
「会おうと思ってもなぜか会えなかったから来ちゃった。そしたら美味しそうな朝食があったから、我慢できなくって・・・」
料理人達6人分しか余分に作ってないからカミーユの分は無い。しかし、料理人達からしたらカミーユは雲の上の人だ、結果的に一番若い男の料理人が泣く泣く食事を献上していた。・・・不憫だな。
仕方ない・・・。こうなったのも悪くはないにしろ原因の一部は俺だ。
「はぁ、これをどうぞ」
『いいんですか!?しかしアウル様の分は・・・』
「俺は大丈夫ですから。ではこれで」
カミーユが料理に釘付けになっている間に退散するとしよう。これは関われば関わるほどドツボにはまるだけだろうからな。
「ただいまヨミ。遅くなってごめんね」
「いえ、何も問題ありません」
お、どうやら本を読んでいたようだ。・・・なんとなく背表紙に『人の飼い方』って書いてあった気がしたけど、俺の見間違いだよね。いや、こんなに可愛いヨミがそんな物騒な本を読んでいるわけないからな。きっと『犬の飼い方』の見間違いだろう。
・・・ヨミが犬を飼うって考えると、なぜか変な風に変換されるのは何故だ。純粋に犬を飼うって勝手に脳内変換してしまう。ごめんヨミ。
さっき作った朝食はヨミにあげて、俺は事前に作って収納しておいた肉串で我慢だ。
「さて、料理を食べながらで悪いけど早速教えて貰ってもいいかな?」
「はい、まず闇ギルドについてですが、あまり詳しいことは分かりませんでした。分かったことと言えば、闇ギルドのトップの右腕が『ベリアス』と呼ばれていることくらいです。不思議な名前ですよね」
ベリアス・・・と言われてぱっと思いつくのは悪魔ベリアスだろうか。この世界では地球にいたころの神と同じ名前が使われていることがよくある。
とすると悪魔やそれに類するものも同様と考えて良いかもしれない。たしかベリアスは階級的には悪魔の中でも一番下の第三階級だったはず。それが右腕と言うことはそれの上は第二階級もしくは第一階級だ。
まさかサタンやベルゼブブなんていう魔王は出てこないよな・・・?いや、爺さんが言っていたけど勇者がいるんだから魔王がいても不思議は無い。まぁ、今回については関係ないだろうけど。
「闇ギルドというのは本当に謎が多いんだな。して、依頼者についてはなにかわかった?」
「それについてですが、知り得た情報はやはり『泣きぼくろのある美女』ということでした」
またか・・・。これはいよいよ第三夫人に話を聞く必要があるかもしれないな。でもやっぱりおかしい気もする。
「・・・わかった。俺の方でも少し調べてみる。ヨミもいるしディンが皇女の周囲を常に警戒しているから、城にいる限りはよっぽどのことが無い限り安全だと思うけど、注意だけはしておいてくれ」
「かしこまりました」
さて、あとは皇女と情報共有をしておくとしよう。
「――ってことがあったから、一応報告しておく。こっちも注意するけどリリーも十分注意してくれ」
「そんなことが・・・。でも無事で良かったです。はい、肝に銘じておきます」
「それで、第三夫人についてだけど」
「第三夫人は今も部屋に篭もって出てこないそうです。未だに体調が優れないんだとか」
体調、ね。治療を口実に会ってみるとしよう。
色々と忙しい状況ですが、なんとか更新できたらと考えています。
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