ep.90 闇ギルド
「お前らの罪を数えろ!!」
完全に決まった。俺の大好きだった某ライダーの決め台詞の1つである。
「何言ってんだてめぇ!」
「ガキのくせに調子乗んな!」
「生きて帰れると思うなよ!」
・・・まぁ、異世界でこんなこと言っても理解されないか。今もこいつらはやいややいや言っているけど、元からこんなに腐った人間だったのだろうか?
いや、それは今考えることではないな。とにかくさっさと捕まえてしまおう。奥にいるやつらに逃げられてもつまらんしな。
「迸れ稲妻、地を這い彼の者らの自由を奪え、雷獣"サンダーサーペント"!!」
数十匹の雷蛇が悪人達に巻きつき、自由を奪っていく。攻撃してもこいつらは雷でできているため、感電するという結果になる。巻きつかれても感電するし、攻撃しても感電するのでかなり悪質な魔法だと思う。
我ながらこの魔法を作ったのは天才だと思う。要領も分かってきたし、そろそろ新しい魔法も想像して創造してみようかな。
「なんだこれ!んぎゃああああ!!」
「あぁ?!わぁぁぁぁ!」
「や、やめてくれぇぇぇ!」
「もう悪いことはしねぇから!!!」
「許してくれぇぇ!!」
なんでだろう。悪人はあいつらなのに、俺が悪いみたいじゃん。なんか釈然としないな。捕らわれてた女性達も、なぜか俺を見る目に畏怖が宿っている気がする。
あぁ、そうか。俺が敵なのか味方なのかまだ分からないのか。余計ヤバい奴に捕まるかもって考えたら不安になるのも仕方ない。
「遅ればせながら、助けに来ました。もう安心してください。俺の仲間が今来ますから」
中にはほぼ全裸の人もいるので、あまり見ないようにしながら毛布を手渡す。奴らの液で汚れている人が多数なので清浄をかけておいた。
奥の奴らは俺の存在に気づいて完全に備えてやがるな。幸いなことに、ここが地下だったから逃げ道を用意されていなかったらしく逃げていない。
まぁ、その結果として完全に迎撃準備されているわけだが・・・。ぶっちゃけ準備しているとわかっているならやりようはいくらでもある。
そろそろ2人が来る頃だろうし、ここは2人に任せておこう。きっとこの状況を見ればある程度把握できるだろう。
「じゃあ俺は今から奥にいるやつらを捕まえに行くから、後で来る仲間の指示に従ってください。来る仲間は女2人だから安心してくださいね」
「あ、あの・・・」
「えっと、ありがとうございます・・・?」
まだ男性を信じられないというか、俺の存在を信用し切れていない感じだろうか。いずれにせよ、彼女たちはいま精神的にしんどいだろうし、無事に落ち着いてくれると良いけど。
ヨミもルナも面倒見が良いから、心配ないだろう。
よし、ではいくか。待機呪文、感覚強化、身体強化、『待機 水牢×5』
「頼もーーーう!!!」
もちろんありきたりに扉ではなく、扉から4mほど隣の薄くなっている壁をぶち抜いて侵入してやった。扉の前には数人武器を構えて立っているが、突如ぶち抜かれた壁を見てぽかんとしている。
その隙を見逃すような俺ではない。即座に待機させていた水牢を発動して相手を捉えた。武器を持っていたとしても関係ないし、水の中なので魔法の詠唱も出来ないから対人技としては最高だろう。
「がぼっ・・・がぼぼぼぼ!」
「げほっおぼぼぼぼ」
「がぼっ・・・・・」
「がぼっがぼっ」
「あ・・・・・」
・・・呼吸が出来なくて溺れてしまうのが難点だな。
「解除!」
溺れて気絶寸前なので、今のうちにということで武器は全て回収した。服装的にボスであろう奴以外はロープで縛って気絶させておいた。
「おい、お前らが夕方に俺らを襲ってきたのはなんでだ?」
「な、なんの話だ?!」
まぁ、とりあえずはシラをきるわな。だけどそれで俺が納得するわけねぇだろが。
「シラをきるのは良いけど、一回嘘をつくたびにお前の指が飛ぶぞ?もちろん、全部無くなったら生やしてやるぞ?こんな風に」
「ぎゃああああ!!」
ボスの隣で苦しそうにしていた下っ端の指を切り落として回復させてやった。
「もう一度聞くけど、なんで俺たちを襲ってこさせたんだ?」
「・・・わかった!話すから止めてくれ!」
「早く言え」
「・・・闇ギルドから依頼が出たんだ。お前らを殺せば一人当り白金貨100枚という報酬が出るんだ。そのせいで今頃帝都中の裏の人間がお前らを探しているはずだ」
『闇ギルド』初めて聞く単語だな。しかも一人当り白金貨100枚とはかなり破格だ。それだけの報酬がでているとなると、依頼主は相当な金持ちということだろう。
「それで、対象となっているのは誰なんだ?」
「・・・お前とその仲間の2人と第三皇女の、計4人が対象となっている」
しかも俺たちだけでなく、リリーまでもがその対象になっていたとは。ということはそれなりの金を持っていて、かつ俺たちの事を正確に知っている人が犯人であるということだ。
「闇ギルドについてもう少し詳しく教えてくれ」
ボスらしき人から聞いた闇ギルドについては以下のような感じだ。
・帝国を裏で牛耳る一大組織である
・組織が巨大すぎて貴族も手が出せないでいる
・というか、貴族も利用することが多い
・暗殺稼業以外にも諜報や工作活動もやっている
というような感じらしい。いかにもよくある裏稼業の胴元が闇ギルドということだろう。その闇ギルドがそれなりに本腰入れて俺たちを襲ってこようとしているのだ。
