ep.88 帝都観光デート
リリーが言うには、皇帝陛下と第一夫人は既に起きており、かなり落ち着いているらしい。俺のかけた回復魔法のおかげもあって、もう心配は無いそうだ。
ただ、体力の低下は否めないそうで、数日の療養は必要らしい。でも、快復に向かっているそうなので本当に良かった。
ジーニウスについては部屋に軟禁してあるらしい。魔法も使えないように、特殊な魔道具で封じてあるそうだからとりあえずは心配ないだろう。
皇帝陛下と第一夫人が元気になったら処遇を決めてくれるだろう。まぁ、今は部屋の中で糸が切れたように落ち込んでいるらしいし、変な気は起こさないはずだ。
あと気がかりだった第三夫人だが、体調が優れないという事で、部屋で休んでいると聞いた。
要注意人物であったがこれはある意味で好都合だな。本来なら、皇帝陛下や第一夫人のお見舞いに行きそうなもんだけど、皇族ってのはそういうことはしない物なのかな?
「ご主人様、今日はどうなさいますか?」
「うふふ、皇女様も皇帝陛下の代わりに忙しそうにしていますが、国家機密の書類等を見るわけにもいきませんし、どうしましょうか」
そうなのだ。護衛と言ってもあんな事件があった後だから、何かが起こる可能性も低い。
とはいっても護衛無しというのも忍びない。
ディンは近くに配置させるとしても、もう一人くらいは護衛がいたほうがいいだろう。
シュガールだと目立ちすぎるし、ここは公平にじゃんけんかな。
「ディンを護衛に配置するとして、あと一人くらいは皇女の傍にいたほうがいいと思う。ということで、公平にじゃんけんで決めようか」
「負けた人から順番に護衛をするということですね?」
「ということは、いずれアウル様とデートが出来るということですね」
まぁ、そうなるのか。誰かが護衛している間は帝都を観光できるわけだしな。
「なら今日は私が皇女様の護衛をしておきます。ですから、ご主人様とヨミは観光してくださっていいですよ」
「ルナはそれでいいの?」
「はい。ヨミには先の件で迷惑をたくさんかけてしまいましたから」
「うふふ、ありがとうルナ。なにかお土産を買ってくるわね」
ということで今日はヨミとの帝都観光デートとなったわけだ。
お金はたくさん持ってきているし、実家や村の皆にもお土産を買っていこう。
あとはヨミに服とかいろいろ買ってあげるとするか。日頃の感謝も込めてね。
「じゃあ行ってくるけど、護衛は頼んだよ。ディンもお願いね」
「はい、是非楽しんできてください」
『お任せくださいマスター』
2人に任せておけば問題ないだろう。初めての帝都観光だ!
「ではアウル様、着替えて城門前集合と言うことでいいですか?」
「そうだね、準備が出来次第、下で待っているよ」
女の子には準備の時間も必要だろうからね。
俺は着替えて軽く髪を整えるだけなので、準備はすぐに終わった。
ヨミが準備している間にリリーに一言だけ挨拶してから、帝城をあとにした。
城の庭で魔力鍛錬をしていると、ヨミの気配が城から降りてきたので、城門前に移動することにした。
「お待たせ、"アウル"」
準備をしてきたヨミは、いつもの雰囲気とは一味違った。
なんというかいつもの色気が、大人の色気へと進化している気がする。
なにより、服装が凄い。露出は一切していないのに色気を感じてしまうのだ。
「アウル?」
極めつきは、名前の呼び方だろう。いつもは『アウル様』と呼んでくれているのに、今は『アウル』と呼んでくれる。
これはもうギャップと言うやつでしょうか?ヨミはデートだから、呼び方を変えているのだろうけど、これは堪りませんな。
「その服装も可愛いね。良く似合ってるよ」
季節が冬ということもあり、コートを羽織っているが、首元のファーがまた可愛い。
さらに、ヨミの全身を包むややタイトなニットワンピースの破壊力が半端じゃない。
しかも、そのニットワンピースはフレンチタートルネックで俺の好みど真ん中である。
※※※
解説ちゃん『ちなみにフレンチタートルネックとは、普通のタートルネックより首回りがゆったりしていて、前のほうに垂れているやつだよ!』
※※※
「うふふ、嬉しいです。アウルの好みだと思いました。では行きましょうか」
今日のヨミさん、いつもの5割増しで可愛いです!!