「お、俺たちはもうあんた達から手を引く!もう悪事からも足を洗うから、今日のところは見逃してくれ!!」
「・・・それが本当なら見逃してもいいが、1つ聞こう。あっちの部屋で囚われて嬲られていた女性達はどうしたんだ?」
「あ、あいつらが気に入ったんなら全員連れてって貰ってかまわないぞ!?」
やはり、こいつらは救えない。
「そうか、では全員連れて行く。お前らも寝ておけ。迸れ稲妻、地を這い彼の者らの自由を奪え、雷獣"サンダーサーペント"」
これでとりあえず全員捕らえ終えたな。・・・お、2人もちょうど到着したみたいだ。
「ご主人様!遅くなりました!」
「うふふ、アウル様はどこにいっても正義の味方ですね」
「いや、そんなつもりは無いんだけどね。この娘達はこいつらに攫われた娘達や奴隷にされた娘達だ。精神的にも肉体的にもボロボロだろうから、そのケアを頼む」
「「かしこまりました」」
2人に詳しい話はしていなかったのに、ある程度の準備はしてくれていたみたいだ。本当に優秀で俺の立つ瀬がないな。これで2人のおかげで服の問題も解決だ。
「じゃあ俺はなにか食べるもの作るから待ってて」
かなり疲弊しているけど、まずは美味い飯だろう。まともにご飯も食べさせて貰ってないはずだし、ここは俺が腕によりをかけて消化によくて、力の出るものを作るとしよう。
献立は、麦飯の卵粥、サンダーイーグルの香草焼き、野菜とベーコンのゴロゴロポトフ、アプルジュースの4品だ。いきなりたくさんは食べられないだろうし、揚げ物も厳しいだろう。
となると、スタミナの付く卵と鶏肉、あとは温まるポトフとビタミンの取れるフルーツジュースだ。
ちなみに、お粥に隠し味で味噌を溶かしているから、まったりとしたコクのあるお粥に仕上がっている。さらに香草焼きも丁寧に下味をつけてあるから、さっぱりと食べられる。ポトフもホロホロになるまで煮込んであるから、野菜にベーコンの旨味が染みこんで最高の出来だ。
調理道具はもともと用意していたし、食材もたらふく持っていてよかったな。
「さぁ、できたよって、うわぁ?!」
振り向くと、みんなが口から涎を垂らして待っていたのだ。いや、確かにいい匂いしていたかも知れないけど!そこまでお腹空いていたとは思わなかった。
「お腹いっぱい食べてくれ!」
俺のかけ声とともに一斉に食べ始める娘達。ちゃっかりルナとヨミも食べているけど、お腹でも空いたのかな?
今更この娘達を見てみたけど、みんな美人揃いだ。全部で5人だけど、よくもまぁここまでハイレベルな娘を用意したものだ。まぁ、顔や体で判断して攫われてきたのだろうけど。
それにしても、この娘達に帰る場所はあるのだろうか?
「食べながらで良いので聞いて欲しい。答えにくかったら答えなくても良いが、君たちに帰る場所や帰りを待つ人はいるかい?」
俺の問いに誰も声を上げて答える人はいなかったが、表情や視線からおおよその判断は出来た。全員家族やそれに準ずる人たちはいないのだろう。
下手したら村ごと無いなどもあり得るのかも知れない。にしてもこれはどうしたものか。さすがにこれだけの人数を抱え込むのは難しいし・・・。
「アウル様、この子達については私とルナに任せて貰えないでしょうか?」
「え、2人に?」
「はい、私たちに少し考えがありますので。決してアウル様に迷惑になるようには致しませんので、どうかよろしくお願いします!」
・・・ヨミは確かもともとスラム街出身だったな。こんな境遇の娘達が放っておけないのかも知れない。ここは2人に任せてみるとしよう。出生が不明なこの娘達をどうにかしたところで、帝国からなにか言われることもないだろうしね。
「わかった。この娘達については2人に任せるよ。あまり皇女の傍を離れるわけにもいかないし、とりあえずここはアルフに任せて俺は城へ戻るよ。出てきてアルフ」
「お呼びですかな主様」
アルフは頭もいいし知識も凄い。とりあえず任せても問題ないだろう。
「2人の相談に乗ってあげて欲しいんだ。俺は城へ戻るからよろしく頼むね」
「かしこまりました。私にお任せ下さい」
よし、これでとりあえずは問題ないだろう。それにしても闇ギルドか。かなり厄介そうなやつがちょっかいを出してきたな。
俺達と皇女を狙っているのが誰か分からないが、早めに闇ギルドを突き止めて、依頼主を探し出した方がいいだろうな。同時に皇女も護衛しないといけないし。
・・・ちょっと人手が足りない、か。
今はディンが護衛してくれているけど、ディンの力にも限度はある。とりあえず今回の出来事を皇女に相談してみてからだな。
何か心当たりや情報を知っている可能性もある。いずれにせよ、今後さらに事件が起きるのは間違いないというのは確定だろう。
俺の知らない貴族勢力か、はたまた第三夫人か、まさかの他の兄姉たちか。判断は付かないがこれを明らかにしないと皇女を守るのは難しいな。
「あぁ、俺ってなんでこんなに貧乏くじ引くんだろう・・・」
今後もゆっくりと更新します。評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
私事ですが、ちょっと最近バタバタしてて長文を書く時間が取れないでいます…。3日おきにはなんとか投稿する予定ですが、文字数が減る可能性があります。ご容赦ください。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