「って、城を出たのは良いけど、帝都のことなんにも知らないや」
「ふふ、そうだと思って事前に情報を集めておきました。ちょうどあちらで『冬の蚤の市』が開催されているらしいので、行ってみませんか?」
!!さすがヨミ、できる子だ。
「面白そうだね。行ってみようか」
蚤の市っていったらいろんな掘り出し物がありそうだ。2人がくれた『伝声の指輪』みたいなものがあったらぜひ買おう。
念話みたいな魔法がないから、魔道具に頼るしかない。
歩くこと20分程度で蚤の市へと着いたけど・・・
「凄い人と店の数だね。これ全部見ようと思ったら今日だけじゃ見切れそうにないな」
まるで人の海と表現しても言い過ぎではないくらいに、活気が凄い。
会場の一番奥が見えないほどに店がある。これだけの露店が集まるのも面白いものだな。
「気になったところだけ見ましょう?」
「そうだね。なにか面白そうなものがあったらたどんどん買っていこうか」
「ふふ、楽しそうですね!」
ヨミの提案通り面白そうな店だけを見ているけど、如何せん人が多くてはぐれそうになってしまう。
これは手を繋いでおいたほうがいいかもな。
ぎゅ
「あっ…」
「はぐれそうだったから、嫌だった?」
「い、いえ。う~~~~っ!」
な・に・こ・れ!!
ヨミが照れている!顔を真っ赤にして照れているぞ?!
いつもヨミにはしてやられているというのに、いざ2人でデートとなって手を繋いだらこの反応ですよ。
なんか逆に俺も恥ずかしくなってきた。
「じゃ、じゃあ続きを見て回ろうか!」
「は、はい!」
なんか、いざデートって思うと気恥ずかしいものがあるな。今までお風呂にも入った仲だというのに。
いや、むしろデートも無しに一緒に風呂に入っていることが問題なのか?
「アウル、あそこの露店が面白そうですよ!」
んん?ヨミが何か見つけたみたいだ。何を見つけたんだ?
「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ここにある黒武器はなんと!武器迷宮とも呼ばれるナンバーズ迷宮No.7産の武器だよ!さぁ買った買った!どれも金貨10枚だよ~!」
黒武器、ってなんだ?
「ヨミは黒武器って何か知ってる?」
「話だけですが、なんでも使い手と共に成長する武器だとか」
「へぇ・・・」
使い手と一緒に成長する、ねぇ。それは面白そうだな。でもそんなに凄いものならもっと売れてもよさそうだけど、なんで全く売れてないんだ?
「なんであんなに売れないんだろうね」
「私が昔聞いた話では、黒武器は強くなる可能性はあるものの、最初が弱すぎて使い物にならないんだそうです。それに…」
「それに?」
「武器迷宮とも言われるNo.7迷宮では、白武器と呼ばれる真っ白の武器が出るんです。こっちのほうは最初から性能がそこそこ良くて色も綺麗と人気なんだそうです。黒武器は、見た目錆びている武器にも見えますからね」
確かに、言われてみると黒武器は錆びている武器に見えなくもない。
「でも白武器は成長しないんでしょ?」
「そうですよ。そもそも、アウルのような強さを求める人というのは、存外少ないんですよ?みんな、ある程度強くなれば、満足して胡坐をかき始めますから」
そういうものなのか。確かに、ある程度の強さを得て満足している人は多いだろう。
「それに、強くなればなるほど危険な依頼が舞い込んできます。有名になるのは何もいいことばかりではないということです」
・・・なるほど。強いものには責任が付きまとうってことか。
物語なんかでも、勇者はいいように使われているだけだしな。やはり、過ぎた力は身を亡ぼすってことだな。
「なるほどね。そんなやつらには黒武器より白武器のほうが合っているってわけね」
「そういうことです」
でも惜しいな。あの黒武器は面白そうではある。・・・そういや、武器と言えば。
「そういえば、2人がガルさんに作ってもらった武器には名前を付けたの?」
「つけましたよ。こっちの水属性短剣がウォーティ、こちの風属性短剣はシルフと名付けました。今では私の大事な相棒です。この子たちには何度も助けられました」
やっぱりヨミはセンスがいい。水と風にちなんでいるところがまた良いな。
短剣二振りを愛おしそうに持っているところを見ると、本当に大事にしてくれているのが直ぐにわかる。
それに手入れも行き届いているのか、全然刃こぼれもしていない。
「ルナにも今度聞いてみよう。・・・俺もそろそろ武器買おうかなぁ」
ん?これは。
「おじさん、この黒いステッキみたいなやつも黒武器なの?」
「おやいらっしゃい!それがねぇ、それも一応黒武器なんだけど、なぜか杖なんだよ。黒武器を仕入れたときに混ざってたみたいでね。全く売れないんだ」
いや、他の黒武器も売れてないけど。とは言わないでおく。
「これ、売ってもらってもいいかな?」
「それも金貨10枚だけど、いいかい?」
「はい、金貨10枚」
「まいどあり!」
これでこの黒武器は俺の物だけど、やっぱり見た目は良くない。
触ってみて思ったけど、別に錆びているわけではないようだ。持ち手まで黒っぽいけど、いずれはミスリルとかで銀色にしてみよう。
黒武器面白そうだし、ちょっと本気出してこの武器を育ててみようかな!名前はある程度育ってからつけよう。
「じゃあ、まだまだ時間はあるし色々見て回ろうか」
「ふふふ、もちろんです」
もうこのときには自然と手を繋いで、蚤の市を回っていた。
※※※
「いや~、蚤の市楽しかったね!」
「はい、お目当ての魔道具も売っていましたし、これでいつでも連絡が取れますね!」
「そうだね。さて、次はどこへ行こうか?」
蚤の市でいろいろ物色していると、伝声の魔道具を見つけることが出来たのだ。これがあればいつでも連絡が取れるようになる。
何軒も露店を回ってなんとかルナとミレイちゃんの分も見つけられたので、いいお土産になりそうだ。
ただ、いらないお土産までついてきたみたいだけど。
「…ヨミ、気づいてる?」
「もちろんです。伝声の魔道具を買ったあたりからずっとつけられていますね」
伝声の魔道具が高かったからか、それともヨミが綺麗だからかは不明だけど、デートの邪魔は許せんな。
「どうする?」
「うふふ、デート中は男性が女性を守るものらしいですよ?」
おっと、これは野暮なことを聞いてしまったな。では、ゲストには悪いが早々に立ち退いてもらおう。
ヨミの手を取って人気のない裏路地へと向かう。
「そろそろ出てきたらどうですか?」
「へへへっ、なぁんだやっぱり気づいてたのか。なら話は早いぜ。その女と金を置いてさっさと失せな。じゃないと、死ぬぜ?」
出てきたのは如何にも冒険者崩れといった見た目のゴロツキが5人。
その手には既にナイフが握られている。
「正当防衛成立だな。新しく買ったステッキを試すには丁度いいだろう」
収納から黒いステッキを取り出してかまえる。身体強化を念のためにかけておくのを忘れない。
ヒルナードに言われた通り、相手の恩恵を考慮して戦う練習にもなるだろう。
「ヒャハハハハ、なんだお前黒武器使いかよ!そんな弱っちい武器を使うとか頭イカれてやがんな!」
「口だけは達者だな。かかってこないならこちらからいくぞ?」
「あぁ?!調子に乗んなよガキが!お前らやるぞ!!」
リーダーらしき男の掛け声とともに全員で俺のほうへと襲ってくる。
狭い路地なのに一斉に来るとは本当に頭の悪いやつらだ。
「ふふふ、アウル頑張って」
俺の後ろにいるヨミは一人だけ楽しそうだ。応えるためにもさっさと終わらせるとするか。
杖を自分の背後に真っ直ぐと伸ばして構える。
こいつらは新技で片づけてやる
《杖術 太刀の型 破城閃》
構えた杖を敵めがけて振りぬくと同時に、杖に流していた無属性魔力を一気に爆発させる。
すると巨大な無属性魔力の斬撃が発生するのだ。この技があれば立派な城門すら破れるだろうと思って名付けた。
もちろん、本気で使えば死人が出るほどの威力を有しているので、力はかなりセーブしている。
属性魔力を込めると、その属性斬撃が飛ばせるからとても便利な技だ。
「「「「ぐわぁぁっ!」」」」
これで全員倒したと思ったけど、どうやら一人だけ異物が紛れ込んでいたようだな。見た目は思ったよりも小柄で華奢な男だ。
「ちっ、想定より強いな…」
「仲間がやられたってのにえらく理性的だな」
「まぁ、仲間ってほどの仲じゃないしな」
俺を襲撃するためだけに近づいた、臨時のパーティってところか?
「で、どうする?まだやるの?」
「…いや、ここは引かせてもらおう。詫び代わりにそいつらは置いていく。衛兵にでも突き出せばいくらかは金になるだろう」
お金には困ってないけど、悪人を捕縛できると考えたら、一応衛兵に突き出しておくか。
「もう二度と絡んでくるなよ。次来たら、こうだぞ?」
軽く魔力重圧で牽制しておく。軽めだが、はったりには丁度いいだろう。
「っ!…あぁ、肝に銘じておく。俺も命は惜しいんでね」
言い残して、小柄な男は去っていった。
それにしてもどこの手の者だろう。単純に女と金目的なのか、それとも俺たちの命を狙ったのか。
おそらく後者だろうが、今はデート中だ。捕まえて尋問なんて野暮なことはしない。
とはいえ、何者かが俺たちを狙っているのは確かだろう。これは少し気を引き締めたほうがいいだろうな。
とりあえず、こいつらは縄でぐるぐる巻きにして衛兵に突き出すとしよう。
「アウル、かっこよかったです!うふふふ、ドキドキしてしまいました。ほら、わかりますか?」
「え?」
むにゅん
自然な感じで右手を掴まれ、まるで最初からそこにあるのが普通かと思えるくらい当り前に、俺の右手を左に胸へと押し付けた。
「今、とってもドキドキしているんです」
「ちょ、ちょっとヨミ?!」
むにゅむにゅん
「んっ…!動かしたらだめですよぅ…」
いやいやいや!こっちのほうがドキドキだわ!
「もうヨミ!また俺のことから、かって・・・」
またいつものようにからかわれているのかと思い、ヨミの顔を見たらそんな考えもどこかへ行ってしまった。
「…ヨミ?」
「~~~っ、顔見ないでください!」
ヨミが間違いなく照れている。いつもはあんなに飄々としているというのに、今日は違う。
ちょっと背伸びをしている女性と言う感じだ。なんというか……滾るな。
ヨミが頑張ってくれたんだ。俺も何かしないと、男が廃るか。
「ヨミ、これからも何があっても俺が守るよ。だから、これからも俺の傍にいてほしい」
「ふふふ、はい!ありがとうアウル!大好きっ!」
抱き着かれたと思ったら、唇にヨミの柔らかくて瑞々しい唇が触れた。
「えへへ!私もアウルとキスしちゃいました!」
やられてばっかりは性に合わないなっと!
「んむっ……!」
お互いハグしていたので、俺からもキスしてみた。
やっぱり、好きな人とキスするのは、心にじんわりとくるものがあるな。
「んんんっ?!」
と思ったらヨミの舌が?!
なんか、こう、生きてるみたいな!
「…ぷはっ!ふふふ、私もアウルの初めてもーらった!」
「・・・・・ふぁい」
軽いキスと違って、深いキスは脳髄に響く何かがありました、とだけご報告しておきます。
「アウル!まだデートはこれからだよ!」
時折でるヨミの敬語の抜けた喋り方がまた可愛い。そのときは、大人の女性というよりは、年相応の少女というか、そんな感じに思えてしまう。
ヨミの顔は夕日のせいか、いつもよりも綺麗に赤く色づいているように見えた。
今後もゆっくりと更新します。評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
ヨミ可愛い・・・。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。
 




